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に、二話目だよ!

今日はこれで終わりだよ。


 扉を開けると確かにバスケットコートが広めに二面は取れそうな広間と、その周囲に二階席と言いたくなる通路がある。

 正面には金属製の鎧を着た大鬼が、うつむき加減で床几に座っている。

 肩に立て掛けている金棒は細身で、長い。

 大鬼がこちらへと視線をやる。

 三白眼。1本の捻くれた角。なにより人ではないと思わせるのが下顎に外付けされたかと思わせるような2本の大きな牙だ。


 大鬼は座ったまま、待っている。


「ゐーっ! 〈よし、行くか! 〉」


 俺たちが室内に入る。


───『破滅の主・将軍大鬼ジェネラルオーガ』の範囲に入りました───


───『ボス戦』に移行します───


───『ボス戦ルール』によりフレンドリーファイア無効・感覚設定30%upが適用されます───


 大鬼がゆっくりと俺たちを見据えながら、立ち上がろうとする。


「ゐーっ! 〈『賢明さ故の勝利(テュール・テュール)! 』〉」


 俺の宣言により、俺から不可視の何かが飛ぶ。

 それは大鬼の頭上に張り付いたかと思うとHPバーとして表示される。

 5000。それが大鬼の命だ。


 さらに俺には見える。大鬼の牙の根元、そこにターゲットカーソルが見えている。

 しかし、そのターゲットカーソルはとても小さいものだ。

 狙って撃てる場所じゃねぇ……。


 立ち上がった大鬼は金棒を地面と水平に、両手で前に見せつけるように晒して、咆哮した。


「ごぅおおおおおぉぉぉっ! 」


 俺の前に煮込みとサクヤが立つ。

 それぞれが盾を構えていた。


「うわぁ、便利アーツシザ! 」


「はじまりますよー! 」


 大鬼が金棒を片手でひと振り。軽々と動かして、こちらへと駆けて来る。


「んじゃ、行くシザ! 【両断刃ペルセウス】! 」


 煮込みの開幕奥義が炸裂する。

 500近いダメージで、そのまま大鬼はノックバック。防御姿勢を取って動きが固まる。


「グレン、やるシザ! 」


 俺とレオナは散開しつつ銃撃を加える。

 とりあえずフルオート! 

