327〈対ダゴン〉
『シュリンプマン〈模倣人格・ヤマタノオロチ〉』の存在値は四百点ほどになった。
だが、残念ながら、倒した瞬間には俺は死んでいるので、倒した実感などなかった。
結果的に、そこからプレイヤー側の快進撃が続いているので『ガイガイネン』は確実に減っている。
東方面の軍演習場辺りまで来ると『ガイガイネン』が見えなくなった。
フィールド的には続いているように見えるが、どうやら見えない壁でそこまでしか行けないようだ。
東方面の駆逐が終わったので、南方面クレーターへの進軍が決められる。
全力展開四日目が終わって、これなら充分な戦果だろう。
水曜日。
東方面に展開していたレギオンが北と南に増援として動いた。
やはり数こそパワーだ。
次の『シュリンプマン〈模倣人格〉』はすぐに見つかった。
今や『シュリンプマン〈模倣人格〉』こそが敵の首魁として活動している。
残り二体。
クレーターの『ダゴン』、巨大樹の『ニーズヘッグ』が確認されている。
俺たちが目指すのは『ダゴン』の方だ。
数こそパワーということを見せてやろうと、俺たちの士気は高い。
他のレギオンの頑張りによって、周辺の『ガイガイネン』は掃討済みで、山の中腹にあるクレーターに向けてすでに包囲網が敷かれている。
「「「一人一撃!」」」「「「一人一撃!」」」「「「一人一撃!」」」
東方面に展開していたやつらは、念仏のように同じ言葉を唱えながら山を登っていく。
士気が高いのはいいが、ちょっと怖い。
クレーター近くまで来ると、俺たちの足が止まり、その異様な光景に息を呑んだ。
壁だ。
『ガイガイネン』が折り重なって、壁になっていた。
その周囲をぐるりとプレイヤーたちが遠巻きに囲んでいる。
何故、睨み合いのようになっているのか?
大きな声が聞こえた。
「ルーララー! 我が神殿に新たな挑戦者が現れたのは喜ばしきこと。
さあ、五分経った。次の挑戦者を入れるがよい!」
壁の一番下に居た大型『ガイガイネン』の一匹が前に出て、穴が開く。
そこに二十名ほどのプレイヤーが押し寄せ、中に入っていく。
暫くすると、穴になっていた場所に大型『ガイガイネン』が戻って、穴が塞がれる。
どういうことだ?
俺たちが疑問に思っていると、元から南方面に展開していたプレイヤーたちが教えてくれた。
これは『ダゴン』の仕掛けたゲームなんだそうだ。
このクレーターを覆う『ガイガイネン』の壁は『ダゴン秘密神殿』と呼ばれるダンジョンを形成しているらしい。
基本的にダンジョンの壁を形成しているのは大型のみで、こいつらはこちらがルールに従っている限り、何もしてこない。
ダンジョン内は迷路になっていて、中では小型と超小型『ガイガイネン』が敵役として登場する。
これらを排除しながら中央の『ダゴン』にたどり着ければ、『ダゴン』と戦えるというのだ。
扉役の大型『ガイガイネン』は五分に一度、三十秒だけ穴を開ける。
穴は周囲に八ヶ所開く。
踏み込めるのは、その穴が開いている時だけらしい。
何故、こんなルールに従っているのかと言えば、最初はルールに従う意味などないと、全員攻撃を行ったが、織田信長の三段鉄砲よろしく、壁役の『ガイガイネン』から間断なく放たれる座標爆破を攻略できないから、なんだそうだ。
『ダゴン秘密神殿』内部も大型『ガイガイネン』の壁によってダンジョン化されており、進み続ける限りは手出ししてこないということらしい。
つまり、内部で合流待ちをしたりするのはルール違反と判断されるようだ。
ただし、内部で他の入口から入った味方と合流するのはアリで、実際に何度か『ダゴン』まで辿り着いたパーティーはいる。
『ダゴン』はHP回復スキルを持たないので、相手のルールに従って削れるだけ削っておこうということになっているらしい。
『ガイガイネン』の使う座標爆破にもウエイトタイムは存在する。
それを補うための三段撃ちなので、現状では打開策が見いだせない。
『ガイガイネン』の能力を見る限り、座標爆破に使うリソースが不明なので、無限に撃てるものかどうかも分からない。
俺たちは、打開策が出るまで、『ダゴン』のルールに従うしかないようだった。




