248〈生態調査〉
『軍基地』に入る俺たち。
一部はこのまま『ドローン基地』へと向かう。
俺はトンネル戦でちまちま与えたダメージでLv15まできた。
「大まかな避難は完了しました。
後は取りこぼしたNPC捜索隊の派遣とガイガイネンの生態調査を行いたいところですね」
今日は糸が現地入りして『軍基地』をまとめているようだ。
これがゲームでなければ夜状況でNPC捜索隊を出すなど余りに非効率で危険度が高いため愚行でしかないが、難易度MAX任務に沸き立つプレイヤーは多い。
プレイヤーは三つに分けられる。
『軍基地』防衛、NPC捜索隊、生態調査班の三つだ。
「肩パッドさん、よければ生態調査班に来てくれませんか?」
レオナと一緒に普段は装備部でやっているプレイヤーの一団が俺に声を掛けて来た。
装備部連中はちょっと癖のあるプレイヤーが多い。
例えば、『プレイヤー空間』を繋げて作った完全再現商店街シリーズだとか、防具に武器を仕込み、あまつさえそれが無駄に変形する魔法機甲師団シリーズだとか、シシャモに色々と渡される『リビング・コフィン』シリーズなど、ものづくり特化した趣味人の集まりというイメージが濃い。
余談だが、完全再現商店街シリーズは今は見かけなくなった古き良き時代の再現とかで八百屋とか魚屋、肉屋のように食材ごとに分けて購入できる店が開かれていたりする。
ほとんどの食品は合成人工食料製なので、ノスタルジックな佇まいを見て楽しむだけの場になっている。
魔法機甲師団シリーズは、『ショックバトン』などの『シティエリア』専用武器の前身、『遺跡発掘調査』専用装備として売り出されているもので、基本的にロマン装備だ。
一撃で使い物にならなくなるパターンがほとんどで修理に金と素材がかかる。
機械式魔法弾を発射できる銃を二丁、前後に合体させると威力が数倍になるとか、盾の中にミサイルが仕込まれているとか、まあ、色々とあるらしい。
そんな趣味人たちに俺は目をつけられてしまった。
普通に基地の防衛任務をやろうかと思ってたんだが、ぜひにと言われれば悪い気はしない。
実験台じゃなければな。
「いえ、肩パッドさんはタンクができると聞いたので、我々の保険になってもらえればと思いまして……。
実験台はアレです」
軍から借りた装甲兵員輸送車にゴテゴテと改造を施した『対ガイガイネン生態調査専用車両・オメガラボ』なる車両である。
借りたと言っているが、もう返せないくらい改造してあるよな?
装甲車が連結され電車のように合体して走る上、今後の『シティエリア』での運用を考えた秘密兵器満載の走る鋼鉄の城というコンセプトカーだそうだ。
「切り離して各自で走行可能ですし、タイヤは他車のタイヤを狙うドリルタイヤ、エンジンは魔法と機械を融合させた魔導機械式を採用して瞬間最大時速500キロ出ますし、サスペンションはボタンひとつで車高が2m伸びるびっくりサスペンション、さらにミサイル、機銃、観測機器、その他秘密兵器満載の夢の車両です!」
それ、チ○○キマシンなのでは?
「まあ、現状だと少々問題もあるんですが、それの洗い出しも兼ねていますので、護衛が欲しいんです。
シシャモくんからも、肩パッドさんならなんとかしていただけると太鼓判をもらっているので、どうか、協力してもらえませんか?」
秘密兵器ね。秘密兵器と言われるとたしかに少し見てみたくなる自分もいる。
なにより、俺が実験台じゃないなら問題はないだろうということで、俺は協力することにした。
「「「ありがとうございます!」」」
装備部の人員十名、俺、シシャモ、ムサシを含めた護衛六名で生態調査に向かうことになった。
「オメガラボ出動!」
全三台の『オメガラボ』がバラバラに走り出す。
乗っている人員はバラバラだ。
何しろ三号車は貨物部分がまるまるエンジンで、運転席と助手席くらいしか人が乗るスペースがない。
一号車も半分くらい観測機器と武装で貨物スペースが埋まっているので、人員の大部分は二号車だ。
生態調査で分かったのは、『ガイガイネン』にも幾つかの種類があるということと、今まで俺たちが感覚的に理解していた部分の裏付けだ。
目の色で攻撃してくるかどうか分かるとか、口に何かを含んで吐き出すのは、何らかの調査のために行っているだろうとか、そういう部分が確定的になったという話と、口周りにひげがあるやつは座標爆破を多用してくるとか、頭に小さな角があるやつは動きが速いとか、前脚が太いやつは装甲が厚いとか、そういったことが判明した。
「こいつら、前回イベントよりヤバい感じがするな……」
「どういうことですか?」
一号車から出てきた装備部のやつにシシャモが聞く。
「進化……というか、前回イベントよりシティエリアに適応している感じがする……」
たしかに前回イベントでは小型、大型、巨大ナナフシ型くらいの区分けしかなく、今回はそれらが細分化されているような感じはある。
「もう少しサンプルが欲しいな。人が居ないエリアに足を伸ばしてみよう……」「なんか異星人の侵略っぽくなってきたな」「大型が少ないのが気になる……」「おお、今の博士っぽいな!」「いやいや、別に意識とかしてねえし!」「おい、サラッとアバターに白衣着せといて言うセリフか?」「奴らは次の段階に進もうとしているようだな……」「あ、俺も今、言おうと思ってた!」
ふざけ始めると止まらねえな。
とにかく、俺たちは更に足を伸ばしてみることにした。




