308〈はじめてのスターレジェンズ〉
数日後、配信ニュースに犯行声明が流れた。
「超能力者よ立ち上がれ! 国家の暗部に飲み込まれるな!
現政権は超能力者を死亡したものとして実験動物扱いしている。
俺たちは実験動物となった超能力者を救い出す正義のために動いている!
スターレジェンズ」
ご丁寧に他の動画配信系SNSなどにも犯行声明は載せられていた。
俺は頭を抱える。
くそ! やられた!
本人たちが超能力者を助けられなかった腹いせなのか何なのか良く分からないが、最悪の暴露だ。
情報ソースなし、証拠なしでの暴露など誰が信じるというのか。
現にニュースでは完全にテロリスト扱いの上、SNS上では愉快犯ではないかという書き込みだらけになっている。
一部では『リアじゅー』に毒されたバカなど、微妙に琴線に触れている書き込みなどもあった。
おじいちゃん先生から電話が来る。
「神馬か、ニュースは見たか?」
「やられたな……」
「やり方が稚拙過ぎる。ちなみにSNSに投稿されたアカウントは捕らえられた超能力者のものだと白せんべいくんが言っていた。
おそらく超能力者の恋人か、知られていない近親者の仕業の線が濃厚だろうという話だった」
確かに正義を訴えているが、復讐の色合いが見える気がする。
そうなると、この稚拙なやり方というのも納得できるような気がした。
「それで、おじいちゃん先生はこれからどうするべきだと思う?」
「……変わらんな。
私たちは悪として、あいつらと闇で戦う。
スターレジェンズの仕業と言われるかもな」
「まあ、汚名を着せることになりそうだが、仕方がないか……。
ただ、これで俺たちが戦う相手が軍の一部隊から、国そのものに変わっちまったわけだ」
全てを揃えてからの暴露ならば違うのだろうが、中途半端な暴露ほどダメなものはない。
軍の暴走で片付けるには重く、そうなれば完全に隠蔽するか、最初から無かったものとして扱うか、とにかく徒に時間を与えることになる。
「それでも、変わらんよ。
元々、相手は権力者だ。ひとつ間違えれば、いつでも国が相手になる可能性はあった。
早いか遅いかの違いだけだ。
なんとかスターレジェンズの連中を見つけられれば、こちらに取り込んで守ってやれるかもしれんが、今はどうにもならんな。
どぶマウスくんが調べてみるとは言ってくれたが、国と我々、どちらが早いか……」
超能力者である以上、確かに助けられるものなら助けたいとは思う。
国に捕まって、闇から闇へでは、あまりに悲し過ぎるからな。
「実力行使が必要なら呼んでくれ。
若い連中と違って、俺なら汚れ仕事もやれるからな」
ただでさえ強大な相手が、さらに強大になってしまった。
今後は温いことを言っていられなくなるかもしれない。
自分から汚れたいとは思わないが、俺より若い連中が手を汚すくらいなら、俺が汚れるべきだろう。
「ははは、それを言うなら、まず私からか……」
「ああ、おじいちゃん先生は今まで散々、人を救って来たんだ。ちょっとくらい汚れたっていいかもな」
「ふん、生意気を言うじゃないか。
私は医者だぞ。聖人君子じゃないんだ。救えなかった命など幾つもあるよ。
そういう意味では、既に汚れているようなもんだ」
「じゃあ、いざとなったら、おじいちゃん先生、俺の順番だな」
「ふん、よかろう」
おじいちゃん先生は鼻を鳴らして答えた。
おじいちゃん先生も俺も、なんとなくこの先は今までよりも厳しい覚悟をしなければならないと考えている。
冗談めかして言っているが、それがなんとなくお互いに分かった。
俺はもう一度、必要なら呼んでくれと念押ししてから電話を切った。
スターレジェンズ。
いかにも科学文明側っぽいネーミングセンスだ。
堂々と正義を謳うところも含めると、ますます科学文明側のプレイヤーなのではないかと思わせる。
『リアじゅー』内で、探せないだろうか。
そんなことを考えつつ、俺は仕事に向かうのだった。




