表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
318/447

317


 気がつくと、俺は病院の一室と思われるところで寝ていた。


「おお、気がついたか!」


 おじいちゃん先生が目の前に居た。


「悪い……また迷惑かけちまった……」


「迷惑?」


「ちょっと記憶が曖昧なんだけど、喧嘩だろ?」


「喧嘩?」


 おじいちゃん先生が顔いっぱいにハテナを浮かべている。

 その、老けた顔を見て、俺の記憶が一斉に蘇ってくる。


「おじいちゃん先生って、やっぱ老けたよな」


「ふん。余計なお世話だ……」


「悪い、悪い……ところで、どうやって俺はここに?」


 俺が【希望(ヴォーン)】を放った後、表面上に現れた状態異常は、兵士が悶え苦しんで倒れ込んだだけで、燃えるでもなく、毒に冒されるでもなく、表面的には何も異常が見られなかったらしい。

 ただ、何らかの状態異常は起きていたようで、「たましいが焼ける」というような表現で苦しんでいたということから、何かしらの状態異常は起きていたのだろう。


 その後、SIZUたちは苦しむ『マギクリスタ』と気を失った俺を回収して逃げたそうだ。


「マギクリスタ……」


「ああ、どういう理由か、情動操作らしきものが解けたようでな。ただ同時に今まで使えていたリアルスキルもほとんど失くしていて、今は地下で寝かしている。

 操られていた間の記憶も残しているようだから、しばらくは彼女と色々話してみないと何とも言えないところだ。

 もっとも、私が見ている限りは、素直に話しているように見えるがな……」


「情動操作が解ける?」


「本人の言葉によると、小さい頃に亡くしたはずの親が生き返って、色々教えてくれていたような気分だったらしい。

 目が覚めてから、話していたら、次第にその辺りの忌まわしい記憶が戻ってきたようでな、最初は淡々と話してくれたんだが、その後、だいぶ取り乱して、大変だった。

 だから、今は薬で眠らせているところだ」


 たしか情動操作は記憶のすり替えのようなことをして、対象が自発的に言うことを聞くような状態にするはずだ。

 本当に、その呪縛が解けて、全てを思い出したのだとすれば、取り乱すのは当たり前だろう。

 捕えられ、薬と拷問で精神をぐちゃぐちゃにされて、さらにはその相手に親愛の情を抱くよう刷り込まれて、相手にいいように使われるのだ。

 それら全てを思い出してしまうというのは、どういう気分なんだろうか。


 死にたくなるのか、全てを壊してやりたくなるのか……とにかく、ろくでもない想像しかできない。


 そんな『マギクリスタ』の内情を想像して、陰鬱な気持ちに引かれそうになるので、それを振り払うべく別の話題を考える。


「あれ……そういえば、俺ってどうなったんだ?」


「お前は丸二日寝込んでいたよ」


「は?」


「腕や足に埋まった弾丸は勝手に出てきて、外傷も勝手に治った。

 医者いらずでいいご身分だな」


「ワーウルフの自動回復スキル……。

 いや、それより仕事が!」


「静乃くんが会社には連絡してくれているよ。

 良くできた娘さんだな。お前と違って」


「え、あ、はあ……」


 静乃が上手くやってくれたようだ。


「もう少し、マギクリスタが落ち着いたら、色々と分かることも増えるだろう。

 お前の検査結果から言うと、もう健康そのものだ。

 胃の中は空っぽだろうがな。

 もう退院でいいから、早く帰ってベッドを空けてくれよ」


 言われてみれば、腹がぐうと鳴った。


 俺は言われるままに、家に帰ることにするのだった。




 腹が減っていた。とにかく、腹が減っていた。

 帰ってすぐ、料理機(ホームメイダー)を全力稼働させて、飯を食う。

 食って、作って、食った。

 それでも、満たされなくて、また作って、食った。

 全く胃の中に溜まる感じがせず、俺は十人前近く食った。

 ようやく、人心地(ひとごこち)ついた。


 今まで自分がそこまで大食いができることを知らなかった。ちょっとびっくりだ。

 二日、食事を抜いた後で三日分以上を食べることになるとは思わなかった。

 『リアじゅー』のアバターなら、驚くことはないが、現実でコレは驚きだ。


「ふぅ……」


 食べ疲れて、腹を擦る。

 なんだか、あまり膨れてない。

 普段から体重管理などしていないので、あまり自覚はないが、なんだか変な感じだ。

 まあ、二日間絶食していたら、そんな風に感じるのかもしれないと、あまり気にするのはやめた。


 静乃に連絡を入れて、礼を言いつつ、口裏を合わせておく。

 それによると、俺は酷い風邪をひいて、熱が四十二度まで上がり、泡をふいて倒れたことになっていた。

 静乃に礼を言ったが、あんまりの口実に少しの苦情も申し立てておいた。

 いつ、俺が目覚めるか分からないから、重めの病状にしておいたと言われたら、それ以上は言えなくなってしまった。


 まあ、静乃の言うことももっともだったので、俺はそれ以上、何も言えなかった。

 明日、部長に何と嫌味を言われるか、それを悩みながら、俺は寝るのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] じゃああの玉はやっぱガチャ魂だったのか、下手するとゲーム側のガチャ魂ロストしてたりしたら哀しいなw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