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 『大部屋』の大画面では、ふたつの『作戦行動』の説明があった。


 珍しいなと思って読んでみると、ひとつは『りばりば』の『テキ屋の敵はテキ屋作戦』というやつで、『観光区』の神社参道を使う作戦で、まだ出来たばかりでマップに慣れていないだろう人々を、夜時間の突貫工事で参道を倍の距離まで延ばして、偽の極悪テキ屋で騙してやろうという作戦だ。

 ちなみに、今が夜時間なのでこの後の俺がいつも遊んでいる時間が決行時間になったが、場合によって『作戦行動』時間が変更になる予定だったらしい。


 もうひとつが小規模レギオン『邪龍族』が主催する『結構、欠航、悪天候、大作戦!』というやつで、国際線空港周辺を悪天候にして、全便欠航。人々を空港に留めた上でフラストレーションを溜めさせるという作戦らしい。

 『りばりば』はこれに戦闘員派遣という形で実験的に参加するそうだ。


 とりあえず、参加者はどちらかに割り振られる形になるらしい。


 糸が受付で参加者を捌いているので、そちらに行って確認を取る。


「ああ、グレンさん。参加ですね。

 ええと……今回は、邪龍族への出向ですね」


「ゐー……〈出向とか言われると仕事っぽいな……〉」


「まあ、りばりば内のクエストみたいなものなので。

 ちなみにレオナさんが邪龍族の作戦行動はまとめてますので。一時間後くらいに来て下されば大丈夫ですよ」


「ゐー!〈分かった。ありがとう。やり方はいつも通りでいいのか?〉」


「基本はいつも通りですね。ただ、邪龍族戦闘員アバター〈りばりばVer.〉を着ていただくのと、コアの持ち込みができません。

 なるべく個性を消して欲しいとのことで。

 それから、作戦行動用武器は邪龍族が用意したものを使っていただく形になります。

 麻痺毒付きの青龍刀かショック状態にする長戟、槍に横振りや引っ掛けに使える枝というのがついた武器のどちらかになります。

 どちらも両手武器ですね」


「ゐー!〈まあ、俺の場合、ほとんど武器は使わないからな。問題ないぞ〉」


「はは、それもそうですね」


「ゐー?〈ただ、言語はないし、この肩のやつらも置いていけないんだが、大丈夫だろうか?〉」


「レオナさんが、グレンさんはぜひ邪龍族の方でと言っていたので、問題ないと思いますよ」


「ゐー!〈それならいいか。じゃあ、またあとで!〉」


「はい。頑張ってください!」


 俺はアイテム整理や農業などで時間を使うと、『大部屋』へと戻る。

 ちょっとNPCドールやテイムモンスターと戯れるだけで、時間が一瞬で過ぎてしまう。


 『大部屋』にはレオナが受付に立っていて、そこで魔石を設定してもらう。

 (コア)がないので消耗品を抑えて、魔石五個でいいか。

 意外と最近のフィールド攻略で魔石に余裕があるので、もっと設定してもいいが、魔石は五個くらいが一般的だ。

 怪人撃破までの時間とちょうど釣り合うのが五個ということらしい。


「グレンさん、天候変化系のスキルありましたよね?

 できれば、それを持って邪龍族のフォローをお願いしたいんです」


「ゐーっ!〈ああ、それは問題ない。範囲はあまり大きくないが大丈夫か?〉」


「ええ、邪龍族の怪人が覆いきれない穴埋めをしたいだけなので」


 俺は了解して細かい話を聞いておく。


 レオナの説明によれば、邪龍族は今までもっと小規模な『作戦行動』しかやってきていないとかで、町の量販店を占拠したことはあっても、空港ほど大きな施設の占拠ははじめてなんだそうだ。

