301〈実験〉
SIZUに呼ばれて、『リアじゅー』内『ガレキ場』、三角山の麓、対『ケージ』戦をこっそりと見学している。
周囲に応援が呼びづらい森に隠れてしまった部分での戦闘だ。
大型の『ケージ』を一匹、しかも、背中の半透明なケージ部分の影からして、『シュリンプマン』が中に入っていそうなヤツが狙いだ。
この一匹を他の『ガイガイネン』から切り離して孤立させるために、『グレイキャンパス』は全労力を傾けたと言っても過言ではない。
他レギオンに極秘裏に展開されたこの作戦は、簡単にいえば『シュリンプマン神化計画』というものだった。
作戦開始前、物陰に隠れて『グレイキャンパス』のブリーフィングを見させてもらったが、それは『りばりば』とはまた違うタイプのものだった。
「今回は、ヤツに星5ガチャ魂持ちを食べさせます。食材担当は響也さん」
太ったイケメン響也が現実とほぼ変わらない体型のまま、静乃に促されて前に出る。
「美味しいお食事一号こと響也だ!」
『グレイキャンパス』の他の面々を前にして、響也が言う。
「皆からは、何故こんなことをするのか疑問を感じる人も多いと思うけど、必要なプロセスだと思って信じてもらうしかないわ。
内部に『シュリンプマン』を入れた『ケージ』を一匹だけ切り離して誘い、響也を食べてもらう。
その上で『シュリンプマン』に変化が出るかどうか。
他のレギオンには基本的に内緒です。
見つかったら、また全レギオンが敵になる可能性はおおいにあります」
「俺たちはSIZUを信じてる。問題ないな」「今さら全レギオンが敵って言われてもな……それが嫌なら野良なんか選ばないよ」「やべぇ感じすんな。どうしよ、ゾクゾクしてきた……」
野良たちは逞しい。
こんな訳の分からない作戦に誰一人、異を唱える者が出ない。それどころか、状況を楽しんでるやつもいる。
「うん、まあ、みんなならそう言ってくれると思ってた。
今回は総力戦だから、反体制側野良組は復活石使用、体制側の野良組は秘蔵の一方通行ポータルを使います」
俺は驚く。
『グレイキャンパス』の技術力は、野良故にレギオンレベルでは計れない。
なにしろ、全て人力だ。他のレギオンならレギオンレベルが上がれば、NPCからの技術提供や装備作成作業台のバージョンアップなどで作れるものが増えていくが、野良レギオンではそれがない。
なのに、レギオンレベル上位のレギオンでないと用意できない一方通行ポータルまで持っている。
普通じゃ考えられない。
確かに傭兵稼業なので大規模レギオンの内部に接触したりする機会は多いだろうが、まさか、である。
後から聞いた話によると、元大規模レギオン幹部が色々な事情で野良になって『グレイキャンパス』に入るというパターンが結構あるらしい。
そして、そいつらの情報を纏めて、アイテムの組成なんかを考察していくと、やれる事は意外と多いんだそうだ。
閑話休題。
たくさんの犠牲を出しながら、『ケージ』の切り離しに成功。森の奥深くへと誘うことにも成功する。
ここまでで第一段階だ。
『ケージ』は大型ガイガイネンの中では、それほど厄介ではないが、これに『食われてはいけない』『倒しきってはいけない』など条件をつけると難易度が爆上がりする。
時には味方によって食われそうになった戦闘員が殺される場面もあった。
意味も分からず参加している作戦内で、そこまでやれてしまう精神性が、『グレイキャンパス』らしさなのだろうか。
「くそ、捕まった! 俺を殺せ!」「ちっ! バカが! 無茶しやがって……」「早くしろ、一発で頼むぞ!」「迷わず逝けよ」
銃声が響く。
「あいるびー、ばっく……」「さらば、勇者よ……」「ふっかーつ! あぶねえ、喰われるとこだた……」「今のかっこよかったけど、近づき過ぎだぞ!」「わりぃ、わりぃ……」
負けプレイで遊んでいた。
野良はやっぱり、一段違うな。
「そろそろ行くよ!」
「よーし、下がれ!」
「美味しく食べてねっ!」
響也が走っていく。
む、『ケージ』の動きからして座標爆破が出そうだ。
だが、響也もそれを察知したのか、飛んだ。
「【蝋の羽根】!」
一瞬、飛んだ。そして、地面に落ちた。
響也の背後で、ミョイン! と音がして爆発が起きた。
響也が落ちた場所にはクレーターができていた。
空中からの落下攻撃スキルらしい。
リアルスキルでは響也は使えないスキルだ。
イカロス……たぶん、自爆系の星5スキルだな。
響也はそこから走って、綺麗なスライディングで『ケージ』の口元に入った。
『ケージ』は動きに反応して、口を開く。
すぽっ、と響也は丸呑みされた。
『ケージ』の背面、半透明部分の人影がふたつになって、それが混ざり合う姿が見える。
『ケージ』に喰われると、肉体をその場に残した状態で徐々に死ぬことになる。
消化に少し時間が掛かるのだ。
「攻撃やめ! 遠巻きに、逃がさないようにだけ注意して!」
SIZUの命令が飛ぶ。
全員が見守る中、響也はゆっくりと消化されていった。
十五分ほどだろうか……『ケージ』の半透明部分が光る。
中の人影がひとつになった。
「よし、シュリンプマンを出すわよ!」
全員の一斉攻撃が始まった。
『ケージ』は力尽きたのか、動かなくなった。だが、背面部分の人影が動く。
『ケージ』の背面部分を突き破って、透明な液体を零しながら、『シュリンプマン』の手が突き出るのだった。




