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緊急ミッション。
輸送用ドローン基地を制圧して、無人ドローンを制御せよ。
簡単に言うとこういうことだ。
大手商品配送会社の無人ドローン基地。
ここには整備された大量の無人ドローンが置かれている。
普段なら、ここから飛び立った無人ドローンは集積所で荷物を積み込み、各家庭へと商品を配送する。
だが、突発イベント『文明の破壊者の襲撃』中は商品配送がストップ。
基地内に取り残された整備士たちの救出と、ドローンを借り受けての『ガイガイネン』誘導のための制御を行おうというのが本作戦の主旨である。
人員は『りばりば』戦闘員二十名、NPC軍人十六名の計三十六名。
『りばりば』戦闘員二十名中、十六名が核、または再生怪人というエリート部隊だ。
ちなみにほとんど知り合いだな。
核無しはシシャモとサクヤ、みるくとカンスト勢の男だ。
俺はレベルが足りなくて核による変身は使えない。もう覚えた。
まあ、逆に言えば十五名は変身できるわけだ。
戦力としては充分だろう。
俺は軽トラを運転している。
荷台にはサクヤと『エレファントバズーカ』が乗っている。
中心に軍人たちの兵員輸送車を置いて、俺たちは後方を固めている。
『ガイガイネン』を排除しなからの行軍は、何の問題もなく成功した。
ドローン基地の整備士たちも無謀な勇気を出すことなく、『ガイガイネン』の出現と同時に閉じこもったので、全員無事だった。
俺も最後に少しだけ稼がせてもらって、レベルが10になった。
ただ、問題はこの後だった。
ドローンを利用した避難路作りは概ね成功したが、プログラム制御だとドローンが一定の動きしかしないため、『ガイガイネン』の座標爆破攻撃に捕まることが分かった。
結果的にリモコン操作でドローンを制御するしかないことが分かったが、プレイヤーにはリアルでの時間が来てしまう。
一日で終わるイベントではなかったのだ。
慌ててレオナと連絡を取り、ドローン基地の防備について話し合う。
ドローン基地は動かしてみると分かるが、ドローンが離発着する関係で『ガイガイネン』が反応してしまい襲われることが多い。
ドローンも無限に飛べるわけではないので、どうしても燃料補給や整備が必要になる。
これはドローン基地を救出、稼働させてみるまでは分からなかったことだ。
ドローン操作は軍人NPCに任せ、プレイヤーは必死に『ガイガイネン』撃退に尽力し、整備士NPCたちにも協力を求めて、どうにか主要道路上の『ガイガイネン』を排除しようとしているが、なにしろ数が多い。
ドローン操作する人員がもっと必要だし、それだけ防備も固めなくてはならない。
明日は休日で良かった。
俺はいつもより長くログインしながら、交代を待つ。
リアルで午前0時を越えて、『リアじゅー』は昼の雨状況になった。
こういうところは律儀にゲームだ。
午前1時、数人のプレイヤーと大量の軍人NPCが補充に来る。
俺は申し訳なさを隠すように手持ちの天然食材を渡して、なるべく早く戻る旨を伝えて、ログアウトした。
ログアウト後、普段は滅多にしない夜更かしゲームのため、脳が休みたがっている。
リンクボードには静乃から、無理はしないように、と今日の手短な感想付きのメッセージが届いていた。
それによれば、静乃たちは特定のレギオンに加担するのではなく、イベント中は最終目標である『マザー打倒』のために動くとあり、『シティエリア』の各地区の『ガイガイネン』分布や『マザー捜索状況』などを調べて回っているらしい。
これらの状況は、まとまり次第、各レギオンに情報共有するつもりらしく、今回はふたつの文明、どちらにも顔が効く野良レギオンとして、共闘の架け橋になるよう動くとあった。
たしかにそれは、野良レギオンにしかできない動きだ。
『マンジクロイツェル』と『ヴィーナスシップ』のように、相性の良い関係なら共闘の目が無いわけではないが、なかなかそういう関係性を構築するのは難しい。
普段は敵対しているのだから、当たり前といえば、当たり前だ。
俺は簡単な状況説明だけを返信するに留まり、早めに休むことにするのだった。
翌土曜日。
昨日、レオナが素早く作ってくれたシフト表に従い、俺は昼からのログインに備えてギリギリまで休んだ。
昼になってログインすると、いつもの『大部屋』だ。
リアルでの昼間、『リアじゅー』世界は夜状況、晴れ。
アイテム類を補充すると、同じシフトの奴らと連れ立って、ポータル移動を開始する。
未だ『飛行場』には『りばりば』のポータルはない。
従って『経済区』から徒歩で『飛行場』を目指すこととなる。
『シティエリア』の状況は酷いことになっている。
街の至る所で戦闘が行われ、ガレキだらけだ。
また、リアルでの土曜、昼間はプレイヤーが増える時間でもある。
夜状況にも関わらず、戦闘は激化していて、街のインフラが機能停止している地域なども散見される。
暗闇の中、お互いの声や息遣いを頼りに駅へと向かい、途中に現れる『ガイガイネン』と戦い、逃げながら線路を頼りに『郊外』へと向かう。
「最悪な夜状況だが、なるべく急がなかければならない。
しかも、死なないようにだ。
飛行場地区に入れば、ドローン援護と軍の兵員輸送車が使える。
ここまで来て、死ぬわけに行かないからな!」
ここまで、全員を率先して導いて来た幹部のジョーが気合いを入れ直すように全員に声を掛ける。
「なあ、今回っていつもよりダメージ食らった時の衝撃、大きくないか?」
誰かが言った。
すると、口々にみんなが「俺も思ってた」「体感ちょっと痛いよな」「肩パッドさんはどう思う?」などと話し始める。
「ゐーんぐ?」
「いや、常にリアルの人に聞くなよ!」「ああ、そうだった」「でも、たしかに感覚設定、高く感じるよな?」
ルールでは感覚設定︰一部有効とあった気がする。
もしかして、知らぬ間に30%アップとかされているんだろうか?
ここの運営ならありうる。
「そろそろトンネルだ。気を抜くなよ!」
「やべぇ、ここ電気来てねえぞ……」「誰か灯りないか?」「いや、普段から灯りなんて持たねえよ」
ミョイン!
「あ、ぐおっ!」「なっ!?」「うおっ!」
前の方で爆発が起きる。
俺は低レベルなのもあって、後方だった。
「ヤバい! 座標爆破だ!」「誰か灯り!」「敵だ、散開しろ!」
普段、街灯が当たり前にある『シティエリア』にわざわざ照明を持ち込むやつは少ない。
昼からログインのやつらは、基本的に夜ギリギリまでやるつもりでログインしているため、少しでも現実で休むことを優先していた。
夜状況だからといって、昨日の今日でインフラが機能しなくなる状況まで追い込まれるとは思っていなかった。
あまりアイテム整理をしないタイプの戦闘員がフィールド用〈専用ではない〉の灯りを点けた時、トンネルにはぎっしり軽自動車クラスの変型ダイオウグソクムシみたいな『ガイガイネン』が詰まっていた。
「キモっ!」「ヤバくないか!?」「おい、どんどんリンクしていくぞ!」
トンネル内の『ガイガイネン』の身体中にある眼が赤く光っていく。
「逃げろ!」「抗戦だ!」「散れ!」「集まれ!」
全員が好きなように指示を出し、それが混乱を生み出した。
俺たちは大量の『ガイガイネン』と乱戦状態に陥るのだった。




