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レビューありがとう更新。

嬉しかったんや。後悔はない!


 『幕間の扉』前で辺りを見回す。

 お、頭上にサクヤって浮かんでいる戦闘員がががが……なんだありゃ? 


 サクヤは異質な戦闘員だった。

 桃色の全身タイツに黒地に金の刺繍がされた陣羽織、昔の戦国武将の上着みたいなのを着ている。

 さらに、目出し帽を被っておらず、顔は露出している。

 なんだろう、俺らはほぼ全身黒タイツのみだが、顔が隠れているのもあって、そんなに恥ずかしいとは思わなくなっているが、桃色の全身タイツに顔出し……やけに恥ずかしく感じてしまう。

 しかも、出ている顔は可愛い系美人の女性だ。

 これがなんとも微妙なエロチシズムというか、なんというか。

 また、胸や腰つきのラインもかなり扇情的でつい見てしまう。


「あ、グレンさんですね! よろしくお願いしますー! 」


 にこやかに挨拶されるのが、逆に俺の心をざわつかせる。

 黒タイツか、中にはレオナのように人間アバターの者もいるこの『りばりば』の秘密基地内で、桃色の全身タイツ、顔出しは相当に目立つ。

 だが、平然と周囲の目を気にすることなく、普通に挨拶されるという状況ゆえに違和感が先に来てしまう。


「ゐーっ! 〈あんたがサクヤか。よろしく頼む〉」


 なるべく平静に、務めてなんでもないかのように挨拶を返す。

 ここで動揺したら負けたような気になるからな。


「ゐーっ! 〈他のメンバーはもうすぐ来ると思う〉」


「はい、まだ少し早いですし、大丈夫ですよ〜! 」


 サクヤはおそらく自分のステータス画面を見ながら、おっとりとそう言った。


「ゐーっ! 〈そういえば、サクヤも【言語】スキルを上げてるのか? 〉」


「ええ、【言語】はカンストまで上げてありますから、大丈夫ですよ〜」


 スキルのカウントストップはLv30だろ。

 サクヤの戦闘員レベルは25のはずだから、計算が合わないような? 

