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 タイムアタック式ダンジョン攻略が始まって三十分。

 既にボスである『ダゴン』までの道のりは埋まっている。

 復活石からマッピング部隊、最後の一人、ばよえ〜んが帰ってきた。


「どうだった?」


 少し早めに戻って、他のレギオンとのマップ共有を進めていたジョーが聞く。


「ここと、ここ、あとこっちでとなりのガイアさんとムーンチャイルドさんと合流できました」


 全体の八分の一。俺たち『りばりば』の担当分と他レギオンとの合流地点が確認できた。


「良くやってくれた!

 これで勝率を上げられる。

 俺たちはムーンチャイルドと合流後、『ダゴン』へと挑む。

 途中、雑魚はいないはずだが、充分に注意だけはしてくれ。

 それじゃあ、予定通りに全員動いてくれ!

 出発!」


 ジョーの言葉を聞いて、俺たちはダンジョンへと突入する。




 ダンジョン内部。

 下はクレーターのため、立体迷宮になっていて大型『ガイガイネン』を床や階段代わりにする部分などはかなり緊張感がある。

 俺は飛んでいるから関係ないが、動かない『お約束』というだけで、あと二十数分後にはこいつらも移動するかもしれないし、『ダゴン』が『お約束』を放棄すれば、簡単に俺たちはこいつらに潰されて死ぬと思うと、度胸だけでは前に進めなくなる。

 『ダゴン』を信用するわけではないが、自分の中のそういう感覚を麻痺させていないと、とてもじゃないが、折り重なった『ガイガイネン』の中を進んでいくのは難しい。


 俺たちは地図を頼りに、『ムーンチャイルド』との合流地点に向かう。

 途中、生き残っている前の組の人員を見つけた時は彼らとも合流していく。

 敵として登場予定の犬くらいの大きさの超小型『ガイガイネン』や軽自動車サイズの小型『ガイガイネン』は殲滅部隊がしっかりキレイにしてくれている。

 十分で合流地点に到着。

 『ムーンチャイルド』の『ホワイトセレネー』たちがすぐ見えて、本来ならば敵同士なのにも関わらず、俺たちは少しホッと息を吐いた。


「前衛はウチがやるミザ!」


 『マンティスミザリー』こと煮込みが音頭を取って、一気に『ダゴン』の待つボス部屋へと突入する。


「ルーララー、愚かな者たちよ!

 さあ、我を讃えるが良い!」


 巨体だ。

 身長5mはあるだろう、巨体の半魚人が大型『ガイガイネン』を椅子代わりに座って、両手をゆるく持ち上げていた。

 真上から光が差していて、神々しさと荘厳な印象を受ける。


「あは……アハハハハ……」「おお……真なる理とは……」「捧げるべきはこの周りの肉たちか……」


 誰かが笑った。また誰かは頭を押さえて穴という穴から血を流しながら、虚空の何かを見つめていた。両手を上げて賛美の言葉を紡ぎはじめるやつもいる。


 無理もない。ソレは俺たちなど初めから相手にしていなかった。ただ、在ることが尊く、優しくソレの一部として受け止めているだけなのだ。


「全員、アレを見てはいけない!

 正気に戻って!」


 未だその偉大さ、尊さ、深き底の安らぎに気付けない者がこの場の空気を掻き乱している。

 なぜ分からないのだろうか?

 いや、気付けぬ者は気付けぬのだろう。

 それはただの肉に過ぎず、捧げられるべきもの故に気付けぬようにできているけらだ。

 我が主に捧げられるべきものがあるならば、それを捧げるのが信徒としての……。


───全状態異常耐性フェンリル成功。───


 意識にモヤが掛かり、光に包まれ慈愛に満ちた世界に見えていたモノの醜悪さが俺を満たした。

 ログを確認する。『狂気』の状態異常を打ち消したとある。

 クトゥルフ系のやつかよ。しかもパッシブっぽい。


───ちょっと、しっかりしてよ!───


 俺の左肩のじぇと子が必死に俺の頬を引っ張っていた。

 同時に自分がどうなっていたかを悟り、その嫌悪感から、腸が煮えくり返る。


 くそっ! くそっ! くそっ!


