264〈ガレキ場突入作戦〉
おじいちゃん先生と白せんべいの計画はこうだ。
捕まっている超能力者たちの居場所を見つける。
白せんべいたち在野の超能力者たちの力を使って、強硬策で助け出す。
白せんべいたちが確保している安全な場所へと助け出した人たちを移送する。
以上。
言葉にすれば簡単だ。
だが、俺たちが超能力を持つように、相手は銃火器で武装している。
正体がバレればテロリストとして一生追われ、捕まれば実験体だろうか。
現実のスキルで人殺しにもなりたくない。
一番良いのはスニーキングミッションで全員を無事に助け出すことだろうが、捕まっているのは恐らく軍の施設だろう。
最悪、戦うことも考えなければならない。
「それにしても、白せんべい。お前、何者なんだ?」
「少しのコネと少しの知識を持ってるだけの男だよ。
僕にできることなんて、たかが知れてる」
そう言う白せんべいは少し悔しそうだ。
自信に満ちた語りをしていたあのオフ会とはまるで別人のようだ。
聞けば、安全な場所を用意してくれるのは会長と呼ばれるネット仲間だとかで、そういった事を取りまとめてくれるボスがいるそうだ。
「その内、ボスを紹介する。
ただ、あんたには絶対にして貰わなきゃいけないことがある」
「なんだ?」
「俺は悪くないってちゃんと弁明してくれ!」
「いや、何か悪いことしてるのか?」
「しているように見えるか?」
「分からん。今のところは見えない」
「なら、約束だ。そうしないと俺はダメなんだ……」
「あ、ああ、分かった。白せんべいは悪くないって言うよ。それでいいか?」
「よし、約束だ。これで少しは安心できる……」
俺はおじいちゃん先生と顔を見合わせて、お互いに首を捻った。
それから今度はおじいちゃん先生が話し始める。
「後輩がしたことは許されないことだが、息子を人質に取られてとなると、一方的に責める訳にもいかん。
先に後輩の息子を保護してしまえば、今度は後輩自身の身に害が及ぶ可能性もある。
捕まっている超能力者さえ消えてしまえば、研究は頓挫、その上でまとめて保護するのが上策かと思う」
「終わったら、先生も隠れるべきじゃない?」
「そうだな。『リアじゅー』で孫とさえ遊べれば、この病院は人に任せても構わんしな。
私が隠れてしまえば、連中も孫にまで手出しはしないはずだ」
どうも、超能力と『リアじゅー』の関係は軍にバレていないようなので、その辺りは安心して良さそうだった。
『リアじゅー』内なら、人間アバターを変えてしまえば、誰が誰だか分からなくなる。
「じゃあ、近い内に準備ができたら連絡するよ」
そうして、俺たちは解散した。
「作戦には遅れんようにな!」
おじいちゃん先生に言われるが、さすがにそれは気が早いだろうと俺は笑う。
「何言ってるんだ。白せんべいたちが準備を整えてからの話だろ。まさか、ボケたとか言わないでくれよ、おじいちゃん先生!」
「何言ってるんだ?
もちろん、今日のリアじゅーのガレキ場突入作戦のことだろう?」
そっちかよ!
既に辺りは暗く、あと一時間ほどで『ガレキ場突入作戦』は開始する。
俺は「へいへい」と答えて家路を急いだ。
帰ってすぐにログイン。
忙しいな。
だが、ついに今回のイベントも大詰めだ。
『飛行場』地区の『ガイガイネン』はほぼ殲滅済み、他地区からの侵入に備えて最低限の護衛を残し、残りは『ガレキ場』へと突入する。
まずは『ガレキ場』入口。そこから他レギオンの精鋭を含めて全員で『トンネル』まで向かう。
『トンネル』は敵が戦力を送り込むための門だ。
仮称『ガイガイネンマザー』がその近くに潜伏している可能性は高い。
魔法文明側は俺が、科学文明側は『ホワイトセレネー』が先導する。
『飛行場』地区の各施設から、一斉に航空機が飛び立つ様は圧巻だ。
一部、ジャンボジェットなどの滑走路を使用する航空機もいるのは、人数が多過ぎてヘリや飛行船、大型ドローンなどの着陸場所をあまり選ばないタイプの航空機を用意できなかったレギオンの戦闘員が乗っている。
彼らは落下傘部隊として、帰り道のない攻撃を仕掛けようとしている。
空が様々な航空機で渋滞する。
俺も飛行船に乗っての移動だ。
「用意できるレギオンは、それぞれ一方通行のポータルを設置することになっています。
場所は各レギオンの任意になっています。
グレンさん、トンネルから三十分以内でどこかいい場所はありますか?」
レオナが聞いて来る。
「ゐーんぐ!〈近くに立体駐車場がある。五階建てのデカいやつだ。そこは無事だったと思う〉」
俺は記憶を思い起こして答える。
「分かりました。では、そこを第一候補地とします」
飛行船は百名ほどの『りばりば』戦闘員で使っている。
『ガレキ場』入口に全員で下船。
直前で変身から【言霊】で祝っておく。
この数日間で俺のレベルは90まで上がっている。
この辺りまで来ると、ようやく自分本来の戦い方を満足行くレベルでできると感じる。
魔法文明レギオン混成軍は二千人規模だ。
俺は方角を指さして、二千人の道案内を開始した。
科学文明レギオン混成軍は四千人規模でプレイヤー数と人気の差を感じるが、嘆くくらいなら悪の戦闘員はやってられない。
今はただ、お互いに距離を取りつつ、喧嘩にならないようにするのが精一杯だ。
ましろと連絡を取り合い、お互いのルートは被らないようにしている。
そうして『ガレキ場突入作戦』は開始されたのだった。




