260《はじめてのコギト・エルゴ・スム》
お、遅くなりましたm(_ _)m
次から予約投稿に戻すかも?
予約投稿になってたら、察して下さいませw
今日の『リアじゅー』は他レギオンと共同で『飛行場』の確保に動くことになる。
つい、軍人らしき言動をしているやつなんかに意識がいきがちになるが、それを抑えるべく俺は荒ぶった。
「ゐーんぐっ!〈おらぁ! 【神喰らい】〉」
大型の『キャリアー』を見つけて、俺は一も二もなく突っ込んだ。
『狼人間』の新スキル【超回復力】と【肉を切らせて骨を断つ】任せで強引に相手の目を噛み砕く。
爪が掠って、俺の片足がすっぱりと持っていかれた。
転びそうになるのを【飛行】で逃れて、翼を切り替えながら空中戦に持ち込む。
「グレン、一度、下がるミザ!」
「ゐーんぐっ!〈【炎の鷹】【雷の鷲】【氷の梟】〉」
属性系状態異常付きの遠距離魔法攻撃を次々と繰り出す。
色々なモヤモヤを暴れることで吐き出す。
それこそ、若かりし頃の俺に戻ってしまったような気になる。
「危ないですわ!」
一瞬、意識を逸らしたことで、大型の『ガンシップ』をリンクさせてしまう。
射出された極小『ガイガイネン』が迫るのを、みるくが身体を張って助けてくれる。
「ゐーんぐっ!〈みるくっ!〉」
「グレン様、ご無理なさらないで下さい」
「なんだか今日はグレンさんの動きが雑ピロ」
うっ……自覚はある。自覚はあるが、今日はちょっと止められそうにない。
俺は各種ポーションを被って痛みを消し去ると、傷が塞がる前に再度、突撃していく。
感情のままに強くなれたら、世話はない。
当たり前だが回復が間に合わなくて死んだ。
ポータル移動で『軍基地』。【飛行】スキルをアレコレ使って『飛行船発着場』。敵を見つけたら突撃。と繰り返していく。
やはり、俺の動きは雑になっているらしい。
スキル任せの攻撃、自滅覚悟のカウンター、痛みを身体に刻み込んでいく。
避けタンクとしての動きは、今回ほとんどできていない。
ガチャ魂も攻撃主体のセットにしているせいで、ぽこぽこ死んだ。
また戦場に戻って来た。
よし、突撃するかと走り出そうとしたところで、煮込みに腕を掴まれた。
「どうしたミザ? グレンらしくないミザ!」
「ゐーんぐ?〈そうか? こっちの方が本来の俺なんだけどな?〉」
「違うミザ! グレンはそんな自暴自棄みたいな突撃を一番嫌ってるミザ!」
「ゐーんぐっ!〈そりゃ、煮込みが俺を知らないだけだろう。悪いがあまり分かったような顔をして欲しくないな!〉」
俺は煮込みの腕を振り払った。
「大丈夫ですよ、グレン様のやりたいようになさってください。
私はちゃんと着いていきますから!」
復活したみるくが合流してくる。
「ゐーんぐ〈別に、無理に付き合わなくていいぞ〉」
「いいえ、わたくし、好きにやらせていただいているだけですから、グレン様はお気になさらないでください」
俺がぽこぽこ死ぬのに合わせたように、みるくもかなりの頻度で死んでいる。
大抵において、俺を庇ってダメージを受けすぎた上で、回復しきれずに死んでいるので、突出しすぎを注意しているが、みるくは何処吹く風と、俺の横で戦いたがる。
『飛行船発着場』は早々にNPC救助が成功した場所だったが、焦りのため発電機が動きっぱなしになっていた。
そのため、その動きに釣られた『ガイガイネン』が集まっていて、『ガイガイネン』の一大拠点のようになってしまっている。
この場所の奪還は今後の動き的にも重要だ。
『ガレキ場』には滑走路がない。
それ故、滑走路なしで離発着ができるタイプの航空機の確保は必須と言える。
リアル時間で昼から始まっている掃討戦だが、拠点になりそうな場所には大抵大型の『キャリアー』が数匹いて、簡単には終わらない。
今もまた、先ほど倒しきれなかった『キャリアー』から小型『ガイガイネン』が次々と生まれて危うく戦況が敵に傾きかけていた。
「ゐーんぐっ!〈くそ! またか!〉」
俺は懲りもせず、突撃する。
【封印する縛鎖】で左腕を犠牲に『キャリアー』を縛る。
じーん、とした痛みを無視して、【神喰らい】であちらこちらと噛み砕いていく。
『ガイガイネン』には視覚や聴覚などの概念はあるが、体内は白い肉と透明な血があるだけで、内臓などの重要な器官がない。
張りぼてのような生物だ。まあ、そもそも生物かどうかも怪しいところだが。
簡単に言えば、弱点らしい弱点がないのだ。
俺がコイツを単騎で倒そうと思うと、部位破損で動けなくするくらいしか考えられない。
目を奪い、脚をもぎり、背中を潰す。
そこまでやっても、座標爆破という手段が残る。
