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 大首領との話し合いを経て、SIZUたちの検証が更に進んだ数日後のことだ。


 いつもの『大部屋』。壇上に立つレオナが、イベント参加者を前に演説をしている。


「グレイキャンパスから情報提供がありました。

 今のままのやり方では、今回のイベントはクリアできないことが分かりました」


「え、マザー倒して終わりだろ?」「どういうこと?」「順調に進んでるじゃん!」


 レオナの言葉にあちらこちらから声が上がる。


「今回のイベントは、ギミック付きのイベントだと判明したんです。

 なので、マザーを倒してもイベントクリアにはなりません」


「え、マジか!?」「俺らのここまで頑張ってきた意味は……」「もしかして、ずっと無駄骨?」


「もちろん、マザーも倒さなくてはなりません。

 ギミックの解説をすると、キーになるのは、どうやら『シュリンプマン』のようです。

 小型の『リサーチャー』、大型の『ケージ』、そして『ケージ』の進化形が『シュリンプマン』ですが、問題は『ケージ』、特に背中に『シュリンプマン』を載せた『ケージ』の段階で、星4、または星5の神話型ガチャ魂持ちを犠牲にすることで『シュリンプマン〈模倣神格型〉』というものが生まれるそうです。

 これを倒すことで『ガイガイネン』の存在値というステータスが解放されます。

 この存在値を0にしない限り、『ガイガイネンイベント』は終わらないようです」


「わざわざ生贄を出さないといけないとか、さすがクソ運営だな」「なんだそのクソギミック……」「神話型ガチャ魂ってなんですか?」


 まあ、確かにこれが運営の仕組んだことだとするなら、そういう声が上がるのは必然だと言える。

 俺としては、既に『リアじゅー』はただのゲームではないという前提の元に動いている。

 さすがに運営を責める気にもなれないな。


 レオナが上がってくる声に対して、ひとつずつ説明を始める。


「神話型ガチャ魂はいわゆるユニークと呼ばれる、世界各国に伝わる神話を元にしたただひとつのガチャ魂ということのようです。

 例えば、『星4天使(エンジェル)』は全てスキル構成が違っていて、実はユニークガチャ魂だと言うことが判明しました。

 つい、昨日の深夜帯に運営からのお知らせが更新され、この情報が出ました。

 いつも通りの運営対応なので、今更、多くは言いませんが……元々、星4、星5の情報はレギオン間でもかなりの重要機密として扱われて来たこの『リアじゅー』の歴史が、見事に裏目に出ることとなりました……。

 正直、何故、今頃になってという想いがあるのは、誰しもが味わっていると思います。

 ですが、これはいつも通りの運営対応です。

 目くじら立てるだけ、無意味です。

 それよりも、マザーを倒してぬか喜びしてから、クリアになりませんと言われる前に分かって良かったと思いましょう」


「またなのか、運営!」「でも、厄介じゃね?」「模倣神格型ってのは?」


「ちなみに、最近になってスキルを使う『シュリンプマン』の発見報告が出ているのは周知のことと思いますが、模倣神格型はその名の通り、犠牲になったユニーク持ちのスキルを模様して使うようになります」


「は? わざわざパワーアップさせるの!?」「ない……それは無いわ……」「ただのシュリンプマンだって一匹狩るのにかなりの人数が必要なのに、さらに難易度上げて挑まなきゃいけないとか、かなりマゾいぞ」


