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 『シュリンプマン』が姿を現した。

 カニ脚のような手はそのままに、右半身は『シュリンプマン』だ。

 だが、左半身の甲殻がボロボロ崩れて、まるで人間だ。

 人間といっても、人皮の質感に『グレイキャンパス』のイメージカラー、灰色の肌色をしている。

 模倣元が響也だったからだろうか、左半身はかなり肉感があり、その人のようで人でない見た目は違和感によって、異様な気持ち悪さがある。


 『シュリンプマン』は自身の姿をゆっくり眺める。


「……ろ、るぉれら……れらい……」


 『シュリンプマン』が左半身の人の口を動かした。


「なにか喋ってる?」「戸惑っているようにも見えるな……」「どうする? 倒していいのか?」「まだ待って……」


「なぁにか……りゃれ、れる……ろま……ろう……らら……」


 右半身の海老の髭のような触覚が細かく動く。それは確かに情報を欲しているようにも見える。


「これ、放置で大丈夫なのか」「今しかチャンスないとか嫌だぞ」「変な進化してるよな?」


 さすがに『グレイキャンパス』の面々も不安なようだ。

 SIZUがやろうとしていることは分かる。

 前に言っていた『ガイガイネン神化計画』なのだろう。

 響也の持つガチャ魂、おそらく『星5イカロス』を模倣させることで、神格を与えようとしているのだとは思うが、何も知らない戦闘員たちが不安になるのも分からないではない。


 俺だってSIZUの目的というか、大首領様の言葉を聞いていなければ、今の内に倒すという選択肢を選んでしまうだろう。


 まさかこの『ガイガイネン』イベントでの戦闘がただ単にお互いを理解し合うためのコミュニケーションでしかないというのは、普通にやっていたら気付かないギミックだ。


「りんか……ろれ、りんか……りかろす……【蝋の羽根(イカロス)】」


 いきなり『シュリンプマン』が飛び上がった。


「なっ……」「いきなり!?」「ちょっ……」


 十数人を巻き込む形で落ちた『シュリンプマン』によって、巻き込まれた戦闘員が軒並み消えていく。

 『シュリンプマン』が叫んだ。


「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!

 これがっ! せかいっ! げんご……ことば……れべるあっぷ!」


 それまで左半身の人部分に表情がほとんどなかったものが、急に表情が色鮮やかになった。


「響也さんの『言語』スキルにポイントを振ったってところかしら?

 コミュニケーションスキルとしては、そっちの方が健全よね……」


 SIZUが頷いている。


「怖ぇっ! なんだよいきなり!」「SIZU、大丈夫なのかこれ?」「コイツ、いきなり喋れるようになったぞ!」


「よし、じゃあこれで一回倒してみよっか!」


「まだ進みそうだけど、いいのかにゃー?

 もうちょい生贄あげたら?」


「それはまた今度ね。これで消滅させられれば、それに越したことはないでしょ」


 ああ、SIZUの横にいるのは会長か。


「俺のコピーだと思うと、なんとも複雑な気分になるな……」


 復活してきた響也が言う。


「はんっ! アレは響也とは違うだろーが!

 優しさも気配りも足りなさ過ぎだぜ!」


 『リアじゅー』内では脳筋モヒカンという白せんべいが両拳を打ち合わせる。

 白せんべいは、ホントに違和感あるな。

 アレだけ本人と体型が違って、まともに動けるんだろうか?


 だが、そんな感想は俺の杞憂に終わった。

 元々、【蝋の羽根(イカロス)】は自滅技で、自身にもダメージが及ぶスキルだからだろう。

 戦闘開始からほんの数分で『シュリンプマン』は倒れ、今までの『ガイガイネン』と同じように、死んだエフェクトを出して消滅した。


「ほらー、もうちょい待つのが正解だったじゃーん」


 会長は納得したように言った。


「うーん、でも、今日は方向性の確認だけが目的だから、無理はしないよ」


「エフェクトが同じってことは、これも失敗か?」


 白せんべいが呟く。


「いや、会長の言うように、シュリンプマンをあのまま成長させれば、いいんじゃないか?

 変化はあった訳だし」


 響也が白せんべいに言う。


「まあ、少しずつやってくしかないよ。それこそ倒せないところまで成長されたら困るのは私たちだけじゃないし……」


「幹部会がまた難しい話してんな……」「まあ、任しときゃいいんだよ。どうせ、俺たちゃ底辺なんだ。これ以上は落ちないよ」「そうそう。ウチの幹部会なら面白くしてくれるよ、きっと……」


 神格を与える、か。

 神になったら、それこそ倒せなくなりそうな気もするが、『ガイガイネン』を真の意味で消滅させるためには必要なプロセスと信じるしかない。

 大首領の言葉を端的に実行した結果とも言えるしな。

 また、大首領と話してみるか。


 俺はそう決めると、SIZUとアイコンタクトを取り、そっとその場を離れるのだった。



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