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 俺が静乃を連れて車に戻った時には、すでにどぶマウスが車の中に居た。


 静乃を抱えて来た分、俺の方が遅かったか。


「SIZUはど……グレンさん、片腕がないでっす!」


「つい、な……」


「つい、でなくせるような物じゃないでっす」


「リアじゅーでは、それくらいの扱いだったんだよ。

車、動かすから、SIZUの方、見てくれ」


「さすが肩パッド様は言うことがやべーでっす」


金山羊のガチャ魂は入れてあるし、二十四時間後には生える予定だ。

ダメなら人工合成食料製の腕か……まあ、背に腹はかえられない。


「SIZUは寝てるだけみたいでっす!

まあ、詳しくは戻ってからじいじ先生に見てもらう他ないと思うでっす」


「そうか……」


俺たちは戻って、みんなに報告する。


病院内、地下秘密基地。


全員が俺たちの成果を聞くために残って待っていてくれた。

おじいちゃん先生はまず検査ということで、SIZUを連れて行く。


俺の腕がなくなっていることに驚かれはしたが、血は止まっているし、スキルによって治る予定だと説明したら放置された。

信頼されているような、呆れられているような、どちらとも取れる態度だった。


「……ちゅー訳で、罠だと判断して撤退してきましたでっす!」


どぶマウスは首尾よくスタンドアロンのコンピューターのデータ回収に成功していて、色々と分かったことがある。


何より重要なのは、やはり情動操作だろう。

情動操作は対象の強い情動を見極めることから始まる。

親愛や忠誠、憎悪、仲間意識などが誰に向けられているかを調べて、その人物を別の人物に書き換えるのが情動操作らしい。

その過程の中で、必要ならより強い情動を引き起こし、無理矢理そこに敵や味方を刷り込むという方法もあるようだ。

情動操作を受けると、対象が勝手にその情動を強化していく習性が認められるらしく、洗脳よりも解けにくく、対象は本人の自由意志で動いていると思い込むので、命令がしやすいらしい。


これを解くのは難解で、実質、上書きするしかないとの事だった。


上書きか……元に戻るのではなく、上書きした情動は本物なんだろうか?

ただ、より強い情動に紐付けされて、解けてしまう例というのも無くはないらしい。

それは、そもそもの情動操作が失敗している例だそうだ。

要は最も強い情動を見つけられなかった場合ということらしい。


そういえば、『マギシルバー』が最後に俺への憎しみを吐露していたが、アレは最も強い情動だったりしないだろうか?

それを認めるのは、俺としては不本意だが、もしそうなら『マギシルバー』の情動操作を解除する鍵なのかもしれない。

そこまで憎まれているとは思いたくないが。


それから、別の研究所らしき場所のデータも一箇所だけあった。

個々の研究所で別方向の研究をしていて、限定的にそれぞれの研究所が連携しているということなのかもしれない。


『マギシルバー』はほぼ完成した超能力兵士(サイキックソルジャー)らしい。

ただ敵に対する攻撃衝動が強すぎて、加減が効かないので、それをどう抑制するかといった研究が主だったようだ。


超能力的には現状最高峰クラスに位置していると報告しているらしい。


これらのデータを見る限り、やはり今回の救出作戦は罠だと判断するしかない気がする。

おじいちゃん先生の後輩、五杯博士から情動操作のデータはもらっていない。

俺たちが救出に出向いても、戦いは避けられないと分かっていたはずだ。


ただ、研究所側では特に警戒していた感じではなかったのが、引っ掛かる。

完全に罠にしておきたいのなら、もっと人員を増やしていてもいい気がする。


五杯博士は、もしかして軍部に内緒にしておきたかった?

おじいちゃん先生を守りたかったという考えは楽観的すぎるだろうか?


どぶマウスによれば、データ回収はバレていないはずなので、次は今回のデータ内にあった別の研究所を狙うことになるだろう。


そこは、元のAグループが作った情動操作を、対人間用に調整・変更している場所で、そこなら更に他の研究所が幾つか判明するかもしれない。

また、そこでも囚われの超能力者はいるはずで、彼らを助けるのも、重要になるだろう。


おじいちゃん先生がSIZUと戻って来た。


「いやー、全然、記憶に残ってないのよ、えへへ……グレちゃん、ネズ吉っちゃん、ごめんね……」


「いちおう、ひと通り調べたが肉体的には異常は見られない。

リアルスキルが未知なる物だからな。

今は静観するしかないな……」


そうして、俺たちは話し合いの末に出た結論をおじいちゃん先生に伝える。


「……そうか。アイツめ、変わってしまったんだな……」


少し寂しそうに言った。


「恐らく、私との関係を軍部に報告しなかったのは、保身と新たな超能力者の確保のためかもしれんな……。

私と君たちとの接点が、五杯には掴めていないのだろう。

だから、泳がせて、私が君たちを送り込むのを待った。

もしかしたら、私と戦っているつもりなのかもしれない。

自分の開発した超能力者たちと、私が送り込む君たち、どちらが上なのか……それを知りたがっているような気がするよ……」


重ねてきた年輪が、おじいちゃん先生を静かに話させた。

辛いだろうと思うが、それを押し殺して冷静さを保つ姿は凛としているようにも見える。


なんとなく、おじいちゃん先生の言うことが、五杯博士の真実のような気がした。

各研究所で別方向のアプローチをやっているにしても、その根本原理を唱えたのは五杯博士だ。

自身の作品とおじいちゃん先生の作品を競わせたい。そういうことなのかもしれない。


残念ながら、俺たちはおじいちゃん先生の作品とは名乗れないんだけどな。


そうして、新たな研究所への調べを進めることを決めて、俺たちは解散するのだった。



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