「どくミザ!」
煮込みこと『マンティスミザリー』が俺を庇って爪を受ける。
「ゐーんぐっ!〈煮込み!〉」
「この程度、大丈夫ミザ!」
「気を抜いたらダメピロ!」
俺の背後を狙ってきた『ランナー』をムックの変身した怪人『シノビピロウ』が受け止める。
「ああ、お二人とも、ついに目覚めたのですね!」
みるくが祈るよう手を組んで、感極まっていた。
「「違うミザ〈ピロ〉!」」
「今日だけ、グレンの好きにやらせることにしたミザ」
「たまにムシャクシャして、何もかもがどうでも良いと思う時って、あるものピロ」
「あとはレベル上げてくれないと、連携取りづらいミザ!」
今までは俺の突出した状態異常での戦闘補助こそが俺の華だったが、状態異常が長続きしない今、避けタンクしかやれない状態に陥っていた。
新たな避けタンクの道が見えたこと自体は良かったが、俺の動きがトリッキーすぎて、仲間たちには攻撃チャンスが見えづらく、負担をかけていたのかもしれないと、俺はようやく気づいた。
だが、それよりも、みるくと煮込みとムックが最弱ダメージの俺を〈部位破損だが〉ダメージディーラーにしてやろうという、俺の気持ちを汲み取る優しさを取ったことに、俺は深く反省した。
そう、俺はムシャクシャして暴れたかっただけなのだ。
だが、仲間がそれを許容しようと変化した。
くそう……なんで俺なんかにそんな優しくできるんだ!
「ゐーんぐっ!〈今日だけだ! 今日だけ、許してくれ!〉」
「まあ、たまになら許すミザ」
「あまり気にしなくていいピロ」
「いつでも、グレン様のお好きなように楽しんでいただければ良いんです」
なんか、みるくだけ違う気がしてきたが、今はその言葉に甘えておこう。
ただ今の状態は、余りにも仲間に申し訳が立たない。
せめて、なにか方法論はないかと考える。
ましろこと『ホワイトセレネー』ほどではないが、最近はリアルでもスキルの訓練をしたりして、多少は自分のスキルに精通してきたはずだ。
ここらで、ドカンと完璧なスキルの使い方を編み出したりできないだろうか。
別にスキルを使わなくてもうさぎ耳の出し入れができるようになったんだよな、俺。
アレは身体の中のMP的な感覚を操ることで使える技だと言える。
つまり……今、この右腕が変化した狼頭を、死んでリセットすることなく戻せる……なんの意味がある?
俺の唯一の取り柄みたいなものなのに、戻してどうする。
いや、逆に身体の中のMPを右腕の狼頭に集中させてみたら?
───ランダムランクアップの効果を一部、適用します───
脳内にアナウンスが響く。
コギト・エルゴ・スム?
聞いた記憶はあるが、なんだったか?
身体の奥に滾る炎と氷が膨れ上がる。
そう、最初、俺は炎だった。熱く燃えて盛んな業火で全てを焼き尽くす使命があった。だが、義父の教えにより、冷たく凍った意志を創り出した。怒りを燃やし、冷徹な意志を吹雪かせる。これを為した時、俺の中で何かが変わった。この喉を貫く刃は神々の鉄の意志だ。
俺の動きを封じ、この強靭な顎を使うことを禁じている。
炎で焼けず、氷で砕けぬ、剣という名の牢獄。だが、俺の怒りは収まらず、一方で冷たく計算を張り巡らせた。時を待つのだ。焼いて、冷まして、このくびきから解放される時を。
罅が入る。あと少し……。
一瞬、MPが身体から抜けて右腕に集中したことで、眠り死ぬかと思った。
くっそ! MPを集中したところで何も変わらない。
元から、ほぼなんでも噛み砕ける狼頭なのだ、パワーアップするはずもなかった。
仕方がないので、もう一本、『キャリアー』の脚を奪わせて貰おう。
仲間がタンクとして攻撃を受け止めている隙を窺い、俺は右腕の狼頭を振るう。
バクンッ! 瞬間的に俺の右腕が爆発的に大きくなって、大型『ガイガイネン』を丸ごと齧った。
なんじゃこりゃ!?
右腕が勝手に動いて、天を向くと、舌と歯を使って噛み砕き、呑み込む。かと、思えば、それは一瞬で元の大きさに戻っていた。
「な、何やったミザ?」「今の何ピロ?」「さすがグレン様……」
仲間たちが口々に言う。
「ゐーんぐっ!?〈怖っ!? 自分でも分からないぞ!?〉」
いや、確かにスキルの完璧な使い方を望みはした。だが、今のは……。
「今のは……」「ああ、ラグナロクイベントの終わりの蛇に似ていたバズ」「か、肩パッド様がお怒りなのか……」「は〜、なんまんだぶ、なんまんだぶ……」「やべぇ、俺も入信しそう……」
周りの戦闘員たちが「なんだ? なんだ?」と口々に騒いでいた。
俺も良くわからなかった。
ただ、レベルは六十五まで上がっていた。




