表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
298/447

297〈はじめての面会〉


翌日、俺は大首領様に面会を求めた。


意外とすんなり面会させてもらえることになった。暇なんだろうか?


NPCドールのアオドリに案内されて、入り組んだ道を進んで、謁見室へと向かう。

空から行ったら簡単なんだが、平常時にそれはさすがにはばかられる。


謁見室の扉が重々しく開かれるが、ラグナロクイベント時に何度も通った扉だ。

ちょっと有難みがない。


玉座に黒い靄が鎮座している。

周囲には近衛騎士のNPCドールが並んでいる。

重厚な作りの謁見室だが、俺からしたらこれまた見慣れた景色だ。

ラグナロクイベント時のリスポーン地点がここだったせいで、大首領様のボヤキを何度も聞かされた場所という印象が強い。


「ゐーんぐ……〈悪いな、急に時間を取らせてしまって……〉」


「こらこら、最初の挨拶ぐらいはもうちょっとラスボス感をだな……」


黒モヤから声が聞こえる。


「ゐーんぐ……〈今さらだろうに……〉」


「……まあ、今さらか」


俺は頷く。


「よかろう。それで、わざわざ謁見を申し込むとは何事か?」


「ゐーんぐ!〈ガイガイネンについて、聞きたくてな〉」


「世界の敵だ」


「ゐーんぐ〈それは知っている。ただ、はじめての『ガイガイネン』イベントの時、倒せなければゲームオーバーと言っていたと記憶しているが、初回時に倒しきれてなかったよな?

なぜ、ゲームが続いているのかと思ってな〉」


「ゲームオーバーが良かったか?」


「ゐーんぐ〈いや、続いて良かったが、なぜ続けられたのかが、疑問でな。

どうも発祥は解放された新エリアだから、どうこうしようにも、最初から全滅は不可能。だけど、こうしてゲームは続いている。何があった?〉」


黒モヤがぐるぐる、もくもくと形を変えて、躊躇しているようにも見える。

俺は黒モヤの動きを見ながら、根気強く待った。


「少し、複雑な話をしなければならぬ……」


「ゐーんぐ?〈理解できるかどうかは別として、話してくれないか?〉」


「うむ、公式発表ではないというのを承知せよ。それから、あまり広めるべき話でもない」


「ゐーんぐ〈分かった〉」


「そも、この星が双子星というのが前提の話だ。

今では既に定着している故、どちらが正当であるという話でもない。

まあ、裏設定と思って聞くがよい……」


必死に言い訳を探しているような大首領の言葉。

俺はひたすらに待つだけだ。


「ふたつの世界に、争いの種を持ち込んだ、別の世界というのが、最初の『外概念』だった。

彼らは、『神』と呼ばれている。

ふたつの世界の発展に伴い生まれた原初の信仰から名付けられた『ことわり』を『なかつ神』、『外概念』を『そとつ神』と呼称しようか……。

『神』とは本来、形のない概念に過ぎなかった。なんらかの大いなる概念装置と言おうか……大気を揺らし、海を混ぜ、大地を削り、火を起こす。

これらが『理』となって信仰を生んだ。

しかし、それらは漠然としていて、命に影響を与えつつも閉じこもった輪廻の中で渦を巻く『なにか』でしかなかった。

そして、その『なにか』に刺激を与え、新たなる生命のサイクルを生んだのが『そとつ神』たちだ。

つまり、『そとつ神』が生まれたことで『なかつ神』は生まれた。

『理』に名が与えられ、司となって『神』が確立していくこととなった。

『なかつ神』と『そとつ神』は争い、混じり合い、今がある。

ふたつの世界にとっては、全てが『神』だった。

しかし、渦巻く輪廻『円』が生命のサイクル『螺旋』となった時から、偏りが生まれた。

この偏りが今の世界の有り様を示している。

『そとつ神』が大き過ぎたのだ。

これがふたつの世界を隔てる元となり、魔法文明世界と科学文明世界と呼ばれるようになった。

今、新たなる『外概念』が押し寄せて来ている。

これが、何を成し、どう転ぶのか、誰にも分からないのだ。

ただ、ただでさえ軋みを上げている世界にとって、新たな『外概念』は危険としか言い様がない。

本来、ふたつでひとつの世界が裂けてしまえば、どちらかが残るのか、ふたつとも消えるのか、はたまたそれぞれの世界として残るのか、運営はふたつとも消えると計算しているが、それとて確率が高いというだけの話だ」


「ゐーんぐ?〈つまり、『ガイガイネン』は新しい『神』だと?〉」


「まだ、『理』もなく司も分からぬ故、名も無き大いなるものとしか言えぬ。

『神』は名付けられてはじめて『神』足り得る。

今、運営は死した『神』の名を新しい『外概念』につけて、『理』を与えようとしている。

『理』を司どれば、既存の枠の内に収められるだろうと考えている……」


「ゐーんぐ?〈それはどういう意味だ?〉」


「……そうさな。

頭がひとつ、足が八本のヌメヌメした軟体動物がいたとする。

それは未知のものだとする。

例えば『タコ』と名付ければ、それは『タコ』であり、『火星人』と名付ければ、それは『火星人』になる。

未知でなければ、殺せる。

『タコ』だろうが『火星人』だろうが、焼いて食べることもできよう。

だが、未知のままそれが押し寄せて来た時、人はどう反応するだろうか?」


「ゐーんぐ?〈どういうものか調べるとか、それこそ食ってみるとかするんじゃないのか?〉」


「吸盤に吸われて鋭い顎で噛み砕かれたり、光線銃で撃たれるかもしれない。

もしかしたら、毒があるかもしれない」


「ゐーんぐ〈それこそ、調べて、食ってみなけりゃ分からないんじゃないのか?〉」


「そういうことだ。

だが、お前は一人しかいない。そうなれば観察して、恐る恐るつついたりするだろう?

今の『ガイガイネン』イベントは、そういうことをしている。そうして、それに名付けるのだ。これは『タコ』だと。

だが、相手は体長五千メートルで、口から火を吹くのだがな」


「ゐーんぐ!〈それはもう『タコ』じゃないだろ!〉」


「いいや、それが美味で、海の中でしか生きられないとしたら、『タコ』なのだ。

だが、それは相手からしても同じことが言える。

我らがやつらにとって『タコ』なのか『地球人』なのか、それによって、食えるか殺せるかをお互いに決めあっているのだ」


なるほど、未知に名付けることで既知の存在にする。そうすればどう扱うべきか分かるといったことだろうか。

だが、そうなると大首領はなんなんだ?

なぜ、ここまで詳しい?


「ゐーんぐ?〈なあ、なんでそこまで詳しい?〉」


「我は『神』ではない。失われた王国の元王だった者だ。運営側に近しい存在ではあるがな……」


「ゐーんぐ……〈まるで、これが現実のように語るじゃないか……〉」


ここまでぶっちゃけた話をしたんだ。

俺はここが斬りこみ所かと思い、さらに突っ込んだ話、具体的には現実と『リアじゅー』の関係性について突っ込むことにした。


「現実だとも……」


やはり……。


「我にとってはな。そういう設定だ」


ぬるり。まるで『タコ』のように逃げられたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] NPC側から言われたらPL側はなんも言えなくなるなwww≫「我にとってはな。そういう設定だ」
[一言] 意外と情報出してくれるのに「設定」で躱す大首領で草。 でも結局はガイガイネンは外来種でしかなく、 長い時間を掛けて固有種にする為の地球環境が壊れ掛けてるから駆除するしかないですねぇ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