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名前募集は一旦、終わりとさせていただきます。

たくさん、ありがとうございました!

名前募集への感想返信は今話とその後書きを感想返信の代わりとさせてください。



 双頭の金山羊はテイムしたので、とりあえず檻から出してみる。


 素早く寄って来たのは長鳴神鳥のキウイだ。


 双頭の金山羊の巨体を見上げて、地面を見て、回り込んで、また見上げるを繰り返している。


「こけっ! こけっ!」


 少し離れる。


「きうー!」


 俺の右肩のフジンが鳴いて、キウイが近づいてきたかと思うと、フジンはキウイの頭の上に飛び乗った。


 キウイが助走をつけて、跳ぶ。

 乗るつもりか。


 だが、双頭の金山羊は、のっそりと歩き出した。

 お目当ての背中が動いたことで、キウイは空中で短い翼をバタバタさせてから、地面に降りた。


「こけー、こけー!」「きうー!」


 何やら文句でも言っているように見える。

 急に動くな、とかそんなところだろうか?


 そうこうしている内に他の野菜モンスターも集まってくる。


「こまっつなー!」「たまたま!」「……」


 さすがに動物語は分からない。


「こけー!」「きうきうー!」


 キウイとフジンは怒ったように鳴いて、また助走に入った。

 ダダダ、と走って、跳ぶ。


「ンメ゛ェェェエエエ!」


 双頭の金山羊は野菜モンスターたちの前で脚を折り、寝そべった。

 キウイの計算が狂って、俺に向かってジャンピングキックが跳んで来る。


 いや、バカ……。


 バチン、と音がして俺はもんどり打って倒れた。


「こけー!」「きうー!」


 キウイとフジンが地団駄踏んで悔しがっていた。


 俺の扱い酷くねえか?


 とりあえず起き上がった俺はキウイの頭に無言でチョップを叩き込み、フジンを摘んで右肩に乗せる。


「ごけっ!」「き、きう〜……」


「ゐーんぐ……〈仲間同士で変な格付けとかすんな……〉」


 二匹は項垂れた。


「もう、なーにー、うるさいわねぇ」


 おっと、左肩が起きてしまった。


「きう〜……」


「あのねぇ、言っとくけど私はその群れだかなんだかとは別枠なの!

 一緒にしないで……」


「ン゛メ゛ェェェエエエ!」


「あら?

 雷親父のとこの……え、走れないからお役御免……あ、そう……肉が増えてツラい……減らしていいか聞いて欲しいの?」


 じぇと子が俺に向き直る。


「肉、減らしていいかって?」


「ゐーんぐ?〈知り合いか?〉」


「光ってるやつは、だいたい知り合いよ。それより、どうなの?」


「ゐーんぐ?〈太っているようには見えないが、別にいいんじゃないか?〉」


「いいってよ」


「ンメ゛ェェェエエエ!」


「あと、早く名前くれって……」


「ゐーんぐ……〈名前……名前なぁ……それじゃあ、アイベリックスで!〉」


 何となく頭の中に囁きがあったような気がして、それをそのまま音にしてみた。

 うん、いいんじゃないか。


「それ、右? 左?」


「ゐーんぐ?〈は? 両方つけるのか?〉」


「当たり前でしょ!」


「ゐーんぐ!〈じゃあ、右がアイベリックスで左が……メル吉!〉」


「ン゛メ゛エエエッ!」


「それで、いいって」


「ゐーんぐ……〈そ、そうか……〉」


 呼ぶ時はアイベリックス・メル吉になるのか……まあ、ジョン・万次郎みたいなものだと思おう。


「それで、あの子は?」


 ん? あの子?

 じぇと子の指先を見ると、金山羊が一頭、アイベリックス・メル吉から産まれていた。


「ンベー!」


 なん……だと……。

 双頭ではないが、あの金の体毛はたしかに遺伝子を受け継いでいるのだろう。


「ゐーんぐ……〈き、き、キソムギ……〉」


「あ、また産まれた……」


 ぽこっ、ぽこっ、ぼこぽこぽこ……次から次へと金の山羊が産まれる。

 ど、どうなってんだ?

 山羊語だと、肉を減らすって子供を産むって意味なのか?


