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227〈共鳴……混線……〉


 なんだか今日は訳の分からん日だった。

 あのトラ人間、今後、あんなのが街を闊歩する日が来るんだろうか。

 ちょっと『リアじゅー』みたいだな。


 研究者に軍人か。

 変な人とも知り合ってしまったしな。

 時間を見る。

 あ……ヤバい。今日は青海、『マギサファイア』だったやつと決闘の約束があった。

 俺は慌てて『リアじゅー』へとログインするのだった。


 ヤバい、ヤバい、遅刻しちまう。

 慌ててアイテム整理をして、場所と時間を確認する。

 第四フィールド二層の闘技場か。

 『プライベート空間』のグレン農場でテイムモンスターたちを呼ぶ。


「ゐーっ!〈おい、第四フィールド二層まで大至急、向かわないと行けない、手を貸してくれ!〉」


「ああ、グレンさんこんにちは!」


「ゐーっ!〈おう、シシャモ、すまないな。ちょっと急ぎで第四フィールド二層の闘技場まで行かないといけないんだ!〉」


「じゃあ、ご一緒しますね!」


「ゐー?〈いや、個人的な用だぞ?〉」


「まあまあ、いいじゃないですか!」


「ゐー?〈いいのか?〉」


「いいです、いいです。

 さあ、急いでるなら、早く行きましょう!」


 キウイに台車を取り付け、シシャモを乗せると、俺はキウイに跨って、走り出す。


「ぬおっ!」「な、何事だ!?」「さすが肩パッドさんはスケールが違う……」


 そんな声を置き去りにして、俺は『幕間の扉』を潜った。


 ガララララッ! と車輪の音が響く。

 ススキの原を切り拓くように、テイムモンスターの行列が直進していく。


 はたと気づく。

 アイベリックス・メル吉だ。

 大型のコンテナトラック四台分くらいの大きさの双頭の金山羊が異様な重圧を伴って、着いてきているのだ。


 どうりで敵モンスターが寄ってこない訳だ。

 あと、他レギオンのプレイヤーも寄って来ない、というか道を開けてくれる。


 善意ではないかもしれないが……。


 ススキの原を越えて、荒野を縦断して、遺跡地帯へと入っていく。

 さすがに遺跡地帯では直進とはいかないので、スピードが落ちる。

 スピードが落ちると敵が寄って来る。

 まあ、シシャモのダブル重機関銃の餌食になるか、野菜たちの状態異常で訳が分からなくなって味方に突撃をかますか、アイベリックス・メル吉に踏み潰されるかの三択で敵が減るだけではある。


「そこ、右斜め方向です!」


「ゐー!〈分かった!〉」


 シシャモに着いて来てもらって助かった。

 地図はあるが、シシャモは道を知っているので、ナビゲーションしてもらえる方が早い。


「あそこです!」


 闘技場が見えて来た。

 壁が高くないが、それは下に水のないプールのように凹んでいるからのようだ。


「たしか、裏手に搬入口のような広い通路があったはずですよ」


 言われるままに闘技場の裏手から侵入する。


「遅い!

 さてはそういう作戦ですか……おっひゃあっ!」


 裏手から侵入したので、青海の後ろから出る形になってしまった。

 振り向きざまの第一声がコレである。


 尻もちをついて、見上げる青海は、確実にアイベリックス・メル吉を見上げていた。


「くっ……確かにテイムモンスター禁止などというルールは設けてませんでした……」


「あらら〜、青海ちゃん、一本取られちゃったね……」


「ゐー!〈SIZUっ!〉」


「決闘なら審判兼見届け人が必要ということで、ついて来ました!」


 おう、そ、そうか。


「ゐー……〈いや、リアルで色々あってな。遅れて申し訳ない。もちろん、テイムモンスターを使う気はない。

 早く来るのに必要だったから連れて来ただけだ……〉」


 言いながら、キウイから降りる。


「……だって」


 SIZUが通訳して青海に伝えると、青海はビシッと俺に指を突きつけた。


「バカにしてますか?」


 俺は首を横に振る。


「いいえ、バカにしてます!