 居酒屋で「とりあえず生ビール! 」くらいの感覚でフルオート射撃を浴びせる。

 1発10点ちょいのダメージでも、5、6発も当たればほろ酔い程度のダメージにはなる。


 それでもレオナの弾丸1発の半分くらいのダメージだけどな。


 開幕奥義と俺とレオナの攻撃で、大鬼のHPは簡単に一割減った。


「ぐおがぁぁああっ! 」


 大鬼がその場で金棒を縦横無尽と振り回す。


「おっと、危ないシザ! 下手に近付くと連続ダメージだから注意シザ! 」

「これが将軍大鬼ジェネラルオーガの配下召喚の動きですー」

「グレンさん、周囲に警戒してね! 」


 煮込み、サクヤ、レオナと口々に説明してくれる。

 安全に戦えるのはありがたいことなので、素直に感謝しておこう。


 広間の左右に扉が現れる。

 その扉から一体ずつ出てくるのはゴブリンファイターだ。

 粗末ながらも武装していて、一体はサクヤに、もう一体は俺に向かってくる。


 俺はリロードした『ベータスター』を構えて迎撃する。

 ゴブリンファイターは連携してくる敵だ。

 俺に向かいつつも、微妙に煮込みの方に寄っていこうとする。

 どうやら、俺を惹き付けつつ、将軍大鬼の援護に向かいたいらしい。


「ゐーっ! 〈なめんなよ! 〉」


 煮込みは将軍大鬼を惹き付けるべく、そちらに向かっているので、ゴブリンファイターが近付くと挟撃される形になってしまう。

 俺はゴブリンファイターに一気に近付く。

 俺が近付くことで、ゴブリンファイターは俺を排除しなければならなくなる。


 ゴブリンファイターとの距離が縮まったことで、ゴブリンファイターは決断する。

 まず始末すべきは俺、と決めたようだ。


 肉迫の距離。

 ゴブリンファイターが得意とする至近距離だと、俺の『ベータスター』は不利だが、別に俺の攻撃方法は『ベータスター』だけではない。


「ゐーっ! 〈【回し蹴り(ベスト・キッド)】! 〉」


 俺の回し蹴りとゴブリンファイターの粗末な剣がぶつかり合う。

 結果、俺は足を斬られ、代わりにゴブリンファイターをぶっ飛ばした。


「ゐーっ! 〈痛ーっ! 〉」


 粗末な剣なのがいけなかったのか、刃こぼれだらけの剣は俺の足の肉を削ぐように抉った。

 俺は懸命に痛みに耐えながら、HPポーションを取り出し、ぶっかける。


 バキューン! とレオナのハンドガンが火を吹いて、ダメージの入ったゴブリンファイターの息の根を止める。


「グレンさん、大丈夫? 

 ボス戦だとデフォルトの感覚設定でも30%アップすると50%になるから、それなりに痛いわよ…… 」


 俺は少しの間を開けて、痛みに耐えてから、立ち上がる。


「……ゐーっ! 〈……なあ、100%だと130%になるのか? 〉」


「え、もしかして、また『リアル』設定でやってるの!? 」


 レオナが目を見開いて俺を見ていた。


「えっ!? 感覚設定『リアル』シザ!? 」


「『リアル』ですかー。痛いのが気持ちいい系の方なんですかねー? 」


「ゐーっ! 〈んなわけねーだろ! 痛いもんは痛いわっ! 〉」


「なんで、そんな無茶を…… 」


 レオナが心配そうな目を向けてくる。

 煮込みとサクヤは、もう一体のゴブリンファイターをとっとこ始末して、すでに将軍大鬼へと向かっている。


「ゐーっ…… 〈いや、一度『リアル』にしたら戻れないだろ? 感覚が全然違うんだから…… 〉」


 俺は言い訳っぽく、そう口にした。


「そんなに違いますか? 私、『リアル』にしたことないから分からないですけど…… 」


「ゐーっ! 〈え! ないのかよ? 〉」


「私もないシザ! 」


「ないですねー。やっぱりグレンさんはそっち系の…… 」


「ゐーっ! 〈違うわっ! 〉」


 サクヤはどうも、俺の性癖ってことにしたがってるが、断じて違う。

 あれ? でも、レオナも『リアル』にしたことないのか? 


「ゐーっ? 〈そもそも、感覚設定上げる話とかレオナがしてなかったか? 〉」


「いえ、確かに装備作成なんかは感覚設定上げた方がいいって話はしましたけど、それだって50%もあれば充分ですよ。

 なんで、感覚設定100%なんてことになるんですか!? 」


「ゐーっ…… 〈いや、食い物の味とか違うし…… 〉」


「はあ…… 」


 レオナに呆れられてしまった。


「ゐーっ! 〈大事なことだろ! 〉」


「今はこちらも大事ですよー。ほら、次の雑魚が出ますよー! 」


 サクヤと煮込みは話しながらもしっかりと将軍大鬼のダメージを稼いでいたらしい。

 まあ、サクヤはスキルレベルが、煮込みはキャラレベルが違うからな。


 将軍大鬼が召喚したのは石兵〈弓〉が三体だった。

 ご丁寧に二階席に出現しやがる。


 俺はスコープで狙いをつけて攻撃する。


「ちょっ……グレンさんは回避中心に! 

