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ラグナロクイベントが起きた。
もちろん、裏で糸を引いているのは『グレイキャンパス』だ。
小規模レギオン同士の対決で、科学文明側五十人対魔法文明側三十人というラグナロクイベントだ。
そこに『グレイキャンパス』が野良レギオンとして介入して、始まって五時間で決着がついた。
人身御供とされた魔法文明側、小規模レギオンはあまり素行の良くないレギオンだったため、魔法文明側でこのことについて関心を持たれることはほとんどなかった。
なにより『ガイア帝国』勝利の方が比重が大きいからだ。
現実では『ドリームモンスター』の報告は減っていなかったが、新しく分かったことがある。
『ドリームモンスター』は触れないのだ。
位相がズレているとか、心が見せる幻影だとか、別次元で魔界が噴出しようとしているのが見えているだとか、色々と言われているが、触れない以上、どうにもならないので国民は静観の構えだった。
ある意味、異常なくらい日本では混乱が少なかった。
国民性といえばそれまでのような気もするが、実害は視界を遮られて事故が起きる程度だ。
異文化に逆らわず、吸収、順応するのがこの国の特性なのかもしれない。
サードアイの考察によれば、徐々に実体化していくはずだった『ドリームモンスター』たちの実体化が小規模レギオンの敗退によって、猶予が生まれたのではないかとされていた。
おそらく、グレイキャンパスは傭兵業を営む傍ら、潰しやすい、潰すべきレギオンを日頃から物色しているのかもしれない。
おじいちゃん先生に呼び出されて、病院に行った。
何故か霊安室に呼び出される。
連れて行かれた霊安室は、現実での『グレイキャンパス』の基地に繋がる道だった。
「心配するな。こちらの霊安室はダミーだ」
おじいちゃん先生が笑いながら言うが、抹香臭い部屋の作りといい、本物にしか見えない。
しかも、死体安置用ベッドのひとつが入口らしく、悪趣味全開だ。
死体安置用ベッドに寝て扉を閉めると、足元側の扉が開いて、自動でそちらに動く。
秘密基地というやつだ。
今日、呼ばれたのは新たなBグループの研究所が発見されたからだった。
「後輩がやっと逃げる決意をしてくれてな。
説得に時間がかかったが、この研究所に捕らわれている超能力者たちを解放して、安全を証明してくれるなら、信用するとのことだった。
そのあかつきには、全ての情報を渡して、家族と国外に逃げると言ってきた」
おじいちゃん先生が持ってきた情報は人里離れた山の中に、ひっそりと建てられた古い研究所の資料だった。
ここからだと、それなりに遠い。
「随分と時間掛かったけど?」
会長が不満そうに聞く。
「まあ、そう言ってくれるな。
奴は家族を持つ身だからな。
ただ逃げるだけとはいかん。その準備に時間が掛かったんだ」
確か五杯博士だったか。
おじいちゃん先生によれば、非人道的実験を息子の安全と引き換えに認めた男。
今のBグループの研究の礎を作った男。
聞いた限りでは、非人道的部分は軍が持ってきた技術で、五杯博士はそれを黙認しただけという関係らしいが、どこまで信用していいのか分からない。
それは誰もが感じていたようで、太っちょイケメン響也が手を挙げた。
「先生。先生が後輩を信じてやりたい気持ちは分かるが、本当にその博士は信じられると思うか?」
「……私は、信じてやりたい。だが、確かにそうだ……私の目に一点の曇りもないとは言えん」
「今は情報がソレしかない以上、罠でも飛び込まざるを得ないけどね……」
静乃が言う。
「スタンドアロンは手が出せないし、物流データから洗うにしても限界だ。
今、一人で一個ずつデータ洗い直してんだよ。
なのに外国の特殊部隊だとか、Aグループのやつばっかりで、そろそろ家のマシンじゃ限界だよ……」
白せんべいは泣き言を零した。
「物流データなら、こっちもやってるから、墓くん、この会長ちゃんと答え合わせしよっか?」
「どこのスタンドアロンのデータが欲しいか言ってくれれば、取りに行く算段くらいつけるよ。ちょっと皆の力を借りることになりそうだけどね」
会長は蛇が獲物を巻きとるように、どぶマウスは早く言えと突き放すように言った。
どちらも分かりにくいフォローだ。
白せんべいは、プライドが高いタイプのようで、情報は自分が何とかするという意識に追い詰められていたようだ。
結果的におじいちゃん先生が持ってきた情報は確度が低いものの、海上浮遊都市『ユミル』以降、情報が流れなくなったBグループの動きの中で、確認するには行ってみるしかないということになった。
ただし、罠の可能性も考慮して、行くのは俺、どぶマウス、静乃の三人だけとなった。
この三人が現状、超能力者トップスリーだから仕方ない。
今さら、俺も静乃も「グレちゃんだけは……」「静乃だけは……」というのは止めたのだ。
それを言い出すと、誰一人動けなくなってしまう。
捕らわれた超能力者たちを助け出す。
現実での『グレイキャンパス』の在り方はそう定義している。
俺たちはそうして、新たな作戦に挑むことになったのだった。