 俺は混乱した。


「ほら、次の子は?」


 つ、次? 名前……名前……。


「ゐーんぐ?〈ソボロ?〉」


「んじゃ、次の子は?」


 じぇと子が次から次へと名付けを強要してきて、俺は半ばパニックになりつつ、とりあえず、頭に浮かぶ名前をそのまま音にしていく。


「ゐーんぐ!〈アルゴロス、ゴル爺、ヒツジ!〉」


 子山羊にゴル爺と付けてしまうが、顔がそんな感じに見えたんだから、仕方がない。

 ヒツジ……いや、まあ……ヒツジ?

 OKだ。頭の中に今、俺はネーミングの神の存在を感じている。

 湧き出す衝動のままに名付けをするだけだ。

 何の問題もない。


「でけえ山羊……」「何してんだ肩パッドさん?」「なんだろう? たぶん、精霊と一緒に何かしてるみたいだけど……」


 ギャラリーが増えて来る。


「ゐーんぐ……〈アイギス、アリ、メン……〉」


 なんとなくだが、ちゃんと考えた結果の名前だ。

 音の響き的にも呼びやすくていいよな。


「な、なあ、肩パッドさん、良かったらその子一匹、売って貰えないかな?」


 見知らぬ戦闘員が声を掛けてくる。


「ゐーんぐ?〈売る?〉」


「ン゛メ゛ェェェエエエ!」


「なるべく高くふっかけろだって。食べる時は骨と皮だけ残せって。

 そうしたら、何日かしたら復活するんだって」


「ゐんぐ!?〈アイベリックス・メル吉が言ってんのか!?〉」


「うん。元々、そういうもんだから。

 問題ないよ」


「ゐーんぐっ?〈そういうもん?〉」


「うん、そういうもんだよ」


───つまり、食っていいんだな───


 イタマーナが会話に混ざる。

 イタマーナは精霊と会話できるのか。


───ああ、色々食ってるとたまに変なスキルが生える時があるんだよ。プレイヤーはどうだか分からんけどな……───


 俺の驚いた顔に、イタマーナが説明してくれた。


 そこで俺は、金山羊の『競り』を開催することにした。

 仕切りはホワマーナに任せる。


 人が人を呼び、どんどん暇を持て余した戦闘員たちが集まってくる。


「グレンさん、何かあったんですか?」


 人混みから抜け出したレオナが声を掛けてくる。


「ゐーんぐ!〈ああ、ウチのNPCドールがアイツを捕まえて来てな……テイムしたら子供を湯水のようにぽこぽこ産むんだ。

 それで本人……本山羊? が言うには、なるべく高く売って欲しいって話でな。

 ちなみに、食べる時は骨と皮だけ残せば、何日か後に復活するんだそうだ。

 それで、高く売るなら『競り』でもやるかと思ってな〉」


「は、はあ……それはまた……あれですね。雷神トールの乗騎と言われたタングリスニ〈ル〉とタングニョーストみたいですね……」


「ゐーんぐ!〈それだ! アイベリックス・メル吉の名前をソレに……〉」


「ダメだよ!」


 じぇと子が、ピシャリと言った。


「それはやめてあげて……」


 なんだか、じぇと子の表情がいやに真剣だったので、俺はその名前を封印した。


 注意事項をホワマーナとレオナからも二重で説明して、『競り』が始まる。


───では、最初はキソムギから、最初は千マジカからいいですかね?───


「ゐーんぐ!〈高ぇ! そこそこな装備が買えちゃう値段だぞ。売れるか!?〉」


 しかも競売方式だとそこから値段は上がっていく。

 突撃猪が一キロで1.5マジカ、丸々太って二百キロのやつを三百マジカで買い取りしている。

 金山羊のキソムギは体重七十五キロくらいの普通の山羊より少し大きめ程度の体長だ。

 それだと一キロ、13マジカ以上で売ることになる。


───このホワマーナにお任せを!───


「千百!」「千二百!」「千五百!」「二千!」「二千百!」「三千!」「さ、三千百!」「三千二百!」「五千!」


 みるみる値段があがっていく。

 一人、すげー突っ張ってるやつがいると思ったら、みるくだった。


「く、ろ、六千!」「一万!」「い、一万千!」「一万五千!」「……」


───では、キソムギは一万五千で、そちらの淑女に!───


「「「おお……」」」


「やりましたわ!」


 みるくが最初の金山羊に一万五千という値を付けたことで、『競り』に参加しようという人たちの目付きが変わった。

 つまり、最低でも一万越えになったのだ。


「ちょっと装備売って来る……」「俺も、換金アイテム整理してこよ……」「堕天使様のお使いがこの手に……」「ある意味、持ってたら自慢できるよな?」「食っても復活するなら、天然食材として、相当じゃね?」