 100%の痛みじゃ、まともに動けませんよ! 」


 そう言うレオナのハンドガンは、近距離武器で射程が届かない。

 それを補うためか、レオナは特殊弾を装填する。

 たしか『強化炸薬弾』とか言う射程を伸ばす弾丸だったか。


「ゐーっ! 〈大丈夫だ! 当たらなければどうということはない! だろ! 〉」


 ダンッ! ダンッ! ダンッ! と慎重に狙いをつけて一体を排除。


「MP回復しないとスキル撃てないシザ! 」


 煮込みは開幕奥義を使っているからな。ずっと将軍大鬼を釘付けにするため、ポーションを被る余裕もないようだ。その割にはしっかり話に混ざる余裕はあるけどな。


「じゃあ、盾代わりますねー」


 サクヤがスキルで防御を高めながら、煮込みと将軍大鬼の間に割り込んでいく。

 俺はもう一体の石兵〈弓〉を排除するべく狙いを付ける。


「グレンさん! 」


 レオナの悲鳴のような声と同時に、俺の背中には矢が突き立つ。


「ゐっ! 〈ぐっ! 〉」


 そりゃ、しっかり狙い付けてたら相手からも狙われるか。

 俺は慌てて死角になる柱の陰に身を潜め、HPポーションを振りかける。


 はーっ! 痛えーっ! 


 HPポーションを振りかければすぐに痛みは消えていくが、痛いものは痛い。

 だが、おかげで目が覚めた。

 どうも周りが優秀すぎるので、普通にやると気が抜けるな。

 ただのゲームをやってる気になるというか……いや、ただのゲームなんだがな。


 素早く残った石兵〈弓〉を片付けたレオナが、俺の隠れる柱にやってくる。


「グレンさん、大丈夫ですか!? 」


 駆け寄ったレオナが、HPポーションを渡してくる。


「ゐーっ! 〈すまん、だがもうHPポーション使ったから大丈夫だぞ〉」


「いえ、矢を抜きますから、覚悟して下さい」


 言ってレオナは刺さったままの矢に手をかける。


「ゐーっ! ゐゐゐーっ! 〈ちょっ……まっ……! ぐああぁぁぁっ! 〉」


「早く、ポーションかけて! 」


 言われるままに動こうとするが、下手に一度、矢が刺さったまま回復したからか、ちょっと尋常ではない痛みを感じる。

 異物感がなくなったのはありがたいけどな。

 せめて、覚悟を決めさせて欲しかった……。


「ダメですよ! 『リアル』でやってる以上はこういう部分も気をつけないと! 」


「ゐ、ゐーっ…… 〈お、おう…… 〉」


 どうにかポーションを使って痛みを緩和させる。

 後で聞いた話だが、鏃や弾丸などが身体に残っている状態で身体を回復させると、怪人変身した時に『古傷』として弱点判定を受けたりするらしい。

 こまけぇな。


 だが、この時点でそのことを知らない俺は、ちょっとだけレオナに恨みがましい目を向けてしまう。


「……とにかく、グレンさんはこのまま隠れてていいですから、ダメージだけ貰わないようにしてて下さいね! 」


 言うだけ言って、レオナは将軍大鬼へと向かってしまう。


 そんなわけにいくか。

 心の中に色々と溢れてくる。


 そもそも、今回のボス攻略を言い出したのは俺で、感覚設定『リアル』でやってるのも俺だ。

 レオナや煮込みにしてみれば、初心者講習の続きくらいのつもりかもしれないが、俺はもう初心者ではない。

 サクヤが言うように、Lv20あれば挑むに足る相手のはずなのだ。


「よし、次、来るシザ! 」


 煮込みたちは順調に将軍大鬼のHPを削っている。


「ゐーっ…… 〈俺は…… 〉」


 将軍大鬼の召喚に応じたのは木製ゴーレムが五体だ。


「ゐーっ! 〈俺は選んで『リアル』でやってんだよ! 〉」


 柱の陰から飛び出した俺は、手近な木製ゴーレムに突撃を仕掛ける。


「グレンさん! 」


 『ベータスター』のフルオート掃射! 

