321〈一ヶ月〉
それは、ある日唐突に起こった。
科学文明側のレギオンイベントである。
レギオン『マギクラウン』は強引なヘッドハンティング〈実態は遊んでいた軍関係者を無理矢理マギクラウンに移籍させた〉によって他レギオンを怒らせた。
これが確執の元となって他レギオンによる『シティエリア』本部の焼き討ちが起こったのである。
実はこれに静乃たちは関わっていない。
科学文明側レギオン戦闘員に化けて、工作を仕掛ける予定だったが、それをするまでもなく、勝手に爆発が起きたのだった。
『マギクラウン』が対話を拒絶したのも大きかった。
どこのレギオンの問いかけも無視。
科学文明側フィールドでもゲーム内セオリーを無視して好き勝手やりまくった。
横殴り、PK、トレインからの擦り付け、などなど、枚挙にいとまがない。
その上でのヘッドハンティングで、他レギオンがキレた。
ただ問題だったのは、それが同時多発したのではなく、順番に起きたことだった。
中規模レギオンが次々に打倒されていった。
他レギオンと交友のない『マギクラウン』は諸々が謎で、情報が出回っていない。
いきなり現れた中規模レギオンというくらいしか認識されていなかった。
だが、強引な手法とヘッドハンティングによって、他の中規模レギオンとのレギオンイベント勃発時には大規模レギオンに昇格していた。
その状態で他の中規模レギオンの資産を押さえたことで、味をしめたらしく。
一か所ずつ喧嘩を売るようになっていった。
そうして大きくなっていくと、小規模レギオンが結託、マギクラウンに喧嘩を売った。
小規模レギオンといえど、連合すると馬鹿にはできない規模になる。
だが、そのせいで『ガイガイネン』イベントは停滞した。
ただでさえ、中規模レギオンがいくつも崩壊して、『ガイガイネン』イベントが戦力不足に陥っていたのに、さらに小規模レギオンのほとんどが『マギクラウン』への復讐に燃えてしまった。
大規模レギオンは、抜けた他のレギオンの分の人員をなんとか埋めようと大動員をかけて持ち堪えたが、結果的に小規模レギオンのほとんどが、最初からのやり直しになってしまった。
これがこの一ヶ月の出来事である。
静乃たち『グレイキャンパス』はこの負の連鎖を止めようと必死に動いていたが、『ガイガイネン』イベントでも動きがあり、手が回らなくなった。
それは『シュリンプマン〈模倣神格〉』の更なる進化が起きたことである。
討ち漏らした『シュリンプマン〈模倣神格〉』が右半身の甲殻類系の姿を捨てていた。
元になった戦闘員をそのまま筋肉を肥大させ怪人化させたような姿から『シュリンプマン〈模倣人格〉』と呼ばれた。
こいつらを倒すには、大規模レイド〈三百人規模〉の討伐隊を作らねばならなかった。
今まで四体の『シュリンプマン〈模倣人格〉』が確認され、討伐数は一体だけだった。
『シュリンプマン〈模倣神格〉』相手に三十~六十人で戦っていたことから考えると、五倍~十倍の強さということになる。
もちろん、これは死に戻り前提の話で、延べ人数では考えたくなくなる強さだ。
そして、皮肉なことに、それらはプレイヤーたちの結束を固める結果となった。
頭を悩ませたプレイヤーたちは、一時的に『ガレキ場』を放棄することにした。
それ以外の『シティエリア』の確保が優先された。
必要であれば、ヒーロー、怪人の区別なく協力して、各区を解放していった。
新たな『トンネル』も発見され、その『トンネル』もなんとか埋め戻し、『ガレキ場』以外の『シティエリア』は解放。
そうして、俺たちは、もう一度『ガレキ場』に挑むことになるのだった。
とある土曜日。
プレイヤーたちはざわついていた。
「今頃、向こうはどうなってんだろうな……」「俺たちプレイヤーって餌はないんだ、そこまで酷いことにはならんだろ」「でも、今までのパターンから行くと、駆逐の目処が立ったら問題が起きて、またやり直しだろ……楽観視できねえよ」
空に向かって空砲が数十発。
全員の視線が『飛行場』の片隅に作られた壇上へと向けられる。
壇上に立つのは、各大規模レギオンの代表たちだった。
この場に集まるプレイヤーは、おそらく数万人規模だろう。
だが、『マギクラウン』はいない。
壇上で一人が前に出る。
レギオン『ヴィーナスシップ』の『ロータスフラワー』だ。
「これより、ガレキ場攻略作戦を開始する!
海を渡り、ガレキ場を解放せよ!」
地鳴りのようなプレイヤーたちの叫びが辺りを覆うのだった。




