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翌、水曜日。
少し二日酔い気味の朝は、季節外れの雹が降っているという配信ニュースから始まった。
マジで降るのか。
部長が珍しいことするから……。
───今回の異常気象は数ヶ月前、北極に落ちたと見られる隕石a-32690の影響が強いものとみられ……───
ああ、落ちたとか言っていたな。そういえば。
一瞬、地球が終わるとかなんとか騒がれたが、落ちてみたら平気だったという終わり方をしていたはずだ。調査船が向かったはずだが、あれはどうなったのか続報がないな。
昨日、部長が言っていた通り、オカルト系ニュースが消えている。
しかも、アーカイブも残っていない。
こうなると逆に気になって、オカルト板なんかの情報を探してみたくなる。
だが、出てくるのは政府の陰謀説が一般的で、それ以外に見るべきものはない。
雪だろうが、雹だろうが、会社は休みになったりしないので、遅刻しない内に会社に行った。
今日も内勤だ。
さすがに今日は部長に誘われたりしなかったので、つつがなく仕事を終わらせて帰る。
二日間、『リアじゅー』なしで過ごしてしまった。
少し久しぶりな気分でログインする。
いつもの『大部屋』。
メッセージが溜まっていたので、まずは確認していく。
フレンドからフィールドへのお誘いが来ていたが、昨日の話だ。
昨日はログインできなかった旨を返信して謝っておく。
青海こと『マギサファイア』からも来ている。
───金曜、夜、第四フィールド、第二層闘技場にて、遺恨に決着をつけたい。
よければ返信をお願いします───
不躾なのか、丁寧なのか、判断に迷うが、了解した旨、返信しておく。
レオナからもメッセージが来ている。
他レギオン幹部と会議予定で、『シティエリア』の俺の畑でまた『バーベキュー』をやらせて欲しいという話だった。
『りばりば』がホストレギオンとして会を取り纏めるらしい。
もちろん、OKと返信しておく。
すると、すぐに返信が来た。
今、少し話したいとのことだったので、レオナの『プライベートルーム』へと向かう。
『プライベートルーム』のラグナロクイベントでの被害は相当なものだったはずだが、まだ一部で修理待ちをしているものの、大分、元の姿を取り戻しつつある。
レオナの部屋のチャイムを鳴らせば、すぐにレオナが出て来た。
「どうぞ! もうみんな集まってますので……」
言われて中に入ると、糸、サクヤ、煮込み、ムサシ、名古屋と五人がいる。
レオナの部屋はすっかり元通りになっているようだ。
「手持ちの素材があったので、なんとか早めに復元できました」
なるほど、装備部でもあり、幹部でもあるレオナとしては、放置しておけないだろうからな。
今日のように会議に使ったりもするようだし。
「ゐーんぐ?〈それで、他レギオンとの会議ってのは?〉」
「ガイア帝国、マンジクロイツェル、シメシメ団、世界征服委員会とウチ、大手レギオン五つと中規模レギオン代表ルート666、小規模レギオン代表邪龍族と計七レギオンで話し合う、対グレイキャンパスの対策会議ですね。
おそらく、全レギオンが噛み合うことはないでしょうから、お互いのレギオンの立ち位置を明確にするだけのものになりそうですが、立ち位置が分かっていれば、手を結ぶか、敵対するかハッキリしますから。
まあ、グレイキャンパスに対してのものなので、他の部分で結べるようなら、緩く連帯感を養っておこうという目的もあります」
政治だな、これは。
「ウチはホストレギオンなので、各代表へのおもてなしも必要ということですね。
現状だと、ウチとシメシメ団は中立、ガイアとマンジは敵対のイメージで、世界征服委員会はおそらく宥和派、中小レギオンは宥和寄りの中立だと予想はしていますが、敵対がどこまでの敵対を指すのか、宥和がどこまでの宥和を指すのかはハッキリさせておきたいですね」
「ゐーんぐ……〈つまり、戦争イベントまで発展させる気があるかどうかって辺りか?〉」
「まあ、そうなります。ただ、野良フィールドに拠点があるのは分かっているので、いきなりラグナロクイベント突入の可能性もあります。
おそらく本部基地は隠されていますが、見つけることも不可能ではないと思いますので」
ふむ……静乃も何度か潰される前提とか言っていたしな。
「正直、SIZUさんのスキルを見た後だと、下手に敵対してもいいことなさそうですけどねー」
サクヤは【死を視る者】を危険視しているようだ。
「そのスキル情報は出しますか?」
糸がレオナにお窺いを立てる。
「状況によって、ですね。
りばりばとしては、宥和的中立を謳いたいところですが、それは今のグレイキャンパスが中規模だからです。
大規模になってしまえば外交的操作が効かなくなる可能性が高いですし、下手にガイアやマンジなどの大規模レギオンが潰されたりすると、魔法文明世界のパワーバランスが崩される可能性もあります。
瞬間的な脅威度で言えば、SIZUさんはシシャモくんに匹敵する程度の力がありそうだと参謀部は計算しています」
それはシシャモの暴走のことを差しているだろうというのは、聞かなくても分かる。
まあ、SIZUは死者さえ貯めておけば、一度きりとは言え第七フィールドのフィールドボスを単独でギリギリまで追い詰める程だ。
シシャモの、基地内の『街』を全壊寸前まで持っていく暴走に匹敵すると言われれば納得ではある。
「ゐーんぐ?〈それで、その会議はいつなんだ?〉」
「明日、夜を予定しています」
まあ、早めに決めておくべきか。
了解して、俺はレオナの部屋を出るのだった。
さて、このあとはどうするか?
とりあえず自分の農園に向かう。
NPCドールに問題が無いか確かめよう。
「ゐーんぐ?〈どうだ、問題は出てないか?〉」
メイドのホワマーナに確かめる。
───グレン様、狩人のチャマーナとミドマーナが大殊勲ですよ!───
なんだろうと行ってみると特大の檻が置いてあり、布がかけられている。
檻は大型トラック四つ分くらいある。
「ゐーんぐっ!〈でけえっ!〉」
───ご主人様、森の主を捕まえました!───
───三日三晩、落とし穴を掘り続けて、三日三晩、弱らせてようやく捕れましたよ!───
なんだろう? マンモスとか? いるか分からんが。
二人が布を外す。
そこには巨大な金の双頭の山羊がいた。
「ン゛メ゛ェェェエエエ!」
───双頭の金山羊〈老いぼれ〉があなたの群れに入りたそうにしている───
おっと、テイム案件だ。
───コイツは食いでがありそうだ。ただ、大分年老いてるな……身はボソボソかもしれん……───
いつの間にか俺の横に立ったジビエ料理人、イタマーナが双頭の金山羊を見上げて言った。
「ゐーんぐ……〈いや、テイムしようかと思う……〉」
───食わねえのか!?───
「ゐーんぐ……〈身がボソボソって言ったのはお前だろ……〉」
───まあ、そうだけどよ……───
双頭の金山羊は、俺とイタマーナの話を聞いていたのか、ゆっくりと腹を見せて横になり、両方の頭が目を瞑った。
食われる気か? 潔すぎじゃないか?
さすがに寝覚めが悪そうなので、問答無用とばかりに俺はテイムした。
───双頭の金山羊〈老いぼれ〉のテイムに成功しました───
───名前︰■■■───
山羊……山羊か……。
どうするかな……。
パッと思いつかないぞ。
保留だ。保留。
俺は名前を保留することにした。
でも、名前をつけられるやつとつけられないやつ、何か違いがあるんだろうか?
だーれかー!
この金山羊の名前募集中です。
名付け親にならんかね?w




