254
書けたから出した!
ちょっとお久しぶりの二話更新です!
外だ。
『トンネル』で最後の大型『ガイガイネン』を倒した時、外からの光が俺たちを照らした。
「おお……ご、五時間!?」「うお、マジか。なんか俺ら実は通ったらダメなルート来ちゃったとか?」「いや、リアじゅーにかぎって、そんなルート短縮、壁抜けバグみたいなのあると思うか?」「リアじゅーだからな、正規ルートのひとつに、ルート短縮、壁抜けバグが仕込まれてても、俺はもう、その手があったか、としか思えない身体なんだよ」「そう言われると、なんも言えねえよ……」
俺たちは沸き返った。実に五時間ぶりくらいだからだ。トンネル内は交代制で敵を殲滅しながら進んだとはいえ、緊張感が高いままの五時間だ。
少しだけ気を抜いてしまったのも無理からぬことだと思う。
先頭車両が外に出て、無線から「空だ……空が見える……」と聞こえてきた時に全員の気が逸った。
穴から春の息吹を嗅いだかのごとく、車両が次々と外に出た。
出た瞬間、前の車両が止まっているのを見て、横に避けつつ並ぶを繰り返す。
俺たちは見た。
そこは『ガレキ場』だ。
周囲には壊れたビルの上から壊れたビルを放り投げたようなガレキが山になっている。ついでに車や標識、何かの看板なんかをトッピング代わりに上からふりかけると、こんな感じになるだろうか。
「ガレキ場……いつかイベントで使われるだろうと思ってたけど、こんなに早いなんて……」
レオナが呟いた。
「お、全体チャット見られるぞ!」
誰かが言った。俺たちはほぼ全員がチャットの確認に視線を落とした。
だから、俺たちの車両に落ちた幾つもの影に気づくのが遅くなった。
俺たちが乗る車両の横に出ていた生態調査班の乗った車両が吹き飛んだ。
そして耳には聞き覚えのある音が俺たちの中心で聞こえた。
ミュイン!
「変身!」
咄嗟にましろの声がして、何かに引っ張られるように俺の身体が浮いた。
空が見える。その上に逆さまの『ケージ』、それから反対向きのガレキ。
ドカン! と音がして俺の足元で爆発。同時に俺は吹き飛ばされて、強かに腰を打った。
「ゐーんぐっ……〈いつつ……一体、なにが……〉」
「簡単に死なないでください!
貴方を倒すのは私なんです!」
逆さまで、ずり落ちた俺が見たのは、俺を庇ってガレキの壁に人間大のクレーターを作っている『ホワイトセレネー』だった。
周囲を見れば、幾つものガレキの山の上から顔を覗かせる大型『ガイガイネン』たち。
『ガレキ場』が今回のイベントのメイン会場なのだとしたら、『トンネル』からのこのこ出てきて油断していた俺たちは、さぞや良いカモだっただろう。
狩りに来て、獲物になってりゃ世話がない。
俺たちは一瞬にして瓦解した。
車の中にいきなり座標爆破のエネルギーが発生して、生き残ったのはほんの十人足らずだ。
対して顔を覗かせている大型『ガイガイネン』は二十を越えている。
うっ、『キャリアー』に『ガンシップ』が半数くらいいる。
目の前が真っ赤になって、俺は慌ててそこを飛び退いた。
あの空気のぼやけ具合は『クリア』か。
だとすると大型『ガイガイネン』は三十以上か……。
「ゐーんぐ!〈クリアだ、気をつけろ!〉」
弾なし『ガンシップ』の相手をしていた『ホワイトセレネー』を引っ張って逃がすと、『ホワイトセレネー』のいた場所に巨大な爪が突き立つ。
「なっ……あ、あれくらい耐えられました!」
つまり、避けられなかったんだろ。
「ゐーんぐ!〈悪いが、使わせてもらうぞ!〉」
俺は周囲を見渡して、敵のヘイトを集めまくる。
「ゐーんぐっ!〈お前らもこっち向け! 【エレキトリック・ラビット】〉」
無理に勝ちを狙わない戦い方は俺のスキルに合っている。
ちょっかいを掛けて、逃げ、別のやつに一撃食らわせて、避ける。
大型『ガイガイネン』にしてみればHPダメージは微々たるもの。
状態異常も、俺がレベルリセットしたことで一秒あるかないか。
ただ、状態異常でタイミングを狂わせると、面白いようにヘイトが稼げる。
『クリア』を中心に十匹ほどのヘイトを稼ぎつつ、左手に野菜、右手でスキルを放ちつつ、尻尾で動きに緩急をつける。
「肩パッドの動きが洗練されている……それでこそ肩パッドですね……」
「ホワイトセレネー、感心している場合じゃないでっす!」
俺がヘイトを稼ぎまくっている間に、生き残りたちが集まって背中合わせにお互いを守るように布陣する。
「【ダブルパワーショット】!」
『ホワイトセレネー』のスキル発動前に、強引に割り込ませてもらう。
「ゐーんぐっ!〈その攻撃、もらった! 【雷瞬】!〉」
「あぶなっ……くっ、間に合わない!」
俺が『ホワイトセレネー』の射線上に立ったことで、『ホワイトセレネー』はなんとかスキル発動を留めようとするが、それで生まれる隙は一瞬。
だが、その一瞬に俺はスキルでその場を離れる。
俺を追う『クリア』の一匹がその射線上に入って、大ダメージと共にひっくり返る。
「そこっ!」
それを見逃さず、生き残ったレオナの『ショックアロー』が『クリア』にトドメを差した。
「くっ……肩パッドぉぉ!」
俺の動きに憤慨しつつも、俺を追う『ケージ』にスキル射撃を当てる辺り、『ホワイトセレネー』はしっかりしている。
え、そうだよな? 俺を狙ったわけじゃないよな?
