325〈対ヤマタノオロチ〉
「戦闘員はガイガイネンの排除を!
怪人は模倣人格を! 少しでも動きを止めてください!」
レオナが『りばりば』の面々に指示を出す。
俺はガチャ魂を長距離移動セットに切り替えて、指示に従う。
どこのレギオンも似たような指示だ。
ただひとつ、おそらくこの『シュリンプマン〈模倣人格・ヤマタノオロチ〉』を生み出してしまったのだろう『ポセイドンギャラクシー』だけは、全員一丸となって道を切り開こうと躍起になっていた。
「リリリリリ……上からならお前たちの弱点が良く見えるというもの!
ほら、そこが薄いぞ!」
『ヤマタノオロチ』が腕を振ると、それに併せて『ガイガイネン』たちがひとつの生き物であるかのように動いた。
そうして、大型『ガイガイネン』が大挙して一カ所に集まっていく。
それは新生したばかりの小規模ヒーローレギオン連合が担当している部分だ。
レギオンイベントで資産のほとんどを『マギクラウン』に奪われて、まともな武器を持たず、ヒーローの鎧も整備ができなくなったのか、グレードダウンしているのだろうと思わされるちぐはぐさが見てとれる。
小規模ヒーローレギオン連合が崩れてしまうと、敵は背後に回り放題になってしまう。
各レギオンは自分たちの持ち場を維持しながら、そちらへのフォローもしなくてはならなくなった。
そうして戦闘員たちがどうにか持ち堪えている間に、俺たち怪人・ヒーローは『ガイガイネン』を飛び石代わりにしたり、移動系スキルなどを駆使して『ヤマタノオロチ』へと迫る。
「くらえ、【座天使の突撃】!」
「リリッ……【八岐大蛇】」
『ヤマタノオロチ』の背中から光背のように青黒いヘビの首が七本伸びる。
首ひとつは腕くらいの太さだが、長い。
名を知らないヒーローが幻影の古代戦車に乗り込んで突っ込んでいく。
幻影の巨大な馬がひく戦車ごと体当たりする技のようだ。
それを二本のヘビが幻影の巨大馬の首に噛みついて止める。
そこに三本目のヘビが、にゅるりと迫って、戦車に乗るヒーローに噛みついた。
「ぐっ……HPが、吸われる……」
「くそ、助けるんだ!」
怪人が三人がかりで、三本のヘビに取りついて口を開かせようとするが、怪人の膂力を以てしてもヘビの顎は外れる様子がない。
ヒーローと巨大馬がまとめて粒子化していく。
「気をつけろ! ヘビが迫っている!」
三人の怪人に新たな三本のヘビが迫っていて、誰かが警告を発した時には既に怪人たちの首にヘビが噛みついていた。
【八岐大蛇】によって生まれた首は放射状に伸びているように見せて、途中で折れ曲がり、『ガイガイネン』の陰に隠れるように移動している。
地面が『ガイガイネン』によって見えないような状況では、ある意味、完璧なカモフラージュだった。
「リリリ……【濁流】」
『ガイガイネン』によって隠された七つのヘビ首から毒の黒い水流ブレスが放たれる。
空から狙っていた俺も撃ち落とされる。
痛えっ!
まるで身体全体が鞭打たれたような激痛が襲った。
状態異常『劇毒』にかかる。
必死に落ちないように翼を操作する。
───『状態異常全耐性』成功───
全身が爛れた。HPポーションを被っても被っても、足りないほど急速にHPダメージが入ったが、なんとか持ち直す。
地を行く奴らは悲惨だった。
痛みはなくとも、身体の動きが制限されたらしく、何人ものヒーローと怪人が、足を滑らせ『ガイガイネン』の海に落ちた。
これが『ガイガイネン』の奔流を押しとどめようとしている戦闘員に向かいでもすれば、一瞬で戦線は瓦解するだろう。
『ヤマタノオロチ』は両腕で『ガイガイネン』を操り、七つのヘビ首でヒーローと怪人の相手をしている。
厄介だな。
近づく隙を見せない。
遠距離攻撃をしようにも普通の遠距離攻撃スキルでは距離が足りない。
距離:視界という超遠距離攻撃スキルもなくはないが、他のやつが放った超遠距離攻撃スキルは普通に避けられてしまう。
俺たちは山裾から向かっているのに対して、相手は山の頂上だ。
そして、山肌には様々な種類の『ガイガイネン』がびっしりと埋めている。
俺一人の攻撃が届いても、動きを止められるのは一秒に満たない。色々と犠牲を払えばなんとかなるかもしれないが、今の誰も近づけていない状況でそれらを使う意味はほぼないと言っていい。
それに、自分の動きを止めると、下から座標爆破が飛んで来る。
結構な手詰まりだ。
俺たちは打開策が見つからないまま、なんとか距離を縮めようと足掻くのだった。




