240〈はじめての課金ガチャ〉
俺はそっと顔を上げた。
そこには仲間の顔がある。
ムック、煮込み、レオナ、サクヤと並んでいる。
「ゐーんぐ?〈どうしたんだお揃いで?〉」
「まあ、あれミザ……」
煮込みが言い淀む。
「みんな、グレンさんがここ数日、笑わないと思って、心配しているんですねー」
「そうピロ。前は豪快に笑ってたグレンさんが、ここに来て笑わなくなったピロ」
「ゐーんぐ!〈いや、前にも豪快に笑ってた記憶はねえよ!〉」
「ふふ、少し表情が柔らかくなりましたね」
レオナに指摘されて、俺は自分の顔に触れる。
そんなに違うものだろうか。
「ゐーんぐ?〈最近、ちょっとリアルで色々あったからか?〉」
「そうなんですか?
無理には聞きませんが、そういう時こそ息抜きは全力でやらないとですよ!」
「ゐーんぐ!〈ああ、そうだな。まあ、それもあって課金ガチャに手を出そうと思うんだ!〉」
「だ、ダメミザ!」
「自暴自棄になることないですよー」
「ドブに捨てて、お金持ち気分は違うと思うピロ……」
すげー言われようだな。
「ゐーんぐ……〈いや、回復系のガチャ魂が欲しくてだな……〉」
「魔法文明側で回復は難しいですよ」
「coinが確か持ってたピロ。自分の命を捨てて、他人を生き返らせるピロ」
リアルで使えるやつという説明は……できないよな……。
「薬師か聖職者、ユニコーンか麒麟……あとはフェニックス、ドラゴン系も幾つか回復は確認されてますねー」
「ゐーんぐ!〈あるのか!〉」
「ああ、あとは一部のスライムですかねー」
「ゐーんぐ!〈さすがスキルマニア!〉」
俺はサクヤを褒める。
「軽くディスられてますかねー?」
俺は首を振って否定しておく。
ユニコーンは便利そうだが、ガチャ魂酔いが怖い。
いや、ガチャ魂酔いしなくても、あらぬ誤解を受けそうなのが怖い。
「それで、何回くらい回すつもりミザ?」
「ゐーんぐ!〈いちおう、百連分用意した〉」
「それは逝きますねー」
「たしかに、行きますね」
サクヤの発音がちょっと違う気がするのは俺だけか?
「見ててもいいミザ?」
「ゐーんぐ!〈ああ、そろそろ運も貯まっているんじゃないかと思うんだ!〉」
この2週間くらいは、結構、ヘビーだったからな。
リアルはもちろんだが、『リアじゅー』内でも、『作戦行動』の抽選に外れたり、フィールドで普通のモンスターに殺られたりしている。
俺は画面を可視化して、ガチャ項目をチェックする。
今回のピックアップテーマは『虫・草木』らしい。
ただ、麒麟やらフェニックス狙いなら幻獣ガチャだろうと思う。
人間ガチャはcoinの持つ狂信者辺りが出ると怖いので避ける。
「なんだかドキドキしますね」「色んな意味で胸が高まるピロ」「こればっかりは幸運ステータスではなく、リアルラックですからねー」「お、回すピロ」
仲間たちが見守る中、最初の十連を回す。
いちおう、十連ガチャなら星3以上は一体確定だ。
いけ!
野菜、野菜、野菜、野菜、野菜……。
まさかのテイムモンスターたちとダダ被りしたガチャ魂が並ぶ。
当たり枠は『号泣玉葱☆☆☆』
「たまたまー!」
お前、星3モンスターなのか……。
いや、そういうことじゃなくてだな……。
「壮観ピロ!」「縁があるんですかねー?」「あれ? ピックアップガチャ回したミザ?」
答えない。たぶん、答えたら負けな気がするので、淡々と二十連目を回す。
せめて、幻獣来い!
兎、兎、兎、狼、狼……。
「すごい偏ってますね……」「シャッフルしてないトランプみたいミザ」「あ、また被りが出てますねー」
たしかに幻獣は来た。兎系幻獣と狼系幻獣だ。しかも、すでに持っている『カラーテラビット☆』と『エレキトリックラビット』は被っている。
当たり枠は『マンダラ大根☆☆☆』。
「まんだら〜!」
なるほどな。お前も星3なのか。勉強になるよ。そもそも幻想種の野菜たちは、幻獣枠なのか……。
俺はランダムガチャへと視線を動かす。
「あれ、日和見するピロ?」「野菜コンプリートしませんか?」「グレンなら行ける気がするミザ」
「ゐーんぐ!〈おーけー。まだ焦るような時じゃない。まだまだ行ける!〉」
それっ!
ランダムガチャなら、偏りはないだろう。
兵士、鼠、野菜、花、魚……。
俺的偏りは無いとは言わないが、どれもこれも俺向きじゃない。
当たり枠は『狂信者☆☆☆☆』……。
「おお、お見事、回復ですよー!」「グレンさんは死ぬのが前提ピロ」「おめでとうございます!」
「ゐーんぐ!〈いや、死期を早めに行くのはちょっとな……〉」
仲間たちにやんやと囃し立てられながら、四十、五十、六十……と回していく。
当たり枠以外で一切出ない星3以上とかあるか?
