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「テイザーガンなら、楽勝だろ!」
俺は見張りのたまり場から監獄へと走る兵士たちの目の前で、捨て置かれたリンクボードの【擬態】を解除。同時に、【回し蹴り】で数人を蹴り飛ばした。
「なっ……」「超能力者だ、撃て!」「捕獲しろ、他国のスパイの可能性もある!」「そのふざけたお面を毟りとってやる!」
バチンッ! バヂッ!
───『全状態異常耐性』成功───
一瞬、動きが止まるが、それは一瞬だけだ。
やり返してやる!
「ゐーんぐっ!〈【雷瞬】!〉」
雷のラインに触れたやつを感電させつつ、体当たりで弾き飛ばして、相手の後ろに出る。
近くのやつが肘を飛ばして来るので、スウェーして蹴り飛ばす。
敵を引きつけるように逃げながら【トラップ設置】で『ジャンプ床』を置く。
初見の相手は、あからさまに変な音がしていても、それがトラップだとは思わない。
また、狭い空間で使う『ジャンプ床』は一瞬で極悪トラップになる。
『ジャンプ床』を踏んだ兵士が天井に当たって鈍い音を出す。
ヘルメットしてて良かったな。
べしゃり、と床に落ちた兵士の顎を蹴り飛ばす。
「くそ、テイザーが効かない!」「やむを得ん、実銃を使え!」「腕か足なら、なんとでもなる!」
十人から五人になった兵士たちがハンドガンを抜いた。
マジか。
俺はどこかそれを一歩引いた目で見ていた。
『リアじゅー』ならもっとヤバい武器をたくさん見ている。
光線も熱線も浴びたし、全身に毒が回るような痛みを感じる武器で貫かれたこともある。
それに『狼人間』のガチャ魂はダメージをMPと交換で癒してくれるんだ。
死ななきゃなんとかなる。
そう考えると、ハンドガンで撃たれる恐怖というのが薄れて来る。
いや、恐怖はあるが、その中でも身体を動かす余裕が出るというべきか。
赤いラインに反応して、【緊急回避】、体当たり気味に相手を殴りつけて、背後の銃声を聞く。
振り向きざまに【回し蹴り】、俺の左肩に赤いラインがポイントされる。
飛び込み前転のように逃げながら、【夜の帳】を放つ。
「くそ、多重能力者だ!」「うお、何も見えない!」
残り二人になった兵士を殴り、蹴りつけ、眠らせる。
一発、銃弾が右腕を掠り、思わず呻く。
だが、それで終わった。
「グレちゃん!」
銃声を聞きつけてSIZUが寄ってくる。
俺は左手を挙げて、SIZUを制止する。
全員、寝たか分からないからな。
「すごいな……先生が連れて行けって言う訳だ……」
SIZUの後ろで白せんべいが倒れた兵士たちを見ていた。
「そんなことより、拘束しちまおう」
響也が結束バンドを出して、一人ずつ確認しながら拘束していく。
当面の危機は去ったか。
「全員の救出は?」
「こっちはオーケーネー!
でも、玉井サーンが実験室にいるはずらしいヨー」
ここにいるのは開発初期段階の十六名だけで、他の人間は既に別場所に移動させられてしまっていた。それも、つい昨日のことらしい。
開発初期段階とは、つまり能力が一定レベル以下の者を指すらしい。
聞く限りでは、玉井という人はテレパスとして、他の人たち同士を繋げられるくらいの能力者のはずだが、わざと能力を偽って、ここに残り続けた節がある。
その玉井さんは、今、実験中なのだそうだ。
もう見張りらしい見張りもいないだろう。
「俺が行く。SIZUたちはみんなを」
「ちょっと、グレちゃん、怪我……」
「舐めときゃ治る」
「私も行くから大丈夫よ、SIZU」
まりもっこりが言う。SIZUは渋々ながら引き下がった。
「先に進んでる。追いついて!」
見張りが押し寄せた以上、本隊に連絡が行っているはずで、ゆっくりしている余裕はない。
怪我人だらけの開発初期段階組は動きも遅くなるだろうしな。
俺はまりもっこりと実験室へと向かった。