 『競り』は激化した。


「五万!」「六万!」「六万五千!」「十万!」「十二万!」


 おい、マジか……。


 最初に一気に突っ張ったみるくが正解で、すぐに金山羊は十万代になった。

 食っても数日後に復活する以上、幾らになっても安いもんだと誰かが言った。

 いや、一頭の金山羊からどれだけ可食部分が取れるか知らないが十キロ、二十キロはあるだろ。一回に何キロ食うつもりだよ。あと、毎食山羊とか、どれだけ美味くても飽きるだろうに……。

 そうは思うが、プレミアだなんだと値段が上がっていく。


 段々と意地になってるやつもいる。


「ねえ、ねえ、次の子は?」


「ゐーんぐ?〈いや、もう買ったやつが名前つければ良くないか?〉」


「ン゛メ゛ェェェ……」


───えーと、次の子は命名権付きの金山羊です!───


 ホワマーナがそう言うと、あからさまに観客のテンションが下がった。


「名前付きのは?」「何卒、堕天使様から名前を賜りたく……」「そうだよ、盛り上がらねえだろ!」「楽しみを奪うな!」「お前、この子だけ名前なしとか可哀想だろ!」「親としての責任を持て!」


 ええっ!?

 名前付きの方が良いのかよ?

 あと、俺は親ではない。


 だが、名前を付けろと言うなら、致し方ない。

 俺は目を閉じて、瞑想状態に入る。

 無駄に手を合わせて、祈る。

 降りて来い、降りて来い……ネーミングセンスの神々よ……。

 俺は瞬間、カッと目を見開いた。


「ゐーんぐ!〈ジキルで!〉」


「「「おお!」」」


「ゐーんぐ!〈次はシュラ!〉」


「「「おお!」」」


「ゐーんぐ〈お前はバフォメットだ!〉」


「「「おお?」」」


「ゐーんぐ!〈ジン! ちょっと腹が減ってきたから、ジンギスカン食いたい!〉」


「「「お、おお……」」」


「ゐーんぐ!〈ニコイチ! お父さんとお母さんがどっちだが分からないが、ふたりから産まれたんだぞ!〉」


「確かに、分からないですね……」


 レオナが苦笑いする。

 いや、俺としてはいい名前だと思うんだがな。ニコイチな親から産まれたニコイチって。

 ん? ちょっと俺も混乱してきた。


───では、ジキルから再開しましょう!───


「ゐーんぐ!〈毛ヅヤがいいから、ゴルド!〉」


 今、来てる! 来てるぞー!

 名前がばんばん降りて来てる。


「ゐーんぐ〈シュラ!〉」


「それ、さっき言った」


 じぇと子に睨まれた。


「ゐーんぐ……〈お、おう……じゃあ、エクス!〉」


「ゐーんぐ!〈ドムジ!〉」


 すでに金額は一頭三十万を突破した。


「ゐーんぐ!〈タマタ!〉」


「タマタマー!」


 号泣玉葱、お前を呼んだ訳じゃない。


「ゐーんぐ!〈なんかお前、凶悪な面構えだな……よし、ダビー!〉」


「五十万!」


「つ、ついに安いプライベートルームが買えるとこまで来たか……」「俺、テイム持ちだから」「くそぅ! 羨ましい!」


「ゐーんぐ!〈シェラ……エルシド!〉」


「ちょいちょい同じの挟んで来るのなーに?」


「ゐーんぐ……〈イ、イメージがこう……な……分かれよ……〉」


「わかんないなー」


 じぇと子には分からないらしい。


「ゐーんぐ!〈ゴード!〉」


 あれ、さっき使ったのは……ゴルドか。

 大丈夫、問題ない。毛ヅヤが良いとゴールドに引っ張られる感じがするな。


「ゐーんぐ……〈メェメェ……なんかちっちゃい……〉」


「急に可愛い名前になったな」「なんかちっちゃいし……」「八十万! あの子は私が育てる!」


 最高値更新。というか、いつの間にそんな値段に……。


「ゐーんぐ……〈きんじぃ……〉」


 子山羊だが髭が立派すぎ。


「じいじ、あの子欲しい!」「孫、今の値段の上がり具合考えろ!」「だって、お髭がじいじみたい」「いや、じじいとは顔が……ちょっと似てるか?」「大丈夫だ。ちょいちょーいと課金アイテムを売っぱらえば……」「じじい、やめろ! 生々しいだろ!」「百万で買う! 今、金を作って来るからな」


───百万。それ以上はありますか?

