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大規模レギオンのプレイヤーは一斉に、各レギオンのポータルに飛び込む。
ポータルを用意できなかった中小レギオンは、『飛行場』のものを使って、空を行く。
ものすごい数のプレイヤーだ。
そして、少数ながら俺たちを見送ってくれる『シティエリア』の住人たちもいた。
本来なら復興で忙しいはずだ。
さらに今回のイベントでたくさんのNPC住人が帰らぬ人になっている。
俺たちに構っている余裕がある人など皆無なはずなのだ。
それに、ここにいるのはヒーローだけではない。
今回のことで俺たち怪人レギオンのことを知ろうとしてくれた人たちも、さらに少数ながら存在している。
色々なものを脇に置いてでも、俺たちに声援を送る人々がいるのだ。
俺は更なる気合いが入るような気がした。
『ガレキ場』。ひとつめの『トンネル』があった付近、どこかの吹き飛ばされたビルのある程度マシな状態で残された地下駐車場。
そこに俺たち『りばりば』の一方通行ポータルがある。
俺は復活石の入った袋を腰につけ、変身した姿でそこに降り立つ。
既に『りばりば』の面々には【言霊】による『祝い』をつけてある。
『ガイガイネン』どもは『トンネル』を掘るくせに、地下駐車場はノーチェックだ。
あくまでも『トンネル 』は移動手段でしかないということだろう。
四百人からなる『りばりば』の精鋭たちが移動を開始する。
慎重に斥候役が周囲を確認、
途端に悲鳴が上がる。
俺たちは大挙して駐車場を出ていく。
一歩、外は既に『ガイガイネン』の世界と化している。
「くそ、俺たち以外の餌なんかどこにあったんだよ!」
誰かが叫ぶ。ヤツらが増えるためにはプレイヤーやNPC住人などを取り込んで増えるとされている。
住人を食い尽くして、プレイヤーが訪れなくなった以上、爆発的な増殖は不可能と観られていた。
「おい、巨大樹が!」
言われて意識を向けると、御神木が成長してできた巨大樹にびっしりと小型『ガイガイネン』が張り付いていた。
実を落とすように、新しい『ガイガイネン』が産まれては、落ちていた。
植物からも産み出せるようになったと考えるのが自然だろう。
たしかに、辺り一面、緑の姿が消えていた。
俺たちの敵はまたもや進化したらしい。
復活石をばら撒くと、手当り次第に敵を叩いて回る。
広域殲滅ならば【氷の女王】や【一揆呵成】などの出番だろう。
氷雪フィールドを作り、毒貫通ビームで大量に数を減らす。
今ではただの『ガイガイネン』は経験値が少し貰える障害物に過ぎない。
存在値を持たない『ガイガイネン』をいくら倒したところで、障害物を取り除いたという意味しかないのだから。
それでも、今はまず数を減らす。
そのことに専念して、俺たちは少しずつ『ガレキ場』に俺たちの空間を確保していくのだった。
「おい、あっちにシメシメ団が見えるぞ!」
「よし、あちらに進軍だ! 味方と合流する! 各自、復活石の確保を忘れるなよ!」
オオミの指示が全体に届いて、進軍方向が決まる。
まるでそれは陣取りゲームのようだった。
少しずつ『ガイガイネン』のいない空間を作っていく。
味方と合流すれば、より大きな空間を確保できる。
「ムーンチャイルド発見! マンジとその他幾つかのレギオンの姿も見える!」
空間を確保して、少しずつ味方と合流して、さらに大きな空間を確保する。
プレイヤー自身が壁になって、アメーバのように俺たちの生存圏を拡げていく。
全員が『ガイガイネン』のパターンを覚えてしまっている。
事故は起きるが、それ以外は順調だった。
遠く航空機が行き来する姿が見えてくる。
『港』方面でも攻略が始まったようだ。
そうして、俺たちはある程度の空間を確保したら、ガレキやスキル、持ち込んだ資材でバリケードを築く。
土曜日の攻防はそれなりに効果を見せて終わるのだった。




