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 本日のニュース。

 どこかの大学の研究室で死者七名を出す事件があったらしい。

 どうも大学名に聞き覚えがあると思ったら、先日、漁船が捕まえた怪物が運び込まれた大学だ。

 どうやらその研究室ではドロドロの人間関係があったとかで、お互いに殺しあったような痕跡が残っていたらしい。

 怖い話だ。


 さすがにこのニュースは『リアじゅー』による影響ということはないだろうと、いちおうサードアイのホームページをチェックする。

 まだ、更新はない。

 まあ、それもそうか。


 少しだけ、家の中でスキル練習をする。

 鏡の前でうさぎ耳を生やしたり、熊顔にしたり、狼顔にもなれるようになった。

 ふと、この現実でスキルが使える状況に慣れてきた自分を意識して、なんとも言えない顔になる。

 いや、狼顔だったか。


 一瞬、下半身にMPを流しそうになって、慌てて止めた。

 尻尾はズボンがダメになる。気をつけないとな。


 身体の中でMPを循環させているだけなら、力が抜ける感じはしないので、MP使用には当たらない気がしている。

 今のイベントの性質上、長時間ログインが基本になるため、なかなか廃神社にスキル練習に行く暇がない。

 少しでも、スキルを自分で制御して、超能力者だとバレないようにしたい。

 政府に捕まって実験動物扱いはごめんだ。


 そんなことをしていたら、そろそろログイン時間だ。

 朝方に静乃から来たメッセージによれば、『りばりば』との共闘に人を派遣予定とのことだった。

 おそらく、今日にも『トンネル』探索が進められると思う。


 やれるなら、参加したいところだ。

 避けタンクももう少し練習したいしな。


 俺はログインした。




 ポータルを使って『軍基地』へと移動する。

 楽だ。

 昨日も一昨日も移動だけで随分と時間が取られた。

 それを考えれば、早く隠れ家を確保して普通のポータルを置いて欲しいものだ。

 今のところ一瞬での帰りはログアウトか死にワープしかないからな。


 ポータルの置かれたテントを出て、『軍基地』内で司令部代わりにしているテントに入る。

 今日はレオナが司令官らしいな。


「ああ、グレンさん、お待ちしてました」


「ゐーんぐ?〈待っていた?〉」


「いえ、グレイキャンパスの方がまだなので、問題ないですが、トンネルの位置を正確に知っているのがグレンさんだけなので」


 情報は分かる限り渡してあるが、やはり、直接的に知っている俺を使いたいとのことだった。

 志願する手間が省けたな。

 俺はレオナと改めて情報を詰める。


「生態調査班からの報告で大型ガイガイネンにも幾つかパターンがあることが分かりました。

 大型犬くらいの極小ガイガイネンを弾丸のように射出する『ガンシップ』。

 基本的な小型ガイガイネンを産み出す『キャリアー』。

 ガイガイネンを産み出す能力はないものの、透明化能力を持つ『クリア』。

 NPCを丸呑みして背面に捕える性質を持つ『ケージ』が確認されています」


 『ガンシップ』と『キャリアー』はNPCやプレイヤー、さらには動物を食らって、極小や小型『ガイガイネン』を産み出す。

 極小『ガイガイネン』は見たことがないが、スピードを利用した突撃を多用してくるらしい。


 『クリア』と『ケージ』も未確認だ。

 『ガンシップ』、『クリア』、『ケージ』は生態調査班が『トンネル』の中で確認した種類なので、まだどこにも出回っていない情報だ。

 きちんと文章化して、他レギオンに共有予定とのことだった。


 これには小型『ガイガイネン』である『ランナー』『ウィザード』『シールダー』『リサーチャー』も含まれる。


 生態調査班は俺が抜けてからそうとう頑張ったらしい。


 レオナに個人チャットで連絡が入る。


「グレイキャンパスの援軍が来たようですね。

 あ、ちょっと待ってください……」


 レオナが個人チャットで幾つかやり取りをしてから、難しそうな顔で俺を見た。


「ムーンチャイルドからも援軍が来たみたいです……どうしましょう?」


「ゐーんぐ……〈俺は幹部じゃないからなんとも答えようがないが……まずは対話できるなら、話してみるのもいいんじゃないか?〉」


「そ、そうですよね。

 すみませんが、一緒に来てもらっていいですか?」


「ゐーんぐ!〈ああ、構わないぞ〉」


 俺はレオナと共に『軍基地』入口へと向かうのだった。


 そこには灰色のスーツにデスマスクをつけた『グレイキャンパス』のプレイヤー三十名とアシンメトリーな青と白と銀の未来的なシルエットの軍服を着た『ムーンチャイルド』のプレイヤー八名が待っていた。


「グレイキャンパスの代表、ドブマウスでっす!」


「は、はじめまして。ムーンチャイルドのましろと申します。

 か、かか、肩パッド!

 ……はっ、し、失礼しました!」


「ゐんぐっ!〈ぶほっ!〉」


「えーと、そのリヴァース・リバースのレオナです……ち、ちょっと待ってくださいね……」


 俺とレオナは後ろを向いて小声で話す。


「ど、どうしましょう……ましろさんて、ホワイトセレネーですよね?」


「ゐーんぐ……〈どうするも何も、俺が聞きたいところだ……〉」


 肩パッドである俺は『ホワイトセレネー』に恨まれているが、グレンとしての俺は畑のお隣さんとして、一緒に『郊外』地区の緩衝地帯化に尽力する仲で、非常に複雑だ。

 今は人間アバターを着ていなくて良かったやら、悪かったやら……。


 レオナも正式な場ということで人間アバターを着用していないが、畑で俺と一緒に会っていることだし、複雑だろうな。


「だいじょぶでっす?」


「あ、はい、大丈夫です!」


 レオナの声が少し上擦っている。珍しい。


「簡単に経緯を話させてもらうでっす!

