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281〈未来+過去+今〉


 意識が帰って来る。

 目を開く。揺れている。


「くっ……ここは……」


「起きた? 大丈夫?」


 俺はまりもっこりに背負われていた。

 まりもっこりは俺を背負った状態で、玉井を載せた車椅子を押している。


「すまん、歩ける……」


 おおう……クラクラする上に眠い……。

 慌てて装備からMP回復プチトマトを出して、食らう。

 プチトマトに含まれたMPが自分に馴染んでいくのを感じる。


 よし、眠気も取れてきたな。


「びっくりしたわよ。勝手に傷が塞がってくから……」


「まあ、そういうスキルだ。他人に作用させられないのが難点だけどな」


「そっか、それは残念ね……」


 たぶん、まだ『ユミル』の内部だよな。

 ただ、G12通路の看板を見て、俺は首を捻った。


「ん? どこに向かってるんだ?」


「実は、Fエリアからの侵入経路がバレたみたいで、行きに使った道が使えなくなったの。

 近くまで行った時にはもう周囲が固められてて、仲間も見当たらなかったから、他の人たちも別ルートからの脱出に切り替えたんだと思うわよ」


「それにしても、G12なら中心部の方だろ。

 外縁部の出口に向かった方がよくないか?」


「玉井ちゃんがね。中心部に向かってくれって」


「どういうことだ?」


 俺は包帯でぐるぐる巻きにされ、車椅子に揺られるだけの玉井を見る。


「今は他の人たちと連絡取ろうとしてくれてる。

 距離があると、その分消耗が激しくなるから、しばらくは死んでる度高めに見えるけど、ほっといて欲しいって」


 なるほど、車椅子の揺れ任せに小刻みに振動している姿は確かに死んでる度が高い。


 玉井には、足がない。

 正しくは膝から先を外科的に切り取られている。

 さらに、腕はめちゃめちゃになっていて、指先に神経が届いているかどうかも不安になるような状態だ。

 まりもっこりの応急手当だろうが、全身に包帯を巻いていて、ミイラのようなので、身体全部に酷い暴行を受けただろうと思われる。


 超能力の内容は当然、バレていたはずだが、その力をほとんど見せないようにしていたのだろう。

 だが、先日の俺が保護した、国枝涼子ちゃんの件で疑われでもしたのか?

 他のやつらより、あからさまに拷問の度合いが逸脱している気がする。


「中心部はブラックボックスだらけだ。

 ルートを外れたら、どうなるか分からん。

 逃げ場がなくなる可能性もある。

 ただ、ちょっと血を失い過ぎた……最悪は玉井と二人で脱出ってのも考えておいてくれよ」


「それは、どっちになるか分からないじゃない。やめてよ、そういう言い方……」


「まりもっこりは家庭があるだろ。その点、俺は独身で気楽なもんだ。

 仕事とゲーム以外、やることもないしな。

 いざって時に、どっちが逃げるべきかは、明白だ」


「はあ……グレンさんは、もう少し周りをちゃんと見るべきよ。

 あなたの帰りを待っている人は、あなたが思うよりもたくさんいるはずだわ。

 それに気づくまでは、死ぬべきじゃないわね……」


「ゲーム仲間か? 所詮、ゲームだしな……」


「アレだけリアルを感じるゲームを、所詮ゲーム、なんて……バカなのね。

 それに、アレがただのゲームじゃないのは言うまでもないことでしょ」


「アンタ、結構、キツいな……」


「主婦だもの。ズケズケ言いたいことくらい言わないと、子育てひとつできないのよ」


「俺には分からん感覚か……」


「だからね。どっちかが犠牲になって、どっちかが助かるなんてことを考える暇があったら、どっちも助かる道を考えてちょうだい。

 明日は下の子のお遊戯会だから、早く帰りたいのよ」


「へいへい……」


 全員が助かる道ね。


 いちおう、俺たちはそれなりの覚悟を決めてから来ている。

 ゲーム内でも散々に理解したが、悪の戦闘員は基本的に捨て駒で、時間稼ぎ要員だ。

 生きて帰るつもりがない訳ではないが、いざと言う時には……という心積りだ。

 まあ、努力目標としておこう。


 G13、G14と来て、H14、H15の通路に入る。

 情報はここで途切れている。

 H15の奥はブラックボックスだ。


───ここだよ───


「何がだ? 皆と連絡は取れたのか?」


───大丈夫。SIZUと約束したから───


「SIZUたちは無事なの?」


 玉井の脳内アナウンスは、同時にまりもっこりにも聞こえているらしい。


───うん。私たちの陽動に併せて、来る時のドローンで全員帰れる───


「陽動?」


───そう。今から私が『ユミル』と話をする。そうしたら、『ユミル』の中のドローンが一斉に動き出す。それに紛れて、グレンさんとまりもさんはドローンに乗ったら、この作戦は成功───