爆死、爆死、爆死のオンパレード。
ちょっと盛り上がったのは『ファイアーバード☆☆☆』『サンダーバード☆☆☆☆』『アイスバード☆☆☆』と三体揃って、幻の○ケモンみたいになったことか。
パッと見、フェニックスみたいだったので、ぬか喜びした。
星2の『ホワイトスライム☆☆』も惜しかった。別名、お餅スライム。状態異常『もちもち』持ち。もうその状態異常は持っている。
スライムだったから、期待してしまった。
『騎士☆☆☆』『エメラルドゴーレム☆☆☆☆』『サイクロプス☆☆☆☆』辺りは肉体特化系ガチャ魂らしく、俺と相容れないやつだ。
九十連……。九十連回して、俺向きなのは星1か星2、または幻の○ケモンシリーズくらいか。
だが、今回の狙いである回復系はひとつもない。
マジか……。
「最後もランダムガチャピロ?」「さすがに幻獣ガチャがオススメですかねー」「野菜コンプリートにはマツタケちゃんとか足りてないですね」「ピックアップ回すミザ!」
ダメだな……。俺にガチャ運はない。
まあ、久しぶりにみんなとの交流が楽しかったから、それで良しとするか。
「ゐーんぐ?〈何を回して欲しいって?〉」
「野菜、野菜を狙いましょう!」「アイテムガチャにも回復系コアが出る可能性はあるピロ」「ここはやはり、野菜コンプリートの可能性も否めませんが、幻獣ガチャですかねー」「ピックアップが見たいミザ!」
うん、たしかにな。ウチのテイム野菜の中で出てないのはキノコニア〈マツタケ〉だけだ。
まあ、それを言ったら『キウイ』や『アイベリックス・メル吉』も出てはいない。
アイテムガチャは現実に持ち込めない気がしているから、無理だな。
核︰翼を持った状態でログアウトしても、【飛行】は使えないしな。
ピックアップは『虫・草木』の出る確率が二倍のランダムガチャだ。
いっそ、回復系を諦めるなら、そっちでもいいかもしれない。
「ゐーんぐ!〈よし、幻獣ガチャだな!〉」
「ピックアップなら、まだ見ぬ野菜モンスターが出る可能性もあるミザ」
俺の指が止まる。
「ゐーんぐ?〈そういう可能性もあるのか?〉」
「あるミザ」「まあ、可能性はありますね」「たしかに、フィールドに出ないガチャ魂は出ますねー」
「ゐーんぐ!〈そういうことは早く言ってくれ!〉」
回復系は諦めよう。だが、まだ見ぬ食材がガチャの中に眠っているというのなら、回さざるを得まい。
俺の指は、するすると下に降りて、ピックアップガチャを回すのだった。
『キノコニア〈マツタケ〉☆☆☆☆』。
「やったー!」「おめでとうございますー!」「やっぱりグレンさんは持ってるピロ!」「ガチャ魂的にはテイムモンスターとだだ被りしているから、新スキルの喜びはないミザ……」
それな。
『狼人間☆☆☆』
おお! はじめての確定枠外で星3以上が!
また、狼系な上にどう見ても肉体特化っぽいが、星3が嬉しい。
『金山羊☆☆☆』
また! 俺の表情は複雑だ。
スキル的には被ってるだけだしな。
『長鳴神鳥☆☆☆』
いや、だから……テイムモンスターのガチャ魂をコンプリートしても、喜びが……。
『撲殺牛蒡☆☆』
ごぼうキターーー!
たぶん、この日の中で一番喜んだ瞬間だ。
『子取り百菜☆☆』
はくさい……ん? 中心の見た目はキャベツ……ん? なんか分からんが葉物野菜キターーー!
『つちぐも☆☆』
蜘蛛だ。糸とか吐けるんだろうか?
残り三つは普通だったので割愛。
「あの、気付いてます?」
「ゐーんぐ!〈ああ、牛蒡と良く分からんが葉物野菜だろ〉」
「あー、これは分かってないパターンですねー」
「ゐーんぐ?〈ウチのテイムモンスターを全部コンプリートしたことか?〉」
「おめでとうピロ!」「クモが楽しみミザ!」
「えーと、たぶん、回復系出ましたよ」
「ゐーんぐ?〈え、どれだ?〉」
「金山羊と狼人間ですかねー」
「ゐーんぐ!?〈な、なんだってー!?〉」
「金山羊は骨と皮さえ残ってたら、翌日には復活するピロ」
「狼人間はその俊敏性や怪力に目が行きがちですが、超回復があるはずです」
「ゐーんぐ……〈お……お……おお……〉」
俺は言葉に詰まりながら、両手を上に上げるのだった。
ガチャの神様! ありがとう!