 そのため、抜けている部分がいくつかあって、その抜けをフォローしておきたいという話だった。


 『りばりば』が手を貸しての初めての大規模な『作戦行動』。

 レオナはこれで、小規模レギオンでも大手を利用することで大きな戦果を挙げることができると印象付けて、魔法文明世界全体を活性化させたいらしい。


 (コア)の持ち込み禁止は、予期せぬ戦争イベントを起こさないためという話も聞いた。


 ラグナロクイベント以降、『りばりば』ではエンジョイ勢が積極的に行動するようになっていて、『作戦行動』に参加したい人が増えているらしい。

 だからと言って、無作為に『作戦行動』を起こせば、戦争になってしまうリスクが高まる。

 だから、小規模レギオンの『作戦行動』に手を貸すのは『りばりば』人員にとってもありがたいことらしい。


「じゃあ、いきましょうか!」


 レオナ、俺、他に数名が穴埋め要員として、先に参加する。

 いわゆる、いつものボランティア活動だ。

 『りばりば』内でのボランティアポイントも貰えるらしい。

 雨合羽とオシャレ防寒具が支給される。

 つい、蓑はダメか? と聞いてしまったが、冷静に考えたらダメに決まっている。

 『シティエリア』で蓑装備はないな。

 正直、蓑装備の方が動きやすくて暖かいんだが、ここは我慢だな。

 マフラーに顔を埋めて、帽子を被り、もこもこ防寒具と雨合羽で、誰が誰だか分からない。

 この状態で出発だ。




 車移動で空港へ向かう。

 さすがにまだ『飛行場』のポータルはできていない。


「空港のシャトルバス市場に食い込めば、ポータル設置は簡単そうですが、バレそうなのが問題ですね……」


「ゐーっ?〈金があるんだから、個人所有の飛行場を買うのもありじゃないか?〉」


「観光区と工業区、ガレキ場にもポータルを起きたいので、そうなると少し金銭的に厳しくなるかもなんですよね……」


 ガレキ場にも置くのか……。

 まあ、色々とイベントがありそうなだけに、置いておいて損はないということだろうか。

 幹部は色々あって大変そうだな。


 幸いにも俺の【氷の女王エターナルフォースブリザード】は視界内全てに届く。

 さすがに空港を覆うには半径五十mでは狭いが、怪人『ストームせんぷうき』が起こした嵐の穴埋め程度はできる。


 空港内は封鎖されるので、空港を囲うフェンス越しに空港の空を見上げる。


「よし、や、やるせん! 必殺【嵐呼ぶ声(テキ・ソーソー)】せん!」


 太ったヲタクな兄ちゃんという人間アバターの怪人『ストームせんぷうき』が踊り出す。

 実際、踊る必要はないらしいが、様式美なんだそうだ。


 空に暗雲が立ち込め、すぐに雨と強風が吹き荒れる。


「グレンさん、一番滑走路の方をお願いします」


 レオナに言われて、一番滑走路に氷雪を積もらせる。

 レオナが指示を出し、少しずつ穴を埋めていく。


 暗雲は空一面を覆うものではなく、パッと見で不自然に見える。

 まあ、天候調整用の機械が故障したなら、こういう天気も有り得る話ではあるが、普通は空港周りに嵐を発生させるやつはいない。


 ただ、異常気象をほとんど克服したとされる現代でも、天候調整は容易ではない。

 あちこちで天候調整をした結果、変な異常気象が部分的に起こることは有り得る話だ。


 完全な天候調整ができるようになる為には、そこらのおっさんのしわぶきひとつまでを事前予測できなくてはならないらしいので、まだまだ時間がかかると聞いた記憶がある。


 そういう訳で、季節外れの嵐と雪が局地的に降る、今日みたいな日は、なるべく静かに嵐が過ぎ去るのを待つべきなのだ。


 レオナが耳に仕込んだ骨伝導通信機に耳を傾ける。


「はい……はい。

 空港稼働率50%まで低下、このまま行けば、じき空港は邪龍族の手に落ちるでしょう!

