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253〈はじめてのトンネル攻略〉


 『トンネル』入口。

 カモフラージュなのか、たまたまそうなったのか、『トンネル』入口は車両が通れなさそうにすぼんでいる。

 この辺りは自然な造形という感じなので、偶然かもしれない。


 ラグナロクイベントで塹壕を掘りまくった俺たちを舐めるなよ、とばかりに一気に入口を拡張。

 これで、デカい図体の装甲兵員輸送車が通れるようになった。

 当然ながら内部は暗いかと思っていたが、『トンネル』内の壁全体に薄青く光るキラキラした鉱石があって、それが『トンネル』全体を常夜灯程度に照らしていた。


「ゐーんぐ……〈不思議な光だな……〉」


「ああ、これは寝床石といって、フィールドの洞窟などで取れる石ですね」


「違います、これはブルーフリントという宇宙鉱石ですよ」


 レオナが俺に答え、ましろがレオナに答え、レオナとましろが顔を見合わせる。


 レオナが車載無線を手に、全体に止まるように叫んだ。

 『トンネル』内部に入った瞬間からプレイヤーのチャット機能は不通になっていて、車載無線が辛うじて使える状況だ。

 それも『トンネル』内限定で、既に外部との連絡手段はない。


 入って五分。今のところ敵影なし。


 レオナとましろとドブマウスがそれぞれに鉱石を採取した。


「もしかしたら新素材の可能性があります。

 これでどちらが当たりを引いたとしても恨みっこなしということで」


「そうですね」


「シティエリア特有の新素材の可能性もあるでっす!」


「それが最善ですね。このガイガイネンイベントがどちらかの文明によって引き起こされたとは考えたくないですから……」


 見た目なり性質的にはそれぞれの文明に同じようなモノがあるらしいが、詳しくは検査をしてみないと分からない。

 たしかにドブマウスの言うように、どちらの陣営にも属さない新素材であってくれた方が、最善ではある。

 でなければ、新たな諍いの種ということになりそうだからな。


「レオナさん、簡易検査やります!」


 装備部の一人が手を挙げる。

 そういう装備を生態調査班として持ち込んでいるらしい。


「いえ、これはお互いに本部に持ち帰ってからにしましょう。

 今はどの結果が出ても最悪な結末にしかなりませんから……」


 レオナはそう答えた。

 魔法文明の検査で分かるのは、それが魔法文明産かそうでないかの二択にしかならない。

 魔法文明産なら、ガイガイネンは魔法文明から産まれたということになり、科学文明と『シティエリア』のNPCから恨みを買う。

 そうでなかった場合は、科学文明側に非がある可能性が出てきてしまい、せっかくの今の共闘状態に大きな溝ができてしまう。

 今、それはまずい。

 そういう意味で、レオナの答えは最善だと思う。


「いや、めっちゃ気になるでしょ。レオナさんだって調べたいでしょ?」「バカ、今はよせって……」


「ふう〜……以後一週間、一次工程担当!」


 レオナが失言した装備部メンバーに指を突き付けた。


「ぬおっ、苦行、ありがとうございますっ!」


 一瞬、苦しそうな顔をした装備部メンバーだが、すぐ真面目な顔になって最敬礼した。


「バカだな、お前……」


 他の装備部メンバーが呟く。


 ああ、レオナの調教は装備部にもしっかり浸透しているんだなぁ。


 大きくため息を吐く辺り、レオナも我慢しているらしいことが分かる。調べたいのか……。


 とりあえず、全員戻って、行進を再開する。


 『ガイガイネン』に先に発見されるのを防ぐため、ライトは消している。

 薄明かりの急勾配で『ガイガイネン』を先に見つけるべく車を走らせているので、スピードは遅い。

 さすがに歩くよりは速いが、あくまでも徐行程度しかスピードを出していない。


 敵の姿がみえないと思ったが、そんなことはなかった。

 前方の車が止まって、それに併せて、全車が停止する。


 昨日、ムサシたちはリンクを防ぐため、かなり慎重に立ち回ったと言っていたが、今日は人数がいるので、数匹ずつリンクさせるつもりで動いている。

 どこまで続いているか分からない『トンネル』だ。今日中に何かしら見つけたい。


「ランナー、シールダー、ウィザードまでリンク、後方にランナーが見える」「よし、まずは三体で行く。後ろのランナーを引っかけるなよ」「おっしゃ、殴れ、殴れ!」


 先頭車両に乗る人員を入れ替え制にして、疲労が溜まりすぎない程度で交代していく。

 これによって進みが速くなる。


 変身できる『りばりば』戦闘員はすでに変身していて、なかなかの殲滅速度だと思う。

 俺以外は全員、カンスト勢かカンスト間近だ。

 『グレイキャンパス』も危なげなく三体程度の『ガイガイネン』を倒していて、さすが傭兵業という姿を見かける。


 それは『ムーンチャイルド』も同様だ。

 人数が少ないので、俺とレオナ他、数名がフォローに入っているが、たぶん、俺たち『りばりば』がフォローする必要がないくらい、動きも洗練されていて強い。


 車両で二時間半も進んだところで、今度は勾配が下りではなく、登りになった。

 なんだか折り返し地点のように思えて、俺たちはようやく少しだけ笑顔を見せた。


「大型、ガンシップだ!」「下がれ! 距離を取るんだ! 食われないようにだけ気をつければ、奴は弾丸補充ができない……」「なっ、座標爆破も使うのか! や、やめろ、食うなーーーっ!」


 前方から声だけが聞こえる。


「車両、後退! 各個で応戦を!」


 その声に、粛々と俺たちは退る。

 各車両から数人ずつが飛び出して、極小『ガイガイネン』を待ち受ける。

 俺たちの車両でも、ましろが屋根に登って弓を構える。


 ドドドドドッ! と大きなモノが射出される音がして、装甲兵員輸送車の小さな窓から極小『ガイガイネン』を確認する。


 伊勢エビのように甲殻がボコボコしていて、何本もの脚を折りたたんで、弾丸のように飛ぶ様はなんとも気持ち悪い。


 俺たちの乗る車両の屋根から強い光が放たれた。


「前方に行きます。誰かフォローを!」


 ましろの声と共に白い鎧を身につけた『ホワイトセレネー』が屋根の上を駆け抜けていった。


 変身できたのか。


 『ムーンチャイルド』の別の戦闘員が屋根に登っていく。

 前方で激しい明滅光が見えた。


「撃ち落とします! 【降り注ぐ月光(ムーンライトシャワー)】!」


 しばらくして、戦闘が終結する。

 『ホワイトセレネー』が戻って来る。

 変身を解いて、ましろが言う。


「隠していたことを謝ります。私がホワイトセレネーです……」


 罵詈雑言を浴びる準備はできているとばかりに俺たちを見据えるましろ。


 あ、えっと、うん、知ってた。あ、いやいや、この答えはまずいな。


「あ……その、何故、今まで変身を……」


 なんとかレオナがそれだけ絞り出す。


「温存させてもらっていました。

 スーツの内蔵酸素に限りがあるので……」


 密閉型のスーツなのか。だが、弱点でもあるそれを俺たちに告げるのは、かなり勇気がいるだろうに、ましろはちゃんと教えてくれた。


「そ、そうですか……ええと、今のはここだけの話にしておきます……」


「そう言っていただけると助かります」


 ましろは頭を下げた。


 その後、折り返し地点から三時間。

 俺たちは車両から前方に降り注ぐ光に外の気配を感じて、湧き上がるのだった。



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