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24〈はじめてのフィールドボス〉

三話目です。


 薬草広場、とマップに書いておく。

 つい二日前、ここで生きる喜びを感じ、電極兎や『ガイア帝国』のネスティと死闘を演じたのは、ここのすぐそばだった。


 なんだか、懐かしい……一昨日のことだが。


 ジッと花を見つめる。


 ▽薬草▽薬草▽薬草▽薬草▽薬草▽薬草


 逞しいな、薬草……もう復活してるんじゃないか? 

 手を振り回して、薬草を採取していく。

 どうせ畑に空きがたくさんあるしな。

 【農民】スキルで薬草畑を作ろう! 

 昼状況にこの色とりどりの花を付けた畑を眺めるとか贅沢な感じがするよな。


 手当り次第に薬草採取をしていると、結構近くに銃声や爆発音が響く。

 ドキリ、として俺は動きを止めると、音の発生源を探す。


「ヤバい、退避だ、退避! 」


「ガイアー! 」「シメシメー! 」「イーッ! 」「マンジー! 」


「接近武器はダメだ! スキルでも何でもいいから、遠距離攻撃にしろ! 」


 なんだ? 沢山のプレイヤーの声。

 しかも、色々なレギオン戦闘員の声も聞こえて来る。


───『森の主・狂えるエント』の範囲に入りました───


───『ボス戦』を開始します───


───『ボス戦ルール』によりフレンドリーファイア無効・感覚設定30%upが適用されます───


 目の前にいきなりインフォメーションが流れる。

 ボ、ボス戦!? 

 なんだそりゃ? 

 広場にプレイヤーがなだれ込んで来る。


「よし、拓けた場所に出た! 誘導しろ! 」


 叫ぶのは『りばりば』戦闘員の一人。


「閃光落下傘使うぞ! 他に持ってる奴は、ずらして撃ってくれ! 」


 そう言って閃光弾を上空に放ったのは『ガイア帝国』の戦闘員だ。


 ぐお、一瞬、世界が真っ黒になった。

 俺は慌てて『見通す瞳』を外す。

 上空に打ち上げられた光が辺りを照らしながら、ゆっくりと落ちて来る。


 軍服の上にごつい鎧を着けた『マンジ・クロイツェル』らしき戦闘員は機関銃らしきものを連射しながら後ろに退ってくる。


「全員、持ち堪えろ! じきに増援が来る! 」


 わらわらと色んな戦闘員が広場に入ってくる。

 手に持つのは剣やら斧やら、小銃もあれば、クロスボウもあり、武器と戦闘員の見本市みたいに見える。


 そんな中、森から一本の触手のようなものが、木々を縫うように飛び出して、一人のシメシメ団員を貫いた。


「ぐえっ! い、痛てぇっ! なんだこれ!? 」


 そのシメシメ団員を振り払うように触手が引っ込むと、メキメキと木々を押し倒すように他の木々より頭ひとつ高く、胴回りは御神木かというくらい太い、禍々しい顔の浮かんだ巨木が根っこをタコのように、うぞうぞと動かしながら現れた。


 ぎぎぎぎょえーっ! 


 巨木の口が歪むように開かれると、絶叫のような声がする。

 巨木の近くにいたヘルメット青タイツや作業服緑タイツなどの頭上に耳マークにバッテンの『聴覚障害』という状態異常がつく。


「『木の実爆弾』だ! 下がれ! 」


巨木、エントだったか、そいつが全身を震わせると枝葉がぶるぶると震え、バラバラと松ぼっくりみたいな物が落ちる。

 地に落ちた松ぼっくりは、パンッ! と爆竹のような音を立て弾ける。


パンッパパパパパンッ!! パンッ! パンッ! 


