表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
237/447

236 side︰シシャモ


 学校終わり、近場のコンビニまで行って課金カードを買う。

 ついでに飲み物とお菓子を少し。

 コンビニを出て、家に向かおうとすると、誰かに尾行されている気がする。

 少し遠回りすると、それは確信に変わる。

 近場の公園に向かう。

 走って逃げる道を考えながら、公園入り口で声を掛ける。


「誰?」


「あ、バレた? ロレンチーニ器官だっけ?」


 見れば、美少女が影から出てきた。


「だ、誰?」


「年齢が上の可愛い妹だよ!」


「妹は家にいる」


「ああ、リアルじゃなくてね。リアじゅーで」


「リアじゅー……SIZUさん?」


 ヒントを貰えばすぐ分かる。顔の形とか少し違うけど、グレンさんの従妹のSIZUさんだ。

 どうしよう、現実の方がより美人だ。


「パチパチパチ! 正解!

 どうしても確かめなくちゃいけないことがあって、来ちゃった」


「え、来ちゃったってどうやって?」


 住所とか教えてないはずなのに。


「ちょっと調べたら、そういうのはすぐ分かっちゃうものだよ、チミ〜!」


 口先で指を振って、ちっちっちっとリップ音を鳴らす姿に思わず見蕩れてしまう。


 SIZUさんは、僕の見蕩れていた指をそのまま動かして、公園を指さした。


「少しお話しましょ!」


「え、あ、うん……」


 ちょっとどぎまぎしつつ、僕はSIZUさんと公園に入った。

 なんとなく二人して、ブランコに座る。


「さて、私の尾行に気づいたのは、やっぱりスキル?」


「えっ!? いや、気配というか、人の体温みたいなのがあれば、気づくものでしょ……」


「あ、まだ自覚はない?」


「自覚? それってどういう……」


 キーコ、キーコ、とブランコが音を立てて揺れる。


「ん〜、リアじゅーのスキルが現実で使えるなんてことはある?」


「は?」


 いきなり何を言っているんだろう?

 SIZUさんは少し突飛なことを言い出す印象があったけど、これはまたとびっきり明後日の方向の話だ。


「いや、ない……と思うけど……」


「じゃあ、今までできなかったことが最近になって、できるようになったり?」


「あ……その、気配とか……お風呂で潜った時に息が長くなったとか……」


「お風呂、潜るんだ」


「う、高校生にもなって子供っぽいよね……」


「え! そう? 私も潜るよ!

 いや、同じことする人がいて、嬉しいなと思って」


「あ、う、うん……あの、なんでそんなこと……?」


「うーん……」


 SIZUさんは少し悩んだような顔をして、それから一人、納得したように頷いた。


「シシャモくんて、ガチャ魂酔い激しいでしょ?」


「え?」


 僕は想像以上に驚いた。

 誰にも言わないようにしていた。

 『ヨルムンガンド』を手にしてから、変なイメージが見え始めていた。

 いつも、お腹を減らしていて、孤独な海の底で漂っている夢だ。

 たまに魚とか海老とかが迷い込んで来て、友達になろうとするけれど、最後は僕が食べちゃう夢。

 その夢を見ると、ゲーム内でお腹が減る。

 一時期は現実でもお腹が減ってるような気がして大変だったけど、最近はそういうことも減って来た。

 なんだろう……クルトンが僕のところに来てからだろうか?


「その顔は図星だね!

 もし、ガチャ魂酔いの影響が現実に反映されるような気がしたら、私に連絡して。

 たぶん、力になれると思う」


 そう言ってSIZUさんは僕に連絡先を寄越した。

 僕は何も言えず、ただそれを受け取るだけだった。


「世界はね。シーソーみたいに動いてる。

 なるべくなら、少しだけでもその衝撃を小さくしたいと思ってるんだ……私」


 キイ……とブランコを足で止めてSIZUさんが言った。

 他の人が言っていたなら、随分と大層な目標ですね、くらいは思ったかもしれないが、何故だかSIZUさんが言うと、やけに現実味のある言葉に聞こえた。


「あ、グレちゃんには内緒ね!

 私が外でシシャモくんと会ったなんてバレたら、怒られちゃう……いや、それもアリか……ううん、ナシ、ナシ。

 巻き込み注意!」


 一人で勝手にぶつくさ言って、頬を染めたかと思うと、その頬をSIZUさんは自分で叩いて戒めた。

 なんだか、年上なんだろうけど、その仕草がやけに可愛く見えた。


 僕は少し笑って答える。


「じゃあ、内緒にしときますね」


「やった! さすがお兄ちゃんは話が分かるね!」


 キラキラした笑顔を向けられて、それからSIZUさんは去っていった。

 僕は帰り道、連絡先を眺めてはどうしようと、少し浮かれる自分に人並みの感情があることに嬉しくなった。



安定の主人公ムーブなシシャモくんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