 降りてくる飛行機はそのままに、落雷で出発を狙う飛行機を止めてください」


 次は落雷か。

 意外と忙しいな。

 【氷の女王エターナルフォースブリザード】も五分に一度くらいかけなくてはならないので、俺はMPポーションを被りながら八面六臂に活躍する。


 雨は完全に横殴りで、雨合羽があってもびしょびしょなので、MPポーションを被ることに躊躇いはないが、服の中がびちょびちょで気持ち悪い。

 段々と冷えてくるのは、俺の降らせた氷雪のせいだ。


「う……MPポーション切れました」「ヤバい、こっちも……」「今、手配しました。騙し騙しでいいんで、続けて下さい!」


 上手くいっているからなのか、MPポーション切れが続出する。

 そもそも、豊富にMPを持っているやつが少ないからな。

 俺は状態異常の有効時間と、そもそものMPが多いから保たせられているが、他のプレイヤーは予定外だったらしい。


「空港稼働率20%! ようやく全便欠航したところです。なんとか保たせてください!」


「ゐー!〈くそ、レッドマンいちごでMP30回復だ。これでもう少し頑張ってくれ!〉」


 俺は戦闘員たちにレッドマンいちごを奢る。

 ようやく感情エネルギーが入り始めたところだ。ここでなんとかしないと……。


「うめえ!」「おい、ここで感覚設定上げるな!」「た、食べる瞬間くらいはいいだろ……」


 綱渡りな回復で一部の空が曇ったり、晴れたりを繰り返す。


「おお、来てるせん! こんな大量得点、はじめてせん!」


 確か他の人員がシャトルバスはロボットタクシー、電車を足止めして、空港内のフラストレーションを高めているはずだ。

 結構な人数が今回の作戦で動いているからな。

 稼げてもらわないと困る。


 空港の敷地の外で俺たちが騒いでいると、『銀河ポリス』のパトロールカーが俺たちの前で止まった。


 ヤバい、気付かれたか?


「あんたら、何してんの?」


「……」「……」「……」


 全員が一斉に黙った。

 そんな中、レオナが前に出る。


「あ、私たち航空ファンで飛行機見に来たんですけど、ものすごいレアな状況じゃないですか。

 これは見てなきゃ損すると思って、仲間に声を掛けたら、予想以上に集まっちゃって……」


「飛行機せん! 飛行機せん!」


 なんだろう、『ストームせんぷうき』の人間アバターの説得力が違う。


「あのねぇ……いい大人がこんなに集まって、しかも空港内はかなり大変な状況になってるってのに……それを面白がるなんて、不謹慎だよ……こんなにびしょびしょになって……」


「いや、これは目に焼き付けておかねば!」「そうですぞ、こんなレアケース、マニアとしては百年に一度のビッグイベント!」「か、各国の飛行機は使っている塗料で雨の弾き方が違うんですよ、ほら、あっちはピシピシって弾いてるけど、こっちのはスーって流れていってるでしょ!」


 全員がレオナの言い訳に乗っかって、ある事ない事騒ぎ始める。


「あー、分かった……分かったから……とにかく、あまり騒がないように!

 いいね!」


「「「はーい!」」」


 とても、良い返事だった。

 パトロール要員は非常にウザそうに去っていく。


 全員がホッと息を吐く。


「ぶっ……なんだよ、塗料の違いって……」「いや、プラモ知識……」「やっべぇ、終わったかと思った……」


 ひとしきり笑い合う。

 それから、俺たちは次はどういう風に誤魔化すかを話しながら、作戦を継続する。


 だが、こういう気の弛みが失敗の素だよな。


 先程のパトロールカーが戻ってくる。


「おい、お前ら、そういえばなんで全員が顔を隠してるんだ?

 ID出して。確認するぞ」


「えっ、持ってないせん……」


 小規模レギオンだとそこまで徹底するのは難しい。

 『りばりば』の人員は、偽IDを持たされているが、『邪龍族』では用意できなかったようだ。


「はっ? 今、持ってないって言ったか?

 そんな奴らが空港に?」


 瞬間、レオナが動いた。


「始末します!」


「「「イーッ!」」」


 レオナのナイフが一人のパトロール要員の首を裂く。

 戦闘員たちが一瞬でパトロールカーに詰め寄る。


「な、お、お前ら……」


 さらにパトロール要員が殺された。

 だが、その時点でパトロールカーが無理やり走り始めた。


「逃がしはせん! 【風・張り手】せん!」


 手のひら型の風撃がパトロールカーをひっくり返す。

 ピューイっ! と尻上がりにサイレンが鳴って、止まった。


 俺たちは目の前の危機を脱したと思った瞬間、空港の周囲に赤色灯の光が眩く輝く。

 サイレンが鳴り響いて、あちこちからパトロールカーが急行してくる。

 バレた。


「ストームせんぷうきさん、逃げて!

 少しでも稼いでください!」


「わ、分かったせん!」


 俺たちは、とりあえずここまでだな。

 後は復活石から呼ばれることになる。

 とりあえず、『ストームせんぷうき』を逃がすべく、時間稼ぎをさせてもらおう。


 全員が構えるのだった。



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