 『聴覚障害』を食らった戦闘員は忠告が聞こえず、まともに直撃を食らう。

 松ぼっくりの笠がデカい。

 ギターピック20倍くらいのやつが、やられた戦闘員に刺さっている。


「おい、何やってんだ! 早く撃て! あんたベータテスターだろ! 」


「イーッ? 〈はぁ!? ベータテスター? 〉」


 ああ、煮込みにもらった『ベータスター』のせいか。

 まあ、いい。ものすごく巻き込まれ感があるが、周りの必死な姿に感化された俺は『ベータスター』を構える。


 『ベータスター』フルオート掃射が、エントの表皮に弾痕を穿つ。

 ダメージは、10点程度が入っているので、レイド戦のような理不尽仕様ではなさそうだが、エントには怯みもノックバックも見られない。


「誰か、このボスのHP見えるやついるか! 」


 このゲーム、敵のHPを見るにもスキルが必要らしい。

 声を張り上げるのは、『マンジ・クロイツェル』の機関銃使いだ。


「HP……約2万ってとこだ! 」


「なるべく一割刻みくらいでHPを読み上げてくれ! 二割か三割刻み程度で行動が変化する可能性がある! 」


 このゲームに慣れているプレイヤーなのだろう。

 主に指揮を執っているのは、『りばりば』のライフル使い、『ガイア帝国』のクロスボウ使い、『マンジ・クロイツェル』の機関銃使いといったところか。


 俺はフルオートだと銃身がブレて弾がもったいないので、三点バーストでしっかり狙いを定めて攻撃に切り換えた。

 HP2万、俺一人で削る訳じゃないが、MPは大事に使っていかないとな。


「なるべく距離を取れ! 全方位から囲むんだ! また、森の中へ入られたら厄介だぞ! 」


 『ガイア帝国』のクロスボウ使いが慣れていないプレイヤーなどに注意して回っている。


 ボスであるエントの攻撃は、今のところ四方に伸びる『枝の槍』とぶるぶる震えてから落とす『松ぼっくり爆弾』、極まれに『絶叫』で状態異常『聴覚障害』を与えてくるの三つだ。


 『枝の槍』は四本あって、一度狙われると避けるのはかなり難しい。なにしろホーミングしてくる。

 射程は20メートルってところか。


 『松ぼっくり爆弾』はエントの枝の下、半径10メートル以内にボトボトと落ちてくる。

 『松ぼっくり爆弾』は落ちると半径2メートル以内に笠を飛ばすという感じだ。


 『絶叫』はエントを中心に半径30メートル以内が効果範囲ってところだな。


 今は全員で半径35メートルくらいで囲んで、遠距離武器や遠距離スキルで攻撃している。

 特に指揮を取る3人は他の戦闘員より一際、攻撃力が高いようで、エントの周りを周回しながら攻撃を加えている。

 基本的にエントはこの3人にヘイトを集めているようで、3人が円を描くように動くことで薬草広場の中心から離れられないでいる。


「ヘイトを取ったやつは、ボスを広場から離さないように走るんだ! 」


「じゅっパー! 」


 『りばりば』のライフル使いが叫ぶ。


「動きが変わる可能性がある! 全員、注意を! 」


 これは『ガイア帝国』の弓使いだな。


 指揮を執る3人は、まさしく獅子奮迅の活躍だった。

 攻撃すれば150点近いダメージ、ヘイトが来るので常に走り続け、全員に注意を促しながら動き方を説明していく。


 ここ『破滅の森の砦』は基本的に初心者向けの『遺跡発掘調査』フィールドだ。

 俺を含めて、ここに居るのは大抵Lv30未満が殆どだろう。

 そんな中で、あの3人は桁が違う働きを見せている。

 もしかしたら、自レギオンの初心者講習とかやってたプレイヤーなのかもな。


 そして、3人以外のプレイヤーと言えば、基本は俺と同じ程度のダメージを散発的に飛ばすので精一杯、下手すると1点ダメージというのもざらに居る。

 そもそもダメージが低くて、ヘイトが取れない。


「にじゅっパー! 」


 『りばりば』ライフル使いが叫ぶ。

 同時にエントの動きが一瞬、止まる。


 ぎぎぎぎょえーっ! 