 俺が考えていると、サクヤに話しかける人物がいる。


「サクヤさん、久しぶりね! 」


 お、レオナも来たか。

 サクヤが振り返って、レオナを見る。


「え? あ、レオナさん!? その、お、お久しぶり、です……えと…… 」


 サクヤは何を慌てているのか、俺とレオナを交互に見比べて、言葉を詰まらせる。


「ゐーっ! 〈ああ、名前は出さないでおいてくれと、言われたから伏せていたが、今日のパーティーメンバーのレオナだ〉」


「ごめんなさいね。でも、サクヤさんはこうでもしないと避けられちゃいそうだったから…… 」


 レオナが苦笑交じりに言うのに、サクヤはさらにしどろもどろという感じで。


「あ、いえ、それは……そんなこと……その、あの…… 」


「いいのよ。もう無理に『りばりば』でやっていって欲しいとは言わないから……サクヤさんには、サクヤさんのゲームスタンスがあるって分かったから…… 」


 うーむ、レオナとサクヤは何か因縁があるのか? そう考えていたら、煮込みが俺の背後から急に声を掛けてきた。


「それは、その『ブラクロ』の戦闘員姿と何か関係あるシザ? 」


「え? 」


 いきなり会話に入ってきた煮込みに、サクヤが驚いてフリーズするので、俺がフォローを入れる。


「ゐーっ! 〈こっちが煮込みだ。今日のメンバーのもう一人だな〉」


「怪人シザマンティスこと煮込みシザ! よろしくシザ! 」


「あ、はい。よろしくお願いします…… 」


「ゐーっ? 〈『ブラクロ』ってなんだ? 〉」


 俺の疑問に答えたのはレオナだ。


「正しくは『ブラック・クロニクル』。

 ベータテスト時、最大規模の怪人レギオンで、ベータテスト最後のイベントで滅ぼされたレギオンでもあるわ。

 サクヤさんは、『ブラクロ』の幹部だった人よ」


「おお、ベータテスターシザ! じゃあもしかして、リビルド組シザ? 」


「ただのリビルドじゃないわよ。私の知る限り、サクヤさんは、三周目のはずよね? 」


「え、あ、はい! その……いつまでも『ブラクロ』が忘れられなくて、申し訳ないです…… 」


 何故かサクヤさんは、レオナに平身低頭という感じだ。


「いいのよ。もう気にしてないから。だから、サクヤさんも気にせず、一緒に遊びましょうよ」


「レオナさん…… 」


「元々、ほら、私が『りばりば』の黒タイツにしたらどうか勧めたのも、早く馴染んで欲しかっただけだし、サクヤさんの拘りを否定するつもりじゃなかったのよ。

 でも、当時は『りばりば』も一気に人が増えて混乱してたから、つい口が滑ったというか……サクヤさん、ごめんなさいね…… 」


「ゐーっ! 〈えーと、つまり、ベータテスト最後のイベントで『ブラック・クロニクル』が滅んで、サクヤは『りばりば』に所属レギオンを変えたが、『ブラクロ』時代に慣れ親しんだ桃色全身タイツが捨てられず、それを気にしたレオナが黒タイツを勧めたのが切っ掛けで、サクヤはレオナに苦手意識を持っていた、ということか〉」


「グレンはずけずけ言い過ぎシザ……もう少し言い方とかあると思うシザ…… 」


 俺が話をまとめたら、煮込みからツッコミが入ってしまった。


「まあ、でも、大体その認識で合ってると思うわ。

 正直ね。私も若かったのよ…… 」


「ゐーっ! 〈いや、レオナは今でも若いだろーが〉」


「あー、まあグレンさんからしたら若輩者ですけどね……もっと私もピチピチしてバカだった頃もあるんですよ…… 」


 と、レオナは苦笑いしつつ、少しの茶目っ気を出して俺に向けて舌を出した。


「ゐっゐっゐっ! ゐーっ! 〈はっはっはっ!まあ、その頃じゃ今の色気は出てないだろうからな。レオナは今のレオナでいいと思うぞ! 〉」


「うわぁ、グレンがマジおっさんシザ…… 」


「ゐーっ! 〈うるせー! おっさんだからいいんだよ! 〉」


 そんな俺たちの会話を聞いて、サクヤはクスクスと笑っていた。

 少しは打ち解けてきたか? 


「ゐーっ! 〈サクヤ、こんなメンバーなんだが、いいか? 〉」


「あ、はい! こちらこそ、よろしくお願いします! レオナさんも、改めてよろしくお願いします! 」


「うん、よろしくね、サクヤさん」

「よろしくシザ! 」


 後は移動しながらということで、俺たちは『破滅の森の砦』へと転移した。

 サクヤはちょっと良い革鎧に盾、ショートソードを実体化させる。

 『ブラクロ』時代の陣羽織と合わせるとスタイリッシュ時代劇の武将みたいだな。

 ただ、鎧なんかは見せない方がいいんじゃないだろうかと思うんだが、普通に見せる着方にしているみたいだな。

 俺と煮込みは黒タイツ戦闘員、レオナは白衣にタートルネックセーターとズボン、サクヤはスタイリッシュ武将……まとまりがねえ……。


「ゐーっ! 〈ちなみにサクヤが三人目とかリビルドとかってなんだ? 〉」


「三人目? クローンじゃないシザ! 三周目シザ! ───三周目!? 」


 煮込みが俺にツッコミを入れつつ、改めて自分の言葉に驚いていた。器用なやっちゃな。


「あ、えとリビルドは戦闘員としてのレベルがカンストまで行ったら、スキルレベルだけ残して、最初から始められる仕様のことですね」


 サクヤが答えてくれる。


「ゐーっ! 〈ちなみにカンストって何レベルなんだ? 〉」


「150です」


 これはレオナだ。


「ゐーっ!? 〈それで三周目!? 〉」


 今、サクヤってLv25だろ。

 だとしたら、スキルにしてLv325ぶんのアドバンテージがあるのか!? 

