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もう知っているとは思うが、と前置きをしてから、今日のレポートを書いて、最後に無理に返信しなくていいと添えて、早めに俺は寝た。
ラグナロクイベント中は不規則になりそうだからな。
翌朝、俺はおじいちゃん先生からの電話で起こされた。
「はい゛……」
「灰斗か。ニュースは見ているか?」
「あ、先生……おはようござあやす……」
「いいから、ニュースを見ろ」
何事かと思いニュースを見た。
───昨夜未明、暴走族・壬生狼会を名乗る少年、少女、十五名がヒーローを名乗る暴漢に襲われ、死者九名、重軽傷者六名の大惨事となりました───
は……?
「お前じゃないんだな!」
「あ、ああ、俺じゃ……なんで……?」
「分からん。警察でも調べているところらしい」
ヒーロー? ヒーローってなんだ?
どこのレギオンだ?
いや、違う……これは現実だ。
死者九名……。
確かに壬生狼会は縁切りしたし、多少は痛い目を見て、目を覚ます必要があるとは思うが……死ぬ必要はない。
なんだってこんなことに……。
監視カメラの映像が流れる。
白銀の騎士鎧を思わせるメタルスーツがポーズを取っている。
俺はその動きを知っている。
だが、少し違う。
「マギシルバー……」
「なんだって?」
「いや、スーツの形状なんかは違うけど、動きはマギシルバーだ」
「マギスターは無くなっとるだろ」
「そりゃ、ゲームの中ではの話だろ。現実で超能力に目覚めて、ゲームでマギシルバーができなくなったとしたら?」
「……うむ。しかし、あの騎士鎧は?」
「ただのコスプレじゃなさそうだよな……」
バイクに突っ込まれても、木材で殴られても、平気そうだ。
監視カメラの映像は『マギシルバー』が腕を振り上げたところで唐突に終わった。
「ふむ……とにかく灰斗じゃないならいい。
古巣のことだから、思うところはあるだろうが、関わるなよ」
「ああ、わかってるよ、先生……」
「私は少し気になることがあるからな、これで切るぞ」
「ああ、心配してくれてありがとうな。先生」
「ふん、そんなことも言えるようになったか……」
「いや、もう、オッサンだぞ、俺は……」
先生は少し満足気に電話を切った。
俺はその日、仮病で会社を休んだ。
とりあえず、金堂くんに電話か。
電話をかける。
「……なんだよ」
「ニュースを見た」
「今度は俺の番だとでも言うつもりか?」
「なんだ、俺だと思ってたのか?」
「この前の抗争で満足できなかったんだろ?
どうしたらいい? どうしたら許してくれる?」
「ふざけんな。俺じゃねえ!」
「お前じゃない?」
「ああ、俺じゃない」
「じゃ、じゃあ誰なんだ?」
「それが知りたくて電話したんだよ」
「知らねえよ……こっちだって必死に探してんだ……」
命乞いのためにか……。勘弁してくれ。
「何人か生きてるんだよな?
話が聞きたい」
「もう関わらないんじゃなかったのかよ?」
「関わりたくないな。でも、拳を交えた仲だ。
気にならないと言えば嘘になる」
それから、五人が集中治療室に入っていて、唯一軽傷で済んだやつが警察で事情聴取されていて、まだ帰ってないと聞いた。
軽傷だったのは『中山 雄一〈15〉』という子で、その子の連絡先を聞いた。
それから、俺は平日の昼から『リアじゅー』にログインする。
昨日はそこまで急がなくていいと思っていた、白せんべいのリアル話だが、超能力で犯罪が起きたとなると、あまり悠長にもしていられない。
早めに真意を確かめ、場合によってはおじいちゃん先生に紹介しなくてはならないと思っている。
ログイン後、白せんべいにフレンドチャットを送る。
いちおう、フレンドのログイン状況を確かめようと思うと、何故か白せんべいはログイン中だった。
グレン︰リアルでのことで、重大な話がある。このチャットに気づいたら連絡が欲しい。一時間毎に三十分ずつログインする予定だ。
白せんべい︰なんだか穏やかじゃねえな。こんな時間になにかあったか?
グレン︰ログインしてくれていたか、良かった。
すまないがチャットで話せることじゃない。
会えないか?
白せんべい︰おいおい、そりゃ、こっちがイベント中だと知ってのことだよな?
