284
「ゐーんぐ?〈いや、それを信じろって言うのか?〉」
「信じられないなら、それでもいいけど。
私はそう思ってるし、その前提で動いてる」
静乃の瞳に信念が宿っているように見える。
「ゐーんぐ!〈まあ、お前は俺と違って馬鹿じゃない。お前が信じてることを否定しようとは思わないし、たぶん、お前が言ってることは正しいんだろう。
俺のはアレだ……ほら、自分の目で見て確信が持てないことを、信じてるとは言えないとか、その類いの話に過ぎないだけだ〉」
「まあ、グレちゃんだしね」
これで意思疎通ができるのは長年の付き合いだからだな。
簡単に言えば、俺が信じてるのは静乃であって、『リアじゅー』と現実の繋がりは、理解しているものの確信が持てないという状態だ。
何がどう作用しているのか、それの理解を深めないと、他人に説明ができないからな。
これは俺が営業で培ってきたもののひとつだ。
「ゐーんぐ?〈それで、みんな体調はもう大丈夫なのか?〉」
「グレンさんのプチトマトでかなり助けられました。MPなんて、今までのキャラクタークリエイトで重視したことがなかったんですが、現実にない能力なだけに、管理が難しいですね……」
白せんべい以下、全員が似たような感覚を味わっているようだ。
体力や疲労はお馴染みの感覚として理解できても、MP不足による眠気は、身体が錯覚を起こしてしまうのだろう。
緊張や身体を動かすことで紛れてしまう部分でもあるしな。
「じゃあ、現実とこの世界の身体の動かし方の擦り合わせも兼ねて、軽くガイガイネン狩りと行きますか!」
SIZUが音頭を取る。
今日、こっちに集まったのは、玉井をどうするか話したかったのもあるが、昨夜の反省を踏まえ、動きの確認をするという意味もある。
現実での実戦は学ぶことが多かったようで、全員の動きは随分とキレのあるものになっていた。
パッシブスキルは別として、現在使えるリアルスキルのみで戦うというのもやってみた。
こちらは正直、酷かった。
戦い方が別物なのだ。
今まで、牽制代わりに使っていたスキルを封印してしまったことで、全てを同一スキルで賄おうとして、被弾率が上がったり、攻撃スキルを封印したために亀のように手が出せない状態になってしまったり、ウエイトタイムの管理に失敗して手詰まりになってしまう者もいた。
だが、反省点が多いということは、成長する要素が多いということでもある。
何度もやる内に少しずつ、できる事が増えていく。
俺もわざと普段は使わないガチャ魂を使ってみたりした。
「ゐーんぐ!〈【三重に偉大なる緑玉】〉」
額にエメラルドの瞳が現れ、三重のバリアを張る『エメラルドゴーレム』のスキルだ。
第三の目で見た場所にクリアグリーンの盾が出るのだが、この第三の目というのが厄介だった。
第三の目だけで個別に注視したいのだが、それは左右の目で別々のものを見るよりも難解なことだった。
あと、頭が混乱する。
意外と俺は普段からアチコチに視線を配っている。
なので、まりもっこりの前に盾を置きたいと思っても、その間に他に視線を移したら盾がそちらに移動してしまう。
盾は質量を伴っているので、仲間にぶつけまくってしまった。
これは使ってしまうとその一点だけを見つめるか、敵の前に置いて、敵の動きに合わせるように敵を見続けるかしないと有効に使えない。
敵が一体だけならともかく、乱戦で使うには第三の目の視線の動かし方と急に増える視覚情報に耐えなくてはいけない。
要練習だな。
『金山羊』のガチャ魂も厄介なもののひとつだった。
ダメージを受けると、脳内アナウンスが流れる。
───この傷は現実時間、朝五時に復活と共に回復します───
HPポーションが効かなくなった。
現実時間と連動しているらしく、朝五時に完全回復するらしいが、戦闘中に使う意味がない。
仕方がないので、別のガチャ魂に入れ替えようとすると。
───現在、スキル使用中のため、ガチャ魂が外せません───
「ゐーんぐ!〈マジか! 俺の貴重な枠が……〉」
ただでさえ俺のガチャ魂枠はふたつほど完全固定されている。
使えるガチャ魂枠は全部で十個しかないのに、これではかすり傷ひとつで三枠が潰れる。
だが脳内アナウンスを聞く限りでは、死んでも死なない?
これは要検証案件だ。
傷を負ってからガチャ魂を入れ替えた場合、効くのか。
金山羊は骨と皮が残っているのが復活の条件らしいが、それはどの程度のもののことを言っているのか、具体的には部位破損しても他の部分が残っていれば復活できるのか。
HPポーションは効かなかったが、他のポーションは効くのか。など、調べておかなくてはならないことが一気に増えた。
まあ、今回でふたつほど分かったことがある。
HPポーションが効かないと、傷が疼くので、集中が掻き乱されやすいのと、死んだらログアウト中も死体がその場に残るということだ。
───グレちゃん、内臓がデロデロにはみ出した死体運ばせないでよ───
───スキル効果だ。許せ……───
いちおう、安全な場所に動かしてくれたらしい。
スキル効果中はリスポーンもなし、と。
回復スキルの検証はなかなかに時間が掛かりそうだ。