 『りばりば』さんからお話をもらった時にウチの伝手でムンチャさんにお話させてもらったでっす!

 そしたら、ぜひ、手伝いたいと手を挙げてくれたのがこちらの八名でっす!」


 ドブマウスと名乗った小柄な女性が説明? してくれた。

 説明になっているような、いないような?

 すると、ましろがすかさずフォローを入れて来る。


「ええと、ですね。

 最初に謝らせてください。すみません……今回のこと、ムーンチャイルドの総意ではないんです。

 できればムーンチャイルドの総意ということで援軍を出したかったんですが、技術問題とかで援軍は出さないと決まってしまいまして……」


 ましろの説明を要約すると、ましろたち『ムーンチャイルド』の八名は自由意志の名のもとに来てくれた、言うなれば志願兵なのだった。

 『ムーンチャイルド』側が恐れた技術流出を起こさないため、武器なし、アイテムも最小限、流出しても問題ない範囲のものしか持っておらず、それでも援軍として来てくれたのは、一刻も早いイベントの収束のためだった。

 NPCが襲われるこの状況を早くなんとかしたいとの想いで来ていて、もちろん『りばりば』からの技術流入を起こそうだとか、スパイしてやろうという気持ちはないので、何か手伝わせて欲しいと訴えかけて来た。

 必要なら監視をつけてもいいし、拘束しておいて戦闘の時だけ手伝わせるでもいいとまで言って来た。

 さすがにここまで言われて、追い返すわけにはいかない。


「どうするかはりばりばさんに任せるでっす!

 ご紹介したところまでで、ウチの仕事はひと段落でっす!

 もし、信用できないなら、ウチで預かってもいいでっす!」


 ドブマウスはそう提案してくる。

 だが、レオナはそれにはすぐに反応を返した。


「いえ、大丈夫です!

 どちらかと言うと、ウチ側の問題というか、今回は特に新技術に飢えた者たちが参加するので、そいつらに近づかないでもらえれば問題ないと思います」


 昨日の生態調査班は今回も参加する。

 レオナは司令官の役目をジョーに預けて、自分も行くことにしたらしい。

 装備部が暴走しそうになった時、止められるのは自分だけだからという理由だった。


 『りばりば』陣営からは生態調査班とは別に三十名が参加する。

 見知った顔も見知らぬ顔もある。

 いずれも精鋭たちという顔ぶれだ。


 道中は運送ドローンを使ったバックアップ付きで、一気に『トンネル』まで行く予定だ。


 今回は『オメガラボ』は使えない。

 何しろ、『トンネル』に侵入を決めた段階で『オメガラボ』は放棄したらしい。

 今頃は『りばりば』の『シティエリア』専用武器と同様、溶けて跡形もなくなっているとのことだった。


「新造するには時間が……」「あと二時間もらえればやれたのに……」「さすがにそれは無理てぶ」


 『軍基地』から装甲兵員輸送車をまたまた借り受けての出発だ。

 借りとは言っても返せるあてのない借りだ。

 後で弁償することで話はついているらしい。


 装甲兵員輸送車が発進する。


 目指すは『トンネル』。

 目的は『トンネル』の終点の確認。

 あわよくば、マザー発見だ。

 今回で倒すというより、マザーの位置、または『巣』の発見が第一任務だ。


 道中、ドローンで排除・誘導しきれなかった『ウィザード』や『シールダー』を倒しながら、大まかな方向だけで進む。

 俺もなるべく一撃入れさせてもらって、なるべく経験値を稼いだ。


「また肩パッドと共闘することになるなんて……ほら、ちゃんと足止めしてください!」


「ゐーんぐ!〈やってるだろ! お前こそちゃんと周り見ろ!〉」


「むむむ……何か文句言われてる気がします……【パワーショット】」


 ましろはNPC軍人用の弓を使っている。

 変身はしないつもりか?

 まあ、レベルの高さと強スキルのごり押しでそれなりに戦果を挙げているから、変身はなくても問題ないと言えば、ない。


 戦闘に積極的に参加することと、他のやつらは使うのを躊躇していたが、俺は躊躇なく『ショックバトン』でダメージを稼がせてもらったおかげで、Lv20になった。


 その後はみんな、俺が遠慮なく『シティエリア』専用武器を使う姿を見て、自分だけ自重するのはバカらしいと『シティエリア』専用武器を持ち出して殲滅速度が上がったので、それは貴重な第一歩だと思う。


 『りばりば』は自由が売りだ。

 もし、ましろたちの中にスパイが居たら、自分で責任持ってそいつを潰せばいいだけだ。

 潰し方が分からない時は、ほら、そこで『ショックブレード』をいち早く抜いているムック先生に聞いたら教えてくれるぞ。


 それから俺は、自分の見た景色を思い出しながら、ちょくちょく【飛行】して、方向を修正していく。


 そうして俺たちは『トンネル』のある電波塔までの道を見つけたのだった。


「い、いつのまに翼が……油断なりませんね、肩パッド……」


 俺に聞こえるところで文句を呟くの、やめて欲しい。

 完全に心の声、漏れてるぞ。



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― 新着の感想 ―
[一言] >ムック先生に聞いたら教えてくれるぞ。 いや、お前の場合は狂信者が闇に葬るから潰せないと思うぞ?
[良い点] おもしろくて一気に読んじゃいました! [一言] 魔法か科学それとも共存か難しい問題ですね…… 現実世界が混沌としてきて悩ましい。
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