グレン︰ああ。お前が使ったグラスも防げる最新ガジェットについてだ。
白せんべい︰……了解した。二十分後に『シティエリア』の『繁華街』で。
なんとか白せんべいの説得に成功した。
エアンブレラに言及したのは賭けだったが、白せんべいは理解したようだ。
俺は『繁華街』へとポータル移動した。
白せんべいから連絡が来て、場所指定されたので、言われた喫茶店に向かう。
個室利用できる喫茶店だった。
白せんべいの名前を出すと、個室へと通される。
コーヒーを頼んで待つことしばし、白せんべいがやってくる。
「おう、待たせたな!」
「ゐー!〈いや、それほどでもない〉」
気分は初めての営業活動だ。
「それで? 前置きはなしだ。それほど時間がある訳じゃない。本題は?」
「ゐー?〈今朝のニュースで現実世界にマギシルバーが現れた。おそらく超能力者だ。知っているか?〉」
「マギシルバー? ミスリルではなく?」
ニュース自体は知っているようだな。
「ゐー!〈ああ、ミスリルに似ているが、あの動きはシルバーだ。間違いない〉」
「くそっ! シルバー!?
見当違いか! 会長、いや、SI……ネズさんに連絡しないと……」
「ゐー?〈おい、何の話だ?〉」
「ああ、ええと……ちょっとリアルで用事ができた。失礼する!」
「ゐー!〈待て待て! 落ち着け! お前、超能力者だろ! 俺もなんだ!〉」
普通に聞いたら、俺は頭がおかしい人だろう。ただ、信用を得るために、俺の状況を説明する必要があると思っていたし、ズバリ超能力のことを聞かない限り、誤魔化されると思っていた。
だからこその発言だが、正鵠を射ていたようだ。
白せんべいは驚きに目を丸くして、動きを止めた。
「グレちゃん……あ、いや、グレンさんが超能力者……」
「ゐー……〈ああ、そうだ……白せんべい、お前もだろ……〉」
「ちょ……ちょっと待ってくれ……それ、SIZUには……」
「ゐー!〈言ってない。アイツには関係ないことだ〉」
一瞬、ホッとして、それから、おろおろと辺りを見回した白せんべいは、来たばかりの熱々コーヒーをひと息に飲み干そうとして、その熱さにコーヒーをぶちまけた。
「あっちゃ! あ、す、すみません! ごめんなさい!」
「ゐーっ!〈ぬわっちゃあっ!〉」
俺はコーヒーを被って、バタバタする。
白せんべいは慌てて、備えつけの紙ナプキンを取ろうとしてそれをぶちまける。
二人して、ひとしきりバタついてから、白せんべいは地面に腰を、ぺたんと落として、視線を落とした。
モヒカン筋肉だるまにはあまりにも似合わない、なよなよした座り方だ。
ただ、リアルの格好を想像すると、良く似合う。
「ああ……そうかぁ……でも、不思議じゃないよなぁ……くそっ……予測できた事態じゃないか……くくっ……くくくっ……バカだなあ、自分……」
「ゐー?〈おい、大丈夫か?〉」
なんだか分からないが、壊れかけたような姿に不安になる。
「ああ、ごめんなさい。自分が馬鹿だと再認識できたんで落ち着きました……」
白せんべいはすまし顔で答えて、倒れた椅子を戻して座る。
なかなか特異な人間性を持っているようだ。
ちょっと怖いぞ。
俺はおてふきで顔のコーヒーを拭いながら言う。
「ゐー!〈ある人に教わってな。俺たちの超能力は政府に狙われている〉」
「はっ!? いや……そうか……有り得る……」
「ゐー?〈信じてもらえるか?〉」
「ええ、そうですね。強いガチャ魂酔いを出している数名が、最近、ログインしてませんでした。
ログインできない状況にあるとしたら、納得です」
すっかり、真の姿の口調が消え、リアル寄りの口調になっているが、そこは指摘しない方がいいか。
俺は咳払いをひとつ。真面目な顔を作る。
「ゐー!〈いいか。超能力が使えると誰かに知られると危険だ! 便利かもしれないが、なるべく使用は控えてくれ〉」
「あ、ああ、わかった……。
それと、聞きたいんだが、マギシルバーは既に政府の手に落ちているんだろうか?」
「ゐー?〈なに?〉」
「いや、マギシルバーも最近、ログインしていない中の一人なんだ」
「ゐー?〈なんでそんなこと分かるんだ?〉」
「ああ、グレンさん、あなたの言う超能力……我々は単純に『リアルスキル』と呼んでいるが、『リアじゅー』内で『リアルスキル』の存在を知る数名で、強いガチャ魂酔いを発症している者をチェックしている。
自分がそうだから分かるんだが、ガチャ魂酔いが強く出てしまう者の方が『リアルスキル』が発現する可能性が高い。
なんとなく危険は感じていたんだ。
それと、使命感のようなものを。
あなたは感じないか?」
「ゐー?〈使命感? すまない、ちょっと分からないな……?〉」
危険は感じているが、超能力が何かのためにあるという感覚は俺にはない。
白せんべいは少し残念そうに顔を伏せた。
「そうか……いや、問題ない。
良ければ、今後、お互いに情報交換をしていかないか?
欲しければマギシルバーの情報も渡せる」
「ゐー!〈ああ、それがいい。頼む〉」
白せんべいとアドレスを交換して、俺はログアウトした。
壬生狼会の子と連絡が取れるか、やってみるか。




