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戦闘は長時間に及んだ。
『シュリンプマン〈ヤクシャ〉』が弱ると『シュリンプマン〈天使〉』から回復が飛び、『シュリンプマン〈天使〉』を先に仕留めようとすると、『シュリンプマン〈ヤクシャ〉』の範囲攻撃でフォローされてしまう。
「ゐーんぐ!〈くそ! 連携取られると厄介だな!〉」
「グレン、なんとか引っ張れないミザ?」
「ゐーんぐ!〈ダメだ。こいつら学習してやがる。離れたら不利になると分かってる動きだぞ!〉」
「これはジリ貧ですねー。ユーピテルメモリーなんて、もう人数は半分くらいですよー」
これがゲームとしてある以上、リアルとの兼ね合いでログアウトするプレイヤーは責められない。
現実では夜二十三時を回った。
一般的な社会人組は死亡と同時に諦めてログアウトしていくやつが増えていく。
本来なら俺もログアウト組だが、既にレベル上限まで育った『シュリンプマン』たちを捨て置くという判断は、現実への影響が未だ不透明な対『ガイガイネン』戦では不可能だった。
もちろん、『りばりば』では本部に応援要請を出して、深夜組と呼ばれるやつらを招集、送って貰っているが、いつ終わるか分からない戦闘はストレスが溜まる一方で、心が折れるやつも出てきていた。
「仕方ないミザ……グレンに泣いてもらうしかないミザ……」
「ゐーんぐ!〈おう、何か案があるなら言ってくれ!〉」
既に俺も六回ほど死亡している。
しかも、ユニークスキルを全解禁しているにも関わらずだ。
【神喰らい】は一度も当てられていない。
移動系スキルでかけたフェイントは必ずもう一匹の『シュリンプマン』に邪魔される。
怪人に変身している俺の状態異常スキルは、それでも他のプレイヤーよりは効いていると願いたいが、かなり効きは悪い。
とにかく、『シュリンプマン』同士の連携が厄介なのだ。
「グレン、首輪のやつ頼むミザ!」
煮込みがそう言う以上は、何かあるんだろう。
俺は一も二もなく【誘う首紐】を放つ。
さっきは『シュリンプマン〈天使〉』の自分を中心とした防御的座標爆破で消し炭にされたからな。
今、『シュリンプマン〈天使〉』は座標爆破を使ったばかりだ。ウエイトタイムの間は大丈夫なはず。
あとは『シュリンプマン〈ヤクシャ〉』からの横槍をもらわないように気を張る。
俺の左腕と『シュリンプマン〈天使〉』の首が鎖で繋がる。
「今、ミザ!」
煮込み、今は変身中なので『マンティスミザリー』の号令の元、怪人たちが俺を掴んだ。
「ゐ、んぐっ!」
なるほど、なんとか引っ張る〈物理〉ことにしたらしい。
あだだだだだだだ……ヤバい、ヤバい、俺の腕がちぎれちゃう!!
そう思ったのもつかの間、『シュリンプマン〈天使〉』と俺は、そのパワーの名のもとに宙を舞った。
お互いの身体を重りにして、妙な軌道を描きながら俺と『シュリンプマン〈天使〉』は跳んだ。
結果的に、無理やりにでもシュリンプマン同士の距離を離すことで、連携を崩すことには成功した。
これによって、どうにか『シュリンプマン〈天使〉』の撃破に成功。
撃破できたからいいが、そうでなければ、ちょっと暴れるくらいはしてたぞ、俺。
「一本釣り、成功ミザ!」
「「「おお!」」」
次はもう少し考えてから提案に乗るとしよう。
俺は深く心に刻んだ。
さて、次は『シュリンプマン〈ヤクシャ〉』だ。
ポーションのおかげで痛みがなくなったはずの左腕をさすりながら、俺は次なる目標へと八つ当たりの目を向けるのだった。




