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 ここに集まっていた四千人のプレイヤーの内、三割ほどが失われた。

 普通の戦争なら、撤退案件だ。


 だが、俺たちはプレイヤーだ。

 トンネルの外にいたやつらと、途中で自分を取り戻してなんとか逃げられたプレイヤーだけが生き残った。

 トンネル内の惨状は、阿鼻叫喚だった。


 混乱からの同士討ち、罠を張るように待っていた紫色の『精神錯乱』を振りまく『ガイガイネン』、多くの犠牲が生まれた。


 特にヤバかったのは肉体極振りの怪人たちだ。

 彼らはその力のままに逃げ出すと多くの被害を生んだ。

 ヒーローはあまり長時間、スーツを着用できないらしく、変身前のまま死亡が多数出た。

 戦闘員たちはどちらもまだギスギスした状態での共闘だったのが、混乱に拍車をかけた。


 トンネルの外で俺の声を聞き届けてくれた、にこぱんちがいち早く場を収めてくれなければ、もっと酷いことになっていただろう。


 だが、混乱は続く。


 ヒーロー側の一部レギオンが怪人側との共闘はやはり無理だと騒ぎ出したのだ。

 そういう声が上がるのも無理はないが、ここまでのガレキ撤去でお互いに協力体制ができそうだっただけに、残念だ。


 しかし、お互いに信用すらできない状態での共闘は逆にお互いの足を引っ張るだけだ。

 にこぱんちは、一部のヒーローレギオンに相互不干渉とだけ約束させて、彼らとは別れることになった。

 彼らは山越えで目的地を目指すと行ってしまった。


 これで、総勢四千人で目指していた俺たちはは約半分の二千百人程度まで減った。


 俺たち怪人レギオンで代表的なものは『マンジクロイツェル』『シメシメ団』『世界征服委員会』のみっつ。

 『りばりば』は混乱に巻き込まれて、レオナ以下十数名しか残れなかった。

 ヒーロー側ではましろの『ムーンチャイルド』と『ヴィーナスシップ』だけが残った。

 ヒーローレギオンを代表する大規模なところがふたつも残ったとも言える。


「状態異常耐性の高い者だけを選抜して、前線を構築したい」


 にこぱんちが高らかに宣言する。


 状態異常耐性が最低でも七十以上欲しいと言ったら俺と他に変身状態の怪人、変身状態ならと条件付きでヒーローが四人ほど。

 全部で十五人しかいなかった。

 これでは前線もなにもない。


 そこで、条件を三回ほど下げて、状態異常耐性四十五以上ということにして、ようやく百人ほどが集まった。


 紫色の小型『ガイガイネン』は『コンフュージャー』と呼ぶことになった。


 百人の前線部隊。怪人とヒーローを除くと、ほとんどが普段は装備作りに闘志を燃やす生産系のプレイヤーばかりだ。

 戦闘が得意なタイプの人員はいないが、何故か全員がやる気に満ちていた。


「おお、まさかこんなところで活躍の場が来るとは……」「あ、そのエネルギーコンバーター、生産難易度65以上じゃん」「まあ、ほら、ウチはレギオンレベルの恩恵あるから」「そのデザイン、あんたのか?」「あ、え、変かな?」「いや、取り回しやすそうでオリジナリティがある。いいと思う」「そのカラーリングどうやって出してんの?」「ちょっとマットな感じ、渋いだろ」


 かと、思ったら、生産談義に花が咲いていただけだった。

 うるせえ……。


「グ……肩パッドさん、我々で先頭を行きましょう!」


 変身した『ホワイトセレネー』が声を掛けてくる。


「ホワイトセレネーと知り合いだって本当だったピロ……」


 『シノビピロウ』も『りばりば』の生き残りのひとりだ。

 状態異常耐性はバランス型故に、普通のプレイヤーより余程高い。


「あなたは?」


「りばりばのシノビピロウ、ピロ

 よろしくお願いしますピロ」


「あ、はい、ムーンチャイルドのホワイトセレネーです。

 こちらこそ、よろしくどうぞ!」


 怪人とヒーローがお互いに礼儀正しく挨拶している絵面は凄くシュールだ。

 コメディにも見える。


 だが、こういう絵面は嫌いじゃない。

 いつか『郊外』エリアの緩衝地帯化が成れば、普通の光景になるのかもしれない。

 それも悪くない未来かもしれないと思った。


 俺たちは前進した。

 ヒーローたちは変身に時間制限があったりするからな。

 のんびりしていられない。


 全員が状態異常耐性高めと言っても、それなりに地獄だった。

 戦い慣れていない生産プレイヤーは、押し引きがなく、突撃だけ。

 それを戦い慣れた怪人やヒーローがフォローしながらトンネルを先へ、先へと進んで行くのだが、結果的にトンネルを抜けた時には、三十人に満たない数になっていた。

 『シノビピロウ』も他の戦闘員のフォローをしている内にリスポーン送りになっていた。


「シノビピロウさんが命懸けで止めてくれなかったら、仲間を殺めてしまうところでした。

 後でお礼を言っておいてもらえますか」


 『ホワイトセレネー』の言葉に俺は頷く。


 『ホワイトセレネー』が『精神錯乱』に陥った時、『シノビピロウ』が眼前に立ちはだかって攻撃を受けることで回復の時間を稼いだ。

 その時のダメージを回復しきれず『シノビピロウ』は死んでいた。


「後は任せるピロ……大首領様、バンザイピロー!」


 俺に向けて言った言葉だ。

 さすがに、『シノビピロウ』が俺たちに、今日中に追いつくのはポータルを使っても難しいかもな。


 トンネルを抜けた俺たちが目にしたのは、何体もの『巨大ナナフシ』が歩き回る中、中央に鎮座する『柘榴(ざくろ)の雪だるま』だった。


 まだ数キロは先のはずなのに、この距離でハッキリと見える。

 『巨大ナナフシ』がすっぽりと入ってしまうほど大きな熟しきった柘榴(ざくろ)の実のような腹の上にそれの半分くらいの大きさのダイオウグソクムシの上半分が乗っている。


「ゐーんぐ……〈あれがマザー……〉」


「は、はは……あんなのがまだ他に二体もいるわけですか……」


「うぇっ……悪趣味なデザインしやがって……」


「あんなのどうやって倒すんだよ……」


 生き残った三十人が、それぞれに絶句した。



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