 私程度、全力で相手をするまでもないと思ってますよね?」


「ゐー!〈そんな訳ないだろうが! もちろん、やるからには全力だ!〉」


 『遺跡発掘調査』だと特別なイベントでもないと、(コア)の変身は使えないから、本当の全力かと言われれば、違うということになるが、出せる全力で戦うつもりはある。


「なら、テイムモンスター、使いなさいよ!」


「あ、じゃあこの子をお返ししないと……」


 おーい、とシシャモが自身の銀の腕輪をポンポン叩く。

 腕輪の端が鎌首をもたげて、小さく「シーッ……」と鳴いたかと思うと、ポトリ、と下に落ちる。


───ザ……ザザ……お前らが無事なら……ザ……───


───ジジ……ジ……兄さんと妹に迷惑をかけないように……ジジ……───


───キキュー……キ……くっ……騙された……あの半目野郎……兄さんたちに知らせないと……キキュー……キキー……───


「ゐーっ!〈イテテテテテ!〉」


「あっ……なん……頭が……」


「くっ……ちょ……何……?」


 俺とシシャモとSIZU。

 三人で頭を押さえて、悶えた。

 何か、耳元で壊れた無線のチューニングを大音量でされたような、感覚が襲う。


「え? ちょ、SIZUさん、ああ、グレンさんにもう一人も!?

 何? なんなんですか?

 だ、大丈夫ですか?

 ああ、どうすれば!?」


 いきなり悶えだした俺たちに驚いた青海が慌てる。

 青海はこの大音量の嵐みたいな感覚に晒されたりはしていないのか……。


「わっ、ちょ……蛇……へび〜っ!」


 蛇神・ククルカンのクルトンが闘技場を囲むほどの大きさになって、観客席をぐるりと回るように取り囲む。

 大音量の頭痛を引き起こす音がピタリと止んだ。


「くっ……あなたがシシャモくんね……」


 かき氷をかっこんだ後みたいに、頭をトントンしながら、SIZUがシシャモに話し掛ける。


「えっ? は、はい。あの……なんで、僕の名前を」


「私はSIZU。グレちゃん……グレンの従妹なの」


「あ、噂の従妹さん……」


「うん、うん。ガチャ魂的には……」


 と、SIZUは俺を指さして。


「一番上のお兄ちゃん」


 次にシシャモへと指を移して。


「二番目のお兄ちゃん」


 さらにSIZUは自分を指さして。


「末の可愛い妹ということになってます」


「えっ? あの……」


「なってます!」


「あ、はい……」


 無理やり納得させたな。


「ゐー……〈まあ、こういうちょっとズレたやつだが、できれば仲良くしてやってくれ。

 敵対した時は遠慮しなくていいからな……〉」


「うんうん。仲良くしてください!」


「あ、はい! それはもちろん……」


「ゐー!〈さて、待たせたな。それじゃあ、テイムモンスターあり、でいいのか?〉」


「すいません、アレもでしょうか?」


 青海がクルトンを指差す。


「ゐー?〈あー、まあ、俺のテイムモンスターではあるかな?〉」


「ぐっ……お、女に二言はありません!

 やってやりますよ! さあ、かもーん! ドちくしょー!」


 青海が構える。

 うーん……やるのか……本当に?

