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大晦日ですね。
皆さま、よいお年を!
久しぶりに静乃にレポートを書く。
何も隠すことなどない。
明日、魔法文明側の会議があることも、静乃なら知っている可能性もある。
下手をすれば、俺よりも静乃のほうが他レギオンの考えを良く知っているかもしれない。
それをわざわざ隠す意味を俺はあまり感じない。
静乃はたぶん、他者と情報をやり取りしている。金銭が関わっているかは分からない。
直接、静乃から話を聞いたことはないが、おそらく確実だろう。
言動の端々からそれは見えている。
だが、俺のレポートを静乃が利用している形跡がほとんどない。
他者とのやり取りの中で、俺が書いたレポートの内容は、かなり危ういはずだ。
だが、パッと見たサイトや掲示板では、俺の詳細なスキル情報もそうだが、『りばりば』の内部事情なども、表面をなぞったようなものばかりで、確定的なものがない。
外部から見られる『りばりば』の幹部情報など、糸の名前のいの字も見当たらない。
火のないところに煙は立たないというが、火はあるのに煙が立っていない。
ムサシですら、『恐らく幹部、フィールドで新人育成している姿を良く見かける』などと書かれているのにだ。
───グレちゃん、今度は牧場主かぁ。手広くやってるよね!───
───ああ、明日、魔法文明側の会議があるだろ。それについてはどう思う?───
───なに、グレちゃん。レオナさんから探り入れて来いとか言われた?───
───いや、グレイキャンパス的に気になるのはそこかと思ってな───
───ああ、グレイキャンパス的にw
どこかに好かれる嫌われるとかは、割りと興味ないというか、ぶっちゃけどうでもいいかも。
ああ、グレちゃんが『りばりば』と敵対するなって言うなら、そうしてもいいけど?───
───いや、お前に痛い思いをさせるのは申し訳なく思うが、たぶん、あと何回か対戦したら攻略できそうな気はしてるから、逆に今は戦いたくてうずうずしてるけどな───
───ほうほう……さすがのグレちゃんも従妹の痛みは案じてくれちゃうのか……にひひ……───
───ゲーム内なら手加減はしないけどな───
───いや〜ん、従兄が鬼畜〜!───
───おい……───
───いや、嘘、嘘……ただの照れ隠しだから……───
ゲーム内で痛がったらコイツの罠を疑う、と今、決めた。
勝ったら謝ろう。
───それで、俺からの情報はどこに流れてるんだ?───
───どこにも。変に関係性を拗らせたくないから、これはハッキリ言うけど。
私は、絶対に、グレちゃんのレポートをただの情報として扱ったことは一度もない。
これは信じてもらうしかないけど、私はグレちゃんの目線で見た『リアじゅー』の世界が好きで、それ以上にも、それ以下にも見てないよ───
───……そうか。変に勘繰って悪かった───
───ううん。当初は私も反体制側に行くつもりだったのが、野良レギオン立ち上げなんてことになったから、それはごめんなさい───
───いや、それはいいんだが。今の『リアじゅー』は当初、静乃が思っていたくらい、面白く映ってるか?───
───うん! 最高に面白いよ、人生賭けられるレベル!───
人生賭けたらダメだろ、とは思うがそこまで楽しんでいるなら良かったと思う。
───ねえねえ、それよりも金山羊って美味しいの?───
───売り値は充分にな……味はさすがに復活すると言われても、すぐに食べようとは思わなかったからな……。
美味かったら、その内、お裾分けしてやるよ───
───おお、さすが、グレちゃん!
楽しみにしておくね!───
二日ぶりに話していて、俺は、はたと思い出す。
今になって、急に白せんべいとおじいちゃん先生が繋がった。
「……【玄武の盾】」
呟きと共に弾かれるように割れるグラス。
他方で、おじいちゃん先生が冗談のように笑いながら言う。
「そうだな。スキルが使えたなら、別の話かもしれんが……」
それから、急に真剣な表情になったおじいちゃん先生の顔が、グンと近づいて来る。
「もし、次にそういう感覚があったら、もう一度来なさい。
まだ、詳しくは言えんが、超能力は浮かれていい話じゃない。
いいか。脳の混同は起こりうるが、人様に話すとバカにされる。
ましてや超能力が使えるなどと言ったら、大バカ者だ。
くれぐれも他人様に超能力が使えますなどと言わんようにな。
いいな」
数日前の静乃とのやり取りが思い起こされる。
───え、どういうことかな? 周りには……えっと、その……墓さん、じゃなくて、白せんべいは隠れ厨二だから、言いふらさないであげてね……───
点と点が繋がりはするものの、ちゃんと繋がらない感覚。
白せんべいが呟いたスキルと、おじいちゃん先生と静乃から言われた言いふらすなという警告。
スキルが超能力として存在する?
だとしたら、ニュースから消えた超能力者たちは、全員、『リアじゅー』経験者?
いや、静乃の話題に出てきた霊能少女はゲームをやらないとか言っていた。
どういうことだ?
霊能少女はオカルトニュースとは別枠なのか?
なんだか放っておいてはいけない気がして、俺は静乃との通信を切って、調べ物を始めた。
オカルトニュースのアーカイブは残っていないが、断片を集めるくらいはできる。
確か、記憶では超能力者の名前が出ていたはずだ。
個人名が分かれば、調べ方次第で情報は幾らでも拾えるのが今の時代だ。
俺は営業職の関係で、営業相手の個人情報をそれなりに調べるくらいはする。
こういうのは普段なら静乃に頼めば早いが、静乃は言葉を濁してまともに答えないという態度だ。
自分で調べるしかないだろう。
アンチオカルト系に意外と断片が残っていた。
俺が見たニュースで特集を組まれていたのは五人で、その五人を追跡調査する。
ブログやSNS、IDなどから様々な事が分かる。
五人の内、『リアじゅー』経験者は二人で、共通点は五人全員が、ちょうどラグナロクイベント終了後に超能力の発現を感じていたことくらいだ。
ゲームなら、これはフラグだ、と断言できるが、現実ではそうはいかない。
五人中、四人がニュースに出た後、音信不通になっていて、一人は犯罪者として捕まっていた。
だが、ゲームと現実の繋がりをなんとなく感じていても、はっきりとした証拠はない。
ゲームと現実か。
馬鹿らしいと一笑に付すには、自分の中にある幻覚だか混同だかが立ちはだかる。
そんなこと、あるんだろうか?
ゲームと現実の繋がりについて、つい調べてしまう。
ゲーム内ガチャの百連で最高レアが全く出ないから、現実のパチンコで当たるはずと十万溶かした、とか、ゲームに出てきた白猫そっくりの猫を見つけて買っちゃいました、とか、そういう話ばかりだ。
まあ、そんな簡単に俺の感覚と似たようなものを感じている人はいないか。
俺はモヤモヤしたものを残したまま、眠るのだった。
サードアイ、見つからず。
グレンくんはネットに強くないようです。