 ゲームとして捉えれば、確かにクソギミックだ。

 一部の星5、星4持ちだけが、わざわざ死ななければならないという不利益を被ることになる。


「スキルを模倣されるって、俺のスキルが全部バレるってことか?」「お前、隠すようなスキル持ってるの?」「あ、持ってなかったわ……」


「聞いてください。今回、生贄をやってくれたプレイヤーにはレギオンから特典が出ます。

 報奨金、次回以降で使えるボランティアポイント、装備の優先作成権、魔石、無料コンパク石などです。負担がある分、実入りはあると思ってくれていいです」


「無料コンパク石貰えるなら、やろうかな……」「装備の優先権貰えるの!?」「金よりは魔石を貰えるのがデカいか……」


 さすが、レオナは分かっている。生贄をやればプレイヤーが喜ぶものが貰える。

 こういう特典をつけられるのが、大規模レギオンの強みでもあるな。


 次第にプレイヤーたちにやる気が出てきているのが分かる。

 さて、俺はSIZUを通じて先に知っていた情報ではあるが、運営は『ガイガイネン』に『存在値』なるものを設定したようだ。

 SIZUによれば、運営側もようやく『ガイガイネン』の解析を進めた結果だろうとのことだが、さすがにこれについて大首領に聞きに行くのは、もういいだろう。


 レオナが先導する形で、戦闘員たちは魔石を登録、俺たちは『ガレキ場』の一方通行ポータルへと跳ぶのだった。


「ゐーんぐ!〈さて、死んで来るか!〉」


 俺は自分の両頬を叩いて、気合いを入れる。


「グレンさん、やめてください!」


 いきなりレオナに止められた。


「グレンさんのコピーをいきなり相手にするのはキツすぎます。

 最初は星4持ちくらいからにして、慣れることから始めさせてください」


 うーむ……俺のコピーなら、弱いと思うんだが、違うんだろうか?


 結果、最初は装備の優先作成権が欲しいという『サイクロプス☆☆☆☆』持ちの戦闘員が選ばれた。


 今日の参加者、八十人からなる集団で適当に『ガイガイネン』を釣って潰しながら、肝心の『シュリンプマン』を背負っていそうな『ケージ』を見つける。


「サイクロプス、行きまーす! とうっ!」


 戦闘員が孤立させた『ケージ』に向けて走っていく。


「ちゃんと食われろよ!」「座標爆破の音、注意だぞ」「殴られたら死ぬからな!」


「お前ら、うるさいぞ!

 黙って俺の生き様見とけ!」


 サイクロプス持ち戦闘員が振り向いて文句を言うと同時に、背後から来た『ケージ』が爪を上手く使って戦闘員を食った。


「おい、後ろ!」「来てる、来てる!」「爪が!」


「いいから、俺の……あうっ!」


 食われる時は一瞬だ。しかも、『ケージ』の場合、丸呑みなので、妙なシュールさがある。

 戦闘員の上半身が『ケージ』の口の中にあって、それが小さな鞭毛のようなもので奥へ奥へと運ばれていく。


 戦闘員が消えて、『ケージ』の背中の影がぐちゃぐちゃのマーブル模様のようになって、それからまた人影になる。


 全員が呆気にとられたように見ていた。

 分かっていることとはいえ、目の前で見るとなると、やはり衝撃的な場面ではある。


「こ、攻撃再開! ケージを倒してください!」


 我に返ったレオナの命令に、全員が反応した。

 『ケージ』は倒され、中から『シュリンプマン』が出てくる。

 左半身が真っ黒に炭を塗りたくったような人間で、右半身はエビやカニなどの甲殻類という『シュリンプマン〈模倣神格型〉』が出た。


「ろ前ら、るるさいぞ!」


 前にいた戦闘員三人が腕のひと振りで殺された。


「喋った?」「これが、その何とか型……」「ちょっとキモイな」


「ろ前ら、るるさいぞ!」


 ミュイン! と座標爆破の音がして、逃げ遅れたやつらが爆散した。


「ろ前ら、うるさいぞ! 【豪腕】!」


「スキルだ!」「アイツのだ!」「ぐわ、飛ばされる!」


 拳風ひとつで周囲の戦闘員が飛ばされる。

 さらに座標爆破が辺りを襲う。


「れれるあっぷら! 【邪眼】!」


「し、痺れ……」「くそ、動きが……」「こんなスキル隠し持ってたのかよ!」


 左半身の人型の目に見つめられた戦闘員は、動きが極端に遅くなる。

 それは、座標爆破の良い餌食だった。


「れべるあっぷだ! 【サイクロプス】!」


 それは巨大化スキルだった。

 『シュリンプマン』が戦闘員を倒すたび、滑舌は良くなり、新しいスキルが出てくる。

 ヤツの言葉を信じるなら、物凄い勢いで成長していることになる。


 これ、ヤバくないか?


 SIZUの実験の時は、相手が自爆系スキルを使ったため、それほどの間をおかずに倒せたが、今回はそうじゃない。

 この場の全員の頭の中に、ヤバい相手を作ってしまったという戦慄が走るのだった。



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