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225〈ふたたびのましろ〉


 会議はそのまま飲み会になだれ込んで、なし崩し的にただの宴会になった。

 グレイキャンパス否定派の『マンジクロイツェル』、『世界征服委員会』、『中規模レギオンの代表』はもうしばらくの猶予を持つことになった。


 それよりも今回の会議によって魔法文明世界全体が緩くても繋がりを持てた方が成果としては大きいかもしれない。


 お客である面々が帰った後、出していたテントなどをしまい、あと片付けをする。


「じゃあ、先に戻りますね」


 片付けはそれほど難しいことでもないので、サクヤと煮込みと俺の三人だ。


「なんとかグレイキャンパスとの喧嘩は回避できそうで良かったミザ」


「そうですねー。

 SIZUさんの諸々を見せつけられた身としては、あのスキルが連続使用できるとは思えないので、潰すなら今しかないとは思いますが、今は一番、無駄な潰し所でしょうし、結果的に先延ばしになって良かったとは思いますねー」


「ゐーんぐ?〈サクヤは潰す派か?〉」


「いえいえ、単なるタイミングのお話ですねー。

 もし、りばりばがグレイキャンパスを潰すとなったら、止めますよー。

 ただ、戦う準備はしておくべきだと思うので、それについては考えてますかねー」


 まあ、それは確かに正しいかもな。

 グレイキャンパスが、俺たちと目指すところが違う以上、いつかはぶつかることになる。

 これがゲームである以上、目標を目指さなければなんにもならない。


「ゐーんぐ……〈そうだな。備えだけはしておかないとな……〉」


 まあ、それが今じゃないことに少しホッとしている自分はいる。


 おや? 何か視線を感じた気がして顔を上げると、隣の畑のましろと目が合った。

 ましろは「こんにちは!」と言いながら手を振っている。


 そういえば、ウチの畑の隣りは『ホワイトセレネー』こと『ムーンチャイルド』所属のましろだった……。

 いや、さすがにスパイできる距離ではないから、その点は心配していないが、何かあっただろうか?


 俺は畑の際まで歩いて行く。


「こんにちは、グレンさん!

 随分と盛り上がってましたね!」


 俺は喋れない人として、頷いておく。

 それから、耳を指さして、「うるさかったか?」とジェスチャーする。


「あ、いえいえ、大丈夫です。

 ただ楽しそうだなと思っただけなので……」


 ふむ……じゃあ、何事だろうか?

 そう考えていると、ましろが「ちょっと待って下さいね……」と言って、自身の畑のインベントリから何かを持って出てきた。


「ほら、見て下さい。いただいた種から、こんなに立派な野菜が採れたんですよ!

 良ければ味見してみませんか?」


 ああ……種を分けてやったからな。

 それの成果を見せたかったのか。

 俺は頷く。


 ましろが見せてくれた籠には立派なキュウリやカブ、ニンジン、ダイコンなどが入っていた。


 キュウリを丸かじり。


 うん……美味い。瑞々しさも仄かに感じる甘みも申し分ない。

 俺はサムズアップして見せる。


「わあっ! 良かったです!」


 屈託なく笑うましろに、俺もつい笑顔になる。

 結構、細かく世話しているのだろう。

 下手するとウチの野菜より旨味が濃いかもしれない。


「……それで、あの……ちょっと言い難いんですが……グレンさんは……その……」


 もじもじしながら、ましろが言い淀む。


「間違ってたら申し訳ないんですが……たぶん、魔法文明世界の方かなって……あ、ここで戦おうとかじゃなくて、ですね。

 今、この郊外エリアで畑をやってる人たちで、ここを緩衝地帯にしようという運動がありまして……。

 もちろん、他のエリアではそれぞれの陣営として、動きますが……この郊外エリアでは、ただのプレイヤーとしてお互いの所属を忘れて接しようという動きがあるのはご存知でしょうか?」


 初耳だった。


「今、ここに畑を持つプレイヤーの六割くらいが賛同しているんですが……良ければ、グレンさんも輪に入っていただけないかな、と思いまして……」


 発案者は誰だろうか?

 前にこの『郊外』エリアで小さな恋の物語を始めそうだったアイツらか?


「どうしても、両陣営のプレイヤーが入り乱れて活動していると、無駄な軋轢が生まれたりするじゃないですか。

 でも、ここに畑をやりに来ている人は都会の喧騒から逃れて、ひと息つきたい人が多いと思うんです。

 なので、ここで畑をやっている時くらい、どっちの陣営だから、とか、そういうのを忘れられないかな……って」


 確かに……。


「NPCがほとんどいないここなら、作戦行動の標的になることも、まずないですし……」


 俺は頷く。

 そうか、バレていたというか、薄々感じていたというか……まあ、バレていたのだろう。

 幻想種の野菜を気づかずに食べさせたりしていたしな。


「どうかしましたかねー?」


 サクヤがこちらを気にして寄って来た。


「あ、えっとですね……」


 ましろが説明しようとするので、俺はそれを遮って、俺から伝えることにする。

 踏み絵みたいなもんだ。


「ゐーんぐ!」


 ここを緩衝地帯にしようという動きがあること。俺がそれに賛同しようとしていること。ましろが科学文明世界のプレイヤーであることなどだ。

 この俺の言葉を聞いて、ましろが攻撃してこないことが、ある意味、ここを緩衝地帯にする証明になる。


「それはまた、随分と大胆な……まあ、私はそれに干渉する権限はないので、グレンさんにお任せですかねー。

 ただ、そういうことなら、早めに上に話を通した方がいいとは思いますよー」


 サクヤの言う通りかもしれない。

 今日のように、人が少ない場所として、会議に使ったりするにしても、ここが緩衝地帯になっていると分かれば、安心感も増すだろうしな。

 まあ、ウチの場合、俺の畑が広いから、畑の中に侵入されない限り、スパイの心配がないからという意味が強い。

 セキュリティのドローンも飛んでいるしな。


 ましろは俺の言葉に少しだけ驚いた顔を見せたが、後はドキドキしながら待っているだけだった。


 俺はましろが示す同意書に署名をした。


 この緩衝地帯宣言、上手くいくといいなと思いながら、一抹の不安が過ぎるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 見える、見えるぞ…何時の間にか設置されたビアガーデンで 科学魔法合同女子会と言う名の地獄の扉が開いてしまうのを そしてバーテンダーとして愚痴を聞き情報を抜くSIZUの姿が。
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