 そりゃ簡単に取れるらしい【言語】とかカンストするわな。

 俺は持ってないけど。


 今はゲーム内では昼状況だが、現実は夜7時、もう少しするとピークタイムになって『遺跡発掘調査』は人が増えてくるだろう。

 普段はピークタイムに入ることが多いので、少し人が少なく余裕があるという印象だ。


 その余裕があるフィールドを一直線に砦まで進む。

 聞けば、レオナはLv130、煮込みはLv89、サクヤはLv25だがスキルはシャレにならんくらい持っているらしい。


 サクサク進む。

 完全にパワーレベリングと化している。

 森部分での狩りはほぼ無視で、いきなり砦へと突入する。


 巨石の迷路。

 ここは一度来ているから、あまり苦はない。


「ゐーっ! 〈ここの巨石って登れるのか? 〉」


「登れますけど、高さがマチマチな上、全ての壁が繋がっている訳じゃないですから、迷路を抜けるという意味ではあまり役に立たないですね」


 まあ、立体迷路だとよくある話ではあるよな。

 上から見て、正解ルートを覚えて脱出とかを簡単にやらせないように、色々と工夫しているらしい。


「まあ、一番最初に来られる場所だからこそ、何度も来て道とか覚えちゃってるんですけどね! 」


「それなシザ! 」


 レオナと煮込みは楽しそうに『あるある話』をしていて、サクヤもそれにのっかろうと懐かしそうな顔で話す。


「一番高い巨石の頂上にある宝箱とか、ベータ時代は取り合いでしたしね! 」


「ああ、確定で魔石が出る宝箱! 」


「ゐーっ! 〈そんなのがあるのか? 〉」


「今と違って、ベータテスト初期は『遺跡発掘調査』で解放されていたのが『破滅の森の砦』だけでしたからね。

 今よりも魔石が出る確率も低く設定されていて、どこのレギオンも魔石不足だったんです。

 なので、確定で魔石が取れる宝箱は貴重だったんですよ」


「当時は戦争だったシザ…… 」


「でも、楽しかったですよ〜! 」


「まあ、凄い馬鹿なことしてた記憶はあるわね…… 」


「ゐーっ? 〈どんな? 〉」


「マンジ・クロイツェル占拠事件とか、ブラクロ巨石爆破未遂事件とか、色々あったシザ…… 」


 元々、巨石の頂上まで登攀するのは命懸けの行為だった。

 宝箱は2時間もあればリポップするので、そのリポップを狙って、たくさんの戦闘員たちが巨石をどうにか登ろうとするが、もちろん他レギオンのライバルには邪魔をするのが当たり前というのがベータテスト時代。


 そんな中、マンジの連中が巨石への登り口を占拠して、周りのレギオンと対立、結果として戦闘が頻発してPK大量発生。

 シメシメ団やブラクロはPKKが稼げると気付いて、戦争直前までいったというのが『マンジ・クロイツェル占拠事件』。


 これは怪人側レギオン全体の損失にしかならないとガイア帝国が調停に動いて、それが発端となって、怪人側レギオン同士に交渉の概念が生まれたとか。


 占拠ではなく早い者勝ちという制度が導入され、巨石登攀中のPKが禁止になると、ブラクロは巨石を破壊して登攀せずに済むようにしようと巨石自体の破壊を目論んだ。

 巨石の頂上部分だけ下に落としたら、そこに宝箱が出るはずというのがブラクロの主張で、それなら命懸けの登攀が必要なくなるはずという目論見だったらしいが、りばりば、マンジといったレギオンがそんな確実性のない話には乗れないと猛反発。


 これは、レギオン同士の対抗戦イベントが始まったので、そこでトップを取ったレギオンの主張を通そうという話になり、ガイア帝国がトップを取った。

 これが『ブラクロ巨石爆破未遂事件』。


 そのガイア帝国はその宝箱を1ヶ月毎の持ち回りで占領を提案。

 条約が締結された。


 が、そこまで行った時には次の『遺跡発掘調査』地である『静寂に漂う小島』が解放されて、さらに運営から魔石の取得確率を上げるアップデートがあって、危険な登攀をする者がいなくなってしまった。

 怪人側レギオン全体に争いが虚しいという空気が漂って、一時期それはそれは平和な時が流れたんだとか。


 それもまた別の事件があって、平和は長続きしなかったというのが、怪人側レギオンっぽい。


 『りばりば』が『マンジ・クロイツェル』と組んでいた時期があったとか、『ガイア帝国』が争いを諌めようとしていた時期があったとか聞くと、なかなかに歴史のようなものがあるんだな、と感慨深い。


 そんな会話をしている間に巨石の迷路も迷うことなくクリアして、石壁エリアへと足を踏み入れるのだった。


 戦いらしい戦いはしていないのに、レベルだけは上がる不思議。

 怖いな、パワーレベリング。


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[良い点] 一気読みしました!やっぱ悪人ロールはいいですね!
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