 『絶叫』攻撃だ。それから、『枝の槍』が伸びる。

 まあ、届かなければ問題は無い。そう思っていると『枝の槍』が、ぐん、と伸びる。

 今、狙われているのは俺のすぐ近くを走っていた『ガイア帝国』弓使いだ。


「ぐぼっ…… 」


 『ガイア帝国』弓使いに『枝の槍』がギリギリ届いてしまう。


「まずい!こっちだ! 」


 『マンジ・クロイツェル』機関銃使いが手榴弾を投げる。

 ドドンッ! と爆発音と共に200点近いダメージが出る。


 エントの根がうぞうぞと動いて、向きを変える。


 

『枝の槍』は四方向に一本ずつ、同時に伸びるようで、それでも今までは誰にも届くことなかったが、今はエントの顔の向き、正面に伸びる枝は30メートルほどの射程だろう。

 根を動かして、ヘイトのある相手に近づこうとするため、ギリギリで囲んでいた俺たちにも、正面の一本くらいは届いてしまう。


「くそっ! ダメージ量がデカすぎる! 」


 『りばりば』ライフル使いが、『マンジクロイツェル』機関銃使いの対面に回り込もうと走る。


 俺は焦っていた。俺だけじゃない。

 このボス戦に巻き込まれた全員が焦っていた。

 なにしろ、均衡が破られたのだ。

 全員で遠巻きにして、低いダメージ量を積み重ねていれば勝てる予定だったのに、エントの『枝の槍』の射程が伸びたことで安全な戦い方ができなくなったのだ。


 そうか、枝か! 

 俺はスコープで枝を狙うことにする。

 『枝の槍』になっている部分は葉も実もない枝部分のようで、それは目の前で貫かれた『ガイア帝国』弓使いが犠牲になることで教えてくれた。

 いや、まだ『ガイア帝国』弓使いは死んでいないが、かなりの大ダメージだろう。

 頭上に『流血』という状態異常が表示されているので、放置すれば時間の問題だと思う。


 ダダダン! 


 俺の三点バーストが『枝の槍』の根元に吸い込まれる。

 ダメージが、20点、22点、23点と表皮よりも通る。


「イーッ! 〈枝の槍だ! あそこなら防御が薄いぞ!〉」


 叫んでから、もう一度狙いを定める。


 ダダダン! 


 ついでにグレネードもくれてやる! 


 ガポンッ! 


 爆発音が響く。エントの右側にある『枝の槍』がバキバキと他の枝を巻き込むように一本、落ちた。


 あちこちから、エントへと攻撃が降り注ぐ。

 全員が焦っているからだろう。

 かなりの数の矢弾が空しく上へと飛んでいく。

 その点、スキル攻撃はダメージが低いものの命中率はかなり高いようだ。

 だが、誰も『枝の槍』を狙ってはいなかった。


「イーッ! 〈言葉、通じてねーじゃねーか! 〉」


 くそっ! なんで俺は【言語】スキル持ってねーんだっ! 

 怒りに任せてトリガーを引けば、カチンと弾切れ。

 なんてこった! 弾数も数えられないとか、アホか、俺は! 


「来い! こっちだ! 」


 『りばりば』ライフル使いが、ズガン! ズガン! とライフルを撃ち、そのダメージ量でヘイトを取る。

 エントはうぞうぞとまた、向きを変える。


 俺はマガジンを抜いて弾の補給をしようとしながら、レオナか煮込み、ムックがいれば翻訳してくれるのに、なんでこういう時にいないんだ! と悪態をつく。

 ん? そうだ、レオナからもらった特殊弾! 


 ようやく大事なことを思い出した俺は、インベントリから特殊弾を取り出すのだった。




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