 しかも、待ちの構えかよ。半ば諦めてるだろ、それ。


 そんな状態で俺とまともに戦えると思っているなら、それこそ失礼な話だ。


「ゐー!〈【闇芸(えんかいげい)】【闇妖精の踊り】〉」


 悪いがまともにやる気がないなら、一瞬だ。


「えっ!? ちょ……」


 俺はとりあえず、お化けっぽく身体を動かしていく。

 手首を曲げたまま、左右に襲いかかるフリをしたり、肘を固定して手首や足をぶらぶらさせたりして、リズムを取ると同時に叫ぶ。


「ゐー!〈やれ!〉」


 俺の掛け声で野菜モンスターたちが一斉に得意な状態異常攻撃を仕掛けていく。


 『混乱』『毒』『魅了』『氷結』『キノコ化』『号泣』『ベタベタ』……。


 様々な状態異常毎に、様々なリアクションを見せてくれる青海。


「ほわっ……ぐっ……はうっ! かっ……ひょっ……あうっ……にょ〜」


 顔面七変化状態で、ちょっと面白い。


「ゐー!〈お前、どっちが先にスキルを当てるかが勝負の分かれ目なのに、受けに回った時点で負け確定だろ……つまらん勝負させるな……【神喰らい(オオカミ)】!〉」


 俺は青海の首筋に牙を当てる。


「ゐー?〈SIZU、俺の勝ちでいいな?〉」


「うん。これはグレちゃんの勝ちだね……。

 アオちゃんには、奥の手あるかもよって注意してたんだけどね。

 さすがにグレちゃんのスキルを教えたらフェアじゃないから、言わなかったけど、これはちょっとね……アオちゃん的には不本意だろうけど、負けは負けだしね……」



 SIZUとしても勝負の行方が分からないだろうからこそ、見届けたいというのがあっただろうし……なかなか難しいな。


「ゐー……〈元々、まともに戦ったら、俺が地力で負けるのが道理だしな……だからこそスキルの読み合いで勝負するつもりだったが……〉」


「気持ちで負けた以上、言い訳はできませんね……」


 がっくりと落胆した青海に、俺の言葉は届いていないはずだが、まるで聞こえていたかのように青海が言葉を継いだ。

 まあ、敗因に自分でも自覚があるのだろう。


 俺は【神喰らい(オオカミ)】の牙を引く。


「ゐー!〈次に挑んで来る時は、本当に手加減抜きだからな!〉」


 俺はテイムモンスターたちを集める。

 SIZUがニヤニヤしながら、俺の言葉を青海に伝えた。


「え……次?

 あの、また戦ってくれるんですか?」


「ゐー……〈勝たなきゃ、前に進めないんだろ。なら、勝ってみせろよ……〉」


 俺は、ムスッとして言った。

 正直、不完全燃だ。

 あと、腹が減った。


 蛇神ククルカンのクルトンが、するすると小さくなりながら、輪を縮めていく。

 途中で顔を俺に向ける。

 俺たちを囲みながら、顔の部分だけが俺に近づいて来る。


 あ、何か嫌な予感がするな……。


 ピラピラと出し入れされる顔に比べて小さな舌が俺に触れた。


 おおう……やっぱり。

 クルトン、お前、いったい……。


 一瞬でMPを持っていかれた。

 俺は稀代の催眠術師に出会ったかのように、その瞬間、眠りに落ちるのだった。




「ゐー!〈死んでんじゃねーか!〉」


 たぶん、あの大音量チューニングを防ぐためにクルトンはデカくなって、MPが足りないから、俺から吸ったということだろうか?


 俺は好奇の目線に晒されながら、『大部屋』で叫ぶのだった。



まともな決闘にすらなりませんでした。

青海ちゃんもラグナロクイベントについて、うろ覚えなので、グレンのいるところでモンスターがウロチョロしてたなあ……とか、覚えてません。

まあ、グレンくん情報はちょっと調べたらボロボロ出てくるはずなので、青海ちゃんのリサーチ不足が敗因です。


きょう……めい……?

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― 新着の感想 ―
[一言] 堕天使様と72の僕(結構足りない)
[一言] シシャモ+テイムした子達で大行進!! 場面を想像してみたら面白すぎてお腹が痛くなりました。 皆ビビッて道あけるよね、そりゃあ・・・w
[一言] まぁ状態異常特化なんだし抵抗たかくないとそうなるよね その分打たれ弱いけど >きょう……めい……? いいえ、今日はじゃにありー(January)です
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