射線上に俺も居たんだが……いやいや、まさか……。
偏差射撃だろ。上手いね、さすが!
この辺りまでは上手くいっていたんだが、ドブマウスがあることに気づいたことで、状況が一変する。
「あそこに小型が一匹いるでっす!」
それは小型『ガイガイネン』の中でも分類にない種類のやつだった。
背中の上に丸い円盤を載せたような小型『ガイガイネン』
「ぐはっ、食らっちまった! ん?」
「フォローします! 円の中で回復を!」
一人の『りばりば』戦闘員がダメージ回復のために下がる。
そいつの抜けた穴を埋めるべくレオナがフォローに回る。
「おいおい……マジかよ。
感覚設定、上がってるぞ!」
「なんだと!? おっと……このやろ! うおっ、たしかにこの反動は少し上がってる感じするな……」
別の戦闘員がそれに反応する。
ドブマウスが更に報告。
「あ、六時と八時方向にも、小型、さっきの円盤のやつでっす!」
「おいおい、勘弁してくれ! 80%になったぞ!」
回復に務めていた戦闘員が叫ぶ。
どうやら、円盤付きの小型『ガイガイネン』は一匹に付き20%、感覚設定を上げてくる敵なのか。
「以後、円盤付きを暫定『ジャマー』と呼称、ホワイトセレネー、『ジャマー』を優先的に狙えますか?」
レオナが指示を出す。
「大丈夫です! まず一匹。【降り注ぐ月光】!」
「よし、60%に落ちた! いや、100%に上がった!?」
「四時と十時方向にジャマーでっす!」
ドブマウスは索敵能力が高いのか。
「うおっ、おっかねぇ!」「いてえ! くそ、腕が……」「ぐっ、マジかよ……」
一人が崩れると、危ういバランスで耐えていた布陣が崩れる。
どうにかしたいが、俺はあっちこっちでヘイトを集めていて、まともに動けない。
「ちょ、ちょ……あいたーっでっす!」
「きゃあっ!」
ドブマウスと『ホワイトセレネー』も崩れた。まずい。
周囲はガレキの山で、そこら中に敵がいる。
逃げ場がない。
「グレンさん、上へ! おひとりなら逃げられます! 位置の確認を!」
「ゐーんぐ!〈くそ! 一人くらいなら連れて行ける! レオナ、来い!〉」
俺は大型の囲みをすり抜けるようにして、手を延ばす。
「ましろさんを! 痛みに慣れてません!」
レオナは『ホワイトセレネー』の手を取ると、その手を俺の手に乗せた。
迷っている場合じゃない。
「ゐーんぐ!〈レオナ、お前も捕まっとけ! 【飛行】!〉」
「お願いします! 彼女を!」
俺は飛んだ。飛んだ瞬間、急いでガチャ魂を付け替える。
適当に抜けるガチャ魂を抜いて入れるのは、『ファイアーバード』『サンダーバード』『フリーズバード』だ。
『トンネル』内でレベルアップした時、それぞれの二段階目のスキルを解放した。
これなら!
俺は確認を怠った。
どうにか掴んだ腕は『ホワイトセレネー』のもので、レオナは『ホワイトセレネー』に抱き着いていると思ったのだ。
だが、ガチャ魂の入れ替えをして、俺が下を確認すると、そこにレオナの姿はなかった。
くそ! お願いしますって、ホワイトセレネーだけかよ!
痛みに慣れてないって、シャーク団にチートされた時、お前だって動けなくなるくらい痛みに喘いでいたくせに!
下は『ガイガイネン』で埋めつくされていた。
俺は【飛行】可能時間の十秒目前で付け替えたガチャ魂のスキルを発動する。
「ゐーんぐっ!〈【炎の翼】【雷の翼】【氷の翼】〉」
俺の飛行可能時間を伸ばしてくれるスキルだった。
俺の六枚の翼がそれぞれ炎と雷と氷を纏う。
見た目がやべぇ……。
だが、今はそんなことよりも大事なことがある。
ここが『ガレキ場』なら、『ガレキ場』のどこなのかを確認する必要がある。
また五時間かけて、敵の罠に入りに行くのでは、どれだけ時間があっても攻略は不可能だ。
『ガレキ場』のどこなのかを理解すれば『飛行場』から空路を使っての強襲ができる。
だが、下を見下ろしてもガレキの山ばかり。
どこかにランドマークでもないかと周囲に目を凝らす。
少し視野を拡げてみる。
ガレキの山の外側に、普通の山がある。
あれ? あのビルの看板?
半分崩れたビルの屋上に、見覚えのあるトラのマークの看板が見える。
大日本引越しサービス社とあった。
俺は空いた手で必死に目を擦る。
だが、目に映る景色は変わってくれない。
何故だか俺の胸の鼓動が速くなる。
真下を見る。
『ガイガイネン』の『トンネル』出口ではなく、ガレキの山の合間に見える道路や、全壊していないビルなどを必死に記憶と照らし合わせる。
似ている。
俺の住む地域にとても似ている。
街のモデルとして選ばれた?
正直、何の変哲もない街だ。方向で言えばあちらにウチの会社が入ったビルがあって、さらにあっちに俺の住むアパートが……俺は熱に浮かされたようにそちらに進もうとすると、声が聞こえた。
「お、降ろしてください……」
はたと気づいて、掴んだ手の先を見る。
『ホワイトセレネー』がぶら下がっていた。




