277〈ユミル上陸〉
「じゃあ、グレちゃんとじいじさんも新たに加わったということで、新生グレイキャンパス、出陣だね!」
SIZUが高らかに宣言した。
深夜零時、俺たちは動き出す。
大型のバンに乗って移動を始めた俺たちは、分かりやすい港ではなく、国立公園の端から大型ドローンに乗った。
低空を波を切るスレスレくらいで大型ドローンは飛んでいく。
『ガイア計画』は現在、昼も夜もなくひっきりなしに荷物が搬入されていて、ドローンでの侵入はかなり容易だった。
二番都市『ユミル』。
一千万人都市を謳われるコロニー都市計画のふたつ目。
ひとつ目の『ガイア』すら完成していない状態でふたつ目の『ユミル』を作り始めている。
日本の技術を世界に見せつけるのを目的としているらしいが、ならば何故ふたつもみっつも作るのかという疑問がある。
一部では、戦争が近いとか、日本という国がなくなるのではないかとか色々言われているが、その真相は闇の中だ。
予定通りにFエリアと呼ばれる場所に降り立った俺たちは、頭に叩き込んだ情報を元に、メンテナンス通路へと向かう。
Fエリアは幾つかの大型の建物が、かなりの間隔をあけて置かれた、広い空間だ。
「あら、ここってリアじゅーやってる人が作ってるのかしら?」
「ソダネー。何か似てるネー」
主婦のまりもっこりとエセ外人アパパルパパが頷きあっている。
「今は無駄話している場合じゃないぞ。
ほら、行こう!」
太ったイケメン響也が促す。
俺たちは剥き出しの地面に不釣り合いな鉄製のマンホールのような扉を見ている。
表面には『Fー5メンテナンス』と書かれていて、これが内部への通路だと分かる。
白せんべいが代表してハンズフリーキーを取り出し、ダイアルを合わせる。
マンホールが少しだけ沈みこんだと思ったら、転がるように地下へのハシゴが現れる。
警備員、いやメンテナンス要員か。
地下通路を歩いていたので、なんとかやり過ごす。
地下通路はパイプや何かのラインがごちゃごちゃしていたり、かと思えば一部はまともに壁があってトイレもあってというような、ごちゃまぜ空間だ。
何に使うのか分からない部屋があったり、計器類が騒然と並ぶ部屋があったりする。
頭の中の地図を頼りに、地下通路を進んでいく。
たまに警備員やメンテナンス要員が歩いていて、途中、ヒヤッとする場面もあったが、俺の【擬態】を使って壁に見せかけたり、山田の【居眠りサボテン】というスキルで眠ってもらったりして、そろそろAー6通路という辺りで俺たちは慌てて隠れた。
歩哨が立っていて、あからさまに怪しい。
「あそこが秘密の研究施設だね」
「眠らせる?」
「行けるかな?」
「射程が足りないなら、おびき寄せるか?」
SIZUと山田の会話の中に割り込ませてもらう。
「さっき眠らせたメンテナンス要員の服を借りましょ!」
まりもっこりが来た道をそそくさと戻る。
しばらくして、メンテナンス要員の制服を着た、まりもっこりが歩いてくる。
まりもっこりが「おびき寄せるから、宜しく」と呟いて、堂々と近づいていく。
歩哨がサブマシンガンのようなものを向ける。
「止まれ! ここはメンテ不要だ。立ち去れ」
「え、でも、水冷パイプの破損が検知されてますよ」
「それは上司に報告しろ」
「いえ、それじゃ間に合わないから来たんですが……じゃあ、お兄さんこっち来て確かめてください。重大な破損だってすぐ分かりますから」
「……分かった。応急処置だけだぞ。本格的なメンテに入るなら、許可が必要だ」
「了解です。とりあえず、そこなんですけど、見えますかね?」
「どれだ……」
まりもっこりが天井を指さして、歩哨が確認しようと近づいて天井を見る。
今だ! 山田の掲げた手のひらから、エネルギーの針のようなものが飛び出した。
「うっ……おまへ……」
すぐに、まりもっこりが歩哨の後ろに回って、銃と口を押さえる。
ずるずると倒れる歩哨を全員でパイプの後ろに隠した。
「ここからは情報ないから、慎重にね」
白せんべいが言って、俺たちはブラックボックス化している研究施設へと向かうのだった。