 周囲に目をやれば、半分くらいのやつに変異が始まっている。

 半魚人化。

 嬉しそうに水かきが伸びていく手から透かして『ダゴン』を眺めているやつは、顔の形が魚化しそうになっている。


「お願い! 見ないで! 精神攻撃よ!」


 『ホワイトセレネー』が訴えつつも、その視線は『ダゴン』に釘付けになっていた。


「ゐーんぐっ!〈見なきゃいいんだろ! 【夜の帳(ダークネス)】〉!」


 俺は味方に向かって【夜の帳(ダークネス)】を連発した。


「ぬお……く、暗い……」「なんだ!? 何が起きてる?」「青い鳥……どこに消えた?」


 十人くらいのやつらは、半魚人。マーマンというより魚人間のように肉体が変異していて、そいつらはもう正気じゃなかった。

 ふらふらと『ダゴン』に向けて歩きはじめてしまう。


「ルーララー。贄なりしか」


「こノ身を、我がシュに捧げマス……」


 それ以外のやつらは何とか正気を取り戻したようだが、『暗視』状態に戸惑っていた。


「ゐーんぐっ!〈やつを見ると狂気の状態異常になるぞ! 見るな!〉」


「ミザ? そういうことミザ……。

 みんな、落ち着くミザ! 今、目の前が暗いのは仲間が掛けてくれた暗視の状態異常ミザ!

 『ダゴン』を見ると狂気の状態異常になって、戦うどころじゃなくなるミザ!」


「くっ……すぐ分かったのに、どうにもできませんでした……」


 『ダゴン』は半魚人と化した者の心臓をくり抜き、その血を浴びて愉悦に浸る。


「ルーララー。抗いし者たちよ。時を待て。すぐにまた、我が光に酔い、醒めることなき至上の極楽へと誘われん……」


 スキルを放つ様子もなく、悠然と佇んでいる姿から、やはりパッシブスキルらしいと俺は確信した。


「くっ……どうしたら……」


「グレンは見えてるミザ?」


「ゐーんぐっ〈ああ、少しなら大丈夫だ〉」


「方向だけ教えて欲しいミザ」


 俺は『マンティスミザリー』の身体の向きを『ダゴン』へと向ける。


「【愛の狂気(ペルセウス)】!」


 『マンティスミザリー』から斬撃が飛ぶ。

 ユニークスキルの怪人バージョンだ。

 ダメージは1点が二回でハート型の傷が『ダゴン』に刻まれる。

 『ダゴン』がようやく俺たちを見た。


「ル……我が威光に仇なすか! 【パンの管理者(グラトニー)】!」


 それは広範囲に波のような衝撃波を放つスキルだ。

 方向感覚を狂わされ、体力とHPを奪う。

 ヒーローと怪人が瀕死で生き残ったが、戦闘員は全滅だ。

 能力値が万単位の割りには、威力が弱い。

 さらに『ダゴン』の身長が少し縮んだ気がする。


 うっ……体力ががっつり奪われ、腹が減る。

 普段【神喰らい(オオカミ)】を使った時とはまた別種の空腹感だ。

 慌ててインベントリから食い物を出して、食らう。


 生き残った者たちも似たようなものだった。

 ただ、ヒーローたちは顔全体を覆うマスクをしているため、食えないのか、腹を押さえて蹲っている。


「行くぞ!」「「「うおおっ!」」」


 別の入口から他のレギオンのやつらが到着した。

 勢い良く入って来たはいいが、すぐに足を止めて、『ダゴン』を見つめて震えはじめる。


「ゐーんぐっ!〈くそっ!〉」


 結果的に俺たちは全滅した。

 だが、ひとつだけ分かったことがある。

 『ダゴン』を見て、狂気に陥ったやつは、自分たちがどうやって死んだのか覚えていなかった。

 つまり、『ダゴン』のパッシブスキルはそういう効果があるということだ。

 ようやく、幾つかスキルらしきものが判明した時点で、今日の攻略は終わりになってしまうのだった。



おまけ。

本編だとスキル名出せないのとかありそうなので。


【ダゴン】信者の血を浴びて巨体になる

見てはいけない(インサニティ)】パッシブ。狂気に陥り、正気度〈マスクデータ〉を失うとディープワンに変異する。

パンの管理者(グラトニー)】方向感覚が狂い、体力とHPにダメージ。波形の広範囲攻撃。縄跳び感覚でタイミングよくジャンプすると避けられます。

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