 ないですね───


 あのじじい、無茶しやがる……。

 ラグナロクイベントで俺と息子さんを重ねて勇気を出してくれたエンジョイ勢だよな。

 微妙に知り合いに雰囲気が似てるが、誰だったか?

 まあ、リアルを詮索するのはナンセンスだな。


「これで最後だよ」


「ゐーんぐ!〈おう、ん〜、や、ヤ、ヤギ山さん!〉」


 貫禄がある。産まれた瞬間から口を、もっちゃもっちゃしているからだろうか。


───もう一匹、産まれましたよ───


「ンメ゛ッ」


 空色のスカマーナが新しい金山羊をタオルで丁寧に拭き取って、連れてくる。


「ゐーんぐ……〈顔だけ白い金山羊……なんでずっと喋ってるみたいに口パクして……キンヤ……うん、キンヤで……〉」


「はい、終わり。はあ〜久しぶりにいっぱい喋ったら、喉乾いちゃった」


 じぇと子のおねだり目が俺を見つめる。


「ゐーんぐ〈はいはい。ありがとうな。アイベリックス・メル吉もご苦労さま〉」


 俺はインベントリから精霊樹の実を出して、じぇと子とテイムモンスターたちに渡していく。

 NPCドールたちも頑張ってくれたからな。

 皆にも精霊樹の実を渡していく。


───いや、俺らはなんにもしてないですから……───


「ゐーんぐ!〈まあ、今日は尋常じゃないくらい儲かったからな。お裾分けだ〉」


 遠慮する農夫NPCドールたちにも渡す。

 メイドも料理人も牧夫も狩人も全員だ。


 俺は精霊樹の実を掲げて言う。


「ゐーんぐ!〈ネーミングセンスを授けてくれた神々よ、感謝と共にこれを捧ぐ!〉」


 ふっ、と精霊樹の実が消えたが、俺はそれが何も不思議なことだと思わなかった。


 かなりいい時間になってしまった。

 俺はログアウトすることにした。



とりあえず、名付け親募集はここまでとさせていただきます。

作者、余りの反響の多さに、思わず「ぬおっ……」って声が出ました。ありがとうございます。

凄く嬉しかったです!

最初、「頼む……せめて二人、二人くらい反応してくれっ!」と恐る恐るで募集してみました。寝る前はカイジがラストチャンスを願うような、ザワザワが溢れておりましたw

蓋を開けてみたら、まさかのいっぱいの名付け親たち。

残念ながら、双頭の金山羊に使えるのはふたつのみなので、このような形で使わせていただくこととなりました。

思ってたんと違う……ってなっちゃってたらごめんなさい。

どの名前も自分にない感覚で面白かったです。

元ネタの名前はアウトとさせていただきました。すいません。

「勘が良過ぎるヤツはアウトだよ!」


最悪、誰も名付け親にならなかった場合はハイディとクラーラになる予定でした。

なんだっけ? ほら、あの白ヤギが出るアニメ……そう、立った、立った!って喜ぶやつ……あれの白ヤギの名前がハイ……ハイディ……ハイジ……なんかそんな感じだったはず。

え、ふたつ必要? じゃあ、クラーラで。


ただ、個人的にはコレジャナイ感が凄くて、でも他に思いつかなかったんです。

名前募集して良かった。どの名前もお気に入りです。

お名前は先着順で使わせていただきました。その結果がこういうお話になりました。

改めまして、ありがとうございますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様です。アイベリックスを使っていただいて、感激です。これからも応援しております。
[一言] 仔山羊だったらアルゲディでも良かったか この展開は予想してなかったわ とっとと買い抜けたみるくの先見の明が光る会場だったな
[良い点] まさかの子沢山www これはコレで面白いので良かったですw
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