「ユミルとって……この浮遊都市のことか?」


───『ユミル』は超高度なA.I.として生まれた。『ガイア』もこれから生まれるモノたちもそう。でも、大地のマグマに溶けた太古の記憶によって、A.I.を超えた何かになった。

 だから、私と話せた。

 だけど、『ユミル』たちには足りないものがある。それが私。

 私は彼女たちにとっての『偉大なひとつ』であり、今を象徴している。

 だから、私は彼女たちとひとつにならなくちゃ───


「は? 何を言ってるんだ?」


───とても長くて、悲しいお話。

 引き裂かれた双子を繋げるかどうか……ここが、最期の分岐点。『ユミル』たちが祝福されるか、呪われるか、それはあなたたちに託されている。それを忘れないで───


「ちょっと、玉井ちゃん?」


「意味がわからん。もう少し馬鹿に優しく話せ!」


───噛み砕いて説明すると……SIZUを見捨てないであげて、グレンさん。あの子が一番私の理想に近い。あ、もうお迎えが来ちゃった───


「SIZU? 静乃?

 どういうことだ? 迎えってなんだ?」


 ブラックボックスになっている部屋の扉が勝手に開く。

 中からは馬鹿みたいな量のロボットが出て来た。

 それは、どこか『リアじゅー』内のNPC人形たちに似ている。

 プラスチックのような硬質で光沢のある質感のロボットたち。

 そいつらが一斉に、まりもっこりが押す車椅子を奪おうとしてくる。


「ちょ、おい、待て!」


「なんなのこいつら!」


 俺とまりもっこりは何百と溢れ出るプラスチックロボットから、玉井を守ろうとした。


 プラスチックロボットは攻撃を仕掛けて来る訳でもなく、ただ、玉井を連れ去ろうと物量でやって来る。


「だから、連れて行くんじゃねえよ!」


「返しなさい!」


 俺たちは暴力に訴えた。

 だが、それは物量の前に、海に投げ入れた小石ほどに響かなかった。


 プラスチックロボットの波が引いていく。

 波に攫われるように、玉井を連れて行く。

 ブラックボックスの中は、炉だ。

 灼熱のマグマが坩堝の中で渦巻いている。

 その坩堝へとプラスチックロボットごと玉井は落ちていった。


 何もできなかった。そもそも、灼熱の炉に近づくことすらできない。

 プラスチックロボットたちも溶けながら消えていった。

 扉が閉まる。


───ドローンが射出されます。グレン、まりもっこり、両名はD12通路より、お進み下さい───


 脳内アナウンスが流れた。

 良かった。とりあえず玉井は無事なようだ。


 同時に俺たちを追っているであろう人の声と靴音が近づいて来ていた。


「なんなんだよ、玉井ぃぃぃいい!」


「とにかく、行かなきゃ……。

 帰って、お遊戯会行くんだから……」


「くそ! 助けに行く。待ってろよ!」


───死んでる度、マックスです。お諦めください───


「生きてんじゃねえか!」


 俺たちは玉井のテレパシーだか、脳内アナウンスだかに従って、この場を離れるのだった。


 

やあ、ボクの名前はグレイトワンだワン!

リアースジャッジメントMMORPGの世界へようこそ!

え? 脳内アナウンスと声が一緒だって?

ほっといてくれ、予算とか色々……って言わせないでよ。

ボクはこの世界のマスコットキャラクター兼チュートリアルナビみたいなものさ!

さあ、この空間は君のキャラクターデザインをしていく場所だよ!

今の君はこの世界じゃ死んでる度マックスみたいなものだからね!

この空間で、君だけのキミを作って、新しい世界で生きてる度マックスになろう!

さあ、最初はガチャを振ろう!

最初が肝心だからね。気に入らなければ、課金で振り直せるよ!

レッツ、トライ!

……。

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― 新着の感想 ―
[一言] グレイトワン…偉大なひとつ? チュートリアルはグレイトワン進行… つまり、りあじゅー世界と現実世界のユミルは……
[一言] あー、そーゆーことね完全に理解した()
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