 今のレベルなら木製ゴーレムにはオーバーキルだが、関係ない。

 マガジンを抜いて、装弾。

 近付く別の木製ゴーレムにグレネードをお見舞いして、さらに別の個体へと近付く。

 ゴーレムが殴りに来る。


「ゐーっ! 〈【緊急回避ウルフ・ステップ】! 〉」


 2メートル横にズレて、ゴーレムは空振り。

 その隙に近付いて【回し蹴り(ベスト・キッド)】! 

 足りなきゃこれもくれてやる! 

 ダダダッ! と『ベータスター』が吠える。


 そのまま標的を変えて、と既に木製ゴーレムは始末済みだ。

 なら、将軍大鬼だ。

 残りの弾丸を横から食らわせる。


「ゐーっ! 〈レオナ!これでも隠れてろって言うのか! 〉」


「グレンさん、近過ぎです! 」


 サクヤから注意が入ると同時、将軍大鬼が俺を狙ってくる。

 俺をなめてるような大振りの攻撃。

 なんとなくその軌道が見えるのは【回避】が働いているのだろう。

 しゃがんで躱す。いや、躱しきれずに金棒が掠る。

 激痛。肩に当たった金棒の棘が俺の肉を抉りつつ、俺は吹き飛ばされる。


「ゐーっ! 〈まだまだーっ! 〉」


 俺は立ち上がり、また近付く。


「グレン、どうしたシザ! 」


「ゐーっ! 〈お前ら、俺を認めろー! 『リアル』は俺が望んでやってるんだ! お前らに接待プレイして欲しい訳じゃねーよっ! 〉」


 将軍大鬼の金棒が迫る。

 もう間違えねえ!【緊急回避ウルフ・ステップ】! 【回し蹴り(ベスト・キッド)】! 


 将軍大鬼が少しだけ怯む。


「はい、受け取りますよー! 」


 サクヤが将軍大鬼の背後からショートソードの連続突きを放つ。

 将軍大鬼は慌てて背後へと向き直る。

 将軍大鬼の金棒をいなしながらサクヤが言う。


「私たちの気の回しすぎでしたねー。

 グレンさんが望んで『リアル』でやってるなら、信じて背中を預けるべきってことですねー」


「ああ、そういうことシザ…… 」


「でも、感覚設定『リアル』ってリアルに痛いってことですよ!? 」


 レオナが目を丸くしている。


「ゐーっ! 〈いいんだよ! 俺はこれでいくって決めたんだ! 〉」


 俺はHPポーションとMPポーションをバッシャンバッシャン使い、『ベータスター』に装弾する。


「もう、なんで変なところで頑固なんですか、グレンさんは! 」


 レオナは少しむくれたように言う。


「わかったけど、グレンは体力も回復しとくシザ! 肉体系のスキルは体力の消耗が激しいはずシザ! 」


「ゐーっ! 〈おう! 少し任せる! 〉」


 俺は少し離れて、おにぎり〈鮭〉をエナドリαで流し込む。


「ゐーっ! 〈くそー! レオナの紅茶飲みてぇ…… 〉」


 おにぎり〈鮭〉とエナドリαの食い合わせはイマイチだ。甘くない飲み物が欲しい……。


「え、こ、紅茶ですか!? 」


「ゐーっ! 〈ああ、部屋で飲ませてもらったのあるだろ。アレが今までで一番美味かったからな! 〉」


「え、あの……え…… 」


 何故かレオナは頬に両手を当てて考え込んでしまう。

 ちっ! どさくさに紛れて、約束してもらおうと思ったが失敗か……。


「イチャついてないで、回復したら復帰して下さいねー」


 サクヤは煮込みと盾役を交代して、MPポーションを使っている。

 そんなんじゃねえよ、と返して俺は将軍大鬼へと向かう。


 将軍大鬼のHPバーは5割、6割と順調に減っていく。


「次、来るシザ! 」


 将軍大鬼の召喚! 

 現れたモンスターを見て、サクヤが緊張感のある声を出す。


「あ、最悪なパターンですー」


 俺には何故それが最悪なのか、その時点では分かっていなかった。


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