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 会社に腫れた顔で出社したら、部長にデスクワークを命じられた。

 今日は火曜日。

 昨日はさすがにゲームをする気になれず、腫れた顔を冷やしながら、うんうん唸って寝た。

 静乃から連絡が来ていたが、さすがにそれどころじゃなくて、無視していた。


 顔の腫れは酔って転んで、階段とダンスしました、踊り場まで……と説明したら、お前は今後、二度と階段とダンス禁止だ! と怒られた。

 酔った上でのケンカだと思ってくれたらしい。

 さすがに真実は話せない。


 帰れと言われない辺りが、ウチの会社のブラックな風を感じる。


「神馬くん、この前は悪かったね……ええっ、その顔どうしたの?」


 と、ジムニーこと事務方の戸波さん。


「ああ、戸波さん。いえ、この前は気に入らないとかじゃなくて、純粋に急用があったので……。

 それと、コレはそれとは別で酔って転んで、階段とダンスしたんです。踊り場まで……」


「階段と……情熱的なダンスだね……」


「ええ、顔面から行きました!」


 殊更に明るく答えておく。


「は、はは……そうか。

 まあ、でも、怒って帰ってしまったかと心配していたから良かったよ。

 ああいう雰囲気が苦手って人もいるしさ」


「いえ、まあ、オフ会は得意じゃないですけど、顔を隠してってのはいいですね。

 緊張しないで済みますから」


「そう言って貰えると嬉しいよ」


「ジムニーの知られざる一面も見られましたし」


「はは、それを言ってくれるなよ、エギヨウ……」


 俺たちは笑い合う。

 また、やる時は声を掛けるよ、と戸波さんは去っていった。


 静乃以外の情報源があるというのも良いような気がする。


 アイツは従妹で俺の相談役だが、同時に秘密主義で敵対する場合もあるんだ。

 今さら手の内を隠したところで話している内にバレるような気もするし、バレているならバレている前提で動けば、済む話だ。


 おそらく、静乃は聞けばスキル構成程度、全部教えてくれるだろう。戦っていればその内明らかになる程度の情報だ。

 だが、聞いてしまったらつまらないという気もする。

 聞いてしまえば、静乃は俺がそれを知っている前提で動くだろうから、スキルの読み合いになって、動けなくなる可能性が高い。


 スキルの読み合いで戦うのは『マギサファイア』だけで充分だ。


 それなら、めちゃくちゃでも動いて、勝ちを掴み取る方が、静乃との対戦は面白くなるだろう。

 俺的、静乃攻略法だな。

 決して読み合いに勝つ自信がないからでは、ない。

 そう、自分に言い聞かせておく。


 お互いに痛みを伴うのは、ちと辛いが、静乃と戦うのは面白い気がする。

 しばらくは負けが続くかもしれないが、静乃に勝てたら、それは気持ち良いだろう。


 まあ、静乃の前で死ぬのは思うところがないわけではないが……。


「おい、神馬、休みじゃないぞ。内勤だ。営業の電話なり、溜まった書類を片付けるなり、やることはあるだろう」


 部長に言われてしまったので、大人しく仕事をする。

 仕事終わり。


 昨日は休んでしまったが、今日は『リアじゅー』で頑張るか。

 顔は触れると痛いが、普通にしている分には平気な程度になってきている。


「おい、神馬。呑みに行くぞ」


 部長だ。


「あ、ええと……」


「奢ってやる……」


「あ、はい……」


 部長が奢ってくれるなんて、明日は雪かな。

 さすがにここまで言われたら断れない。

 部長に連れて行かれたのは、天然の魚が食える居酒屋だ。


 酒は合成だが、まあ文句はない。


「天然刺身、天然焼きほっけ、天然スルメイカも貰おうか……」


 ほほう……豪勢だ。

 刺身に醤油とわさび、左手には日本酒を持って、追いかける準備は万端だ。

 マグロの赤に醤油をつけて、照り照りとした身を口から迎えに行く。


 マグロの旨味を醤油が引き締め、わさびがピリリとアクセントをつける。

 口の中に拡がる旨味を舌全部で受け止める。

 わさびの辛味が鼻に来る寸前に、日本酒を煽り、酒の甘味とわさびの辛味を一緒に味わう。

 鼻から抜ける日本酒の香り、喉の奥に落ちていくマグロの旨味。

 くっ……たまらん……さすが天然物だ。


「美味そうに食うな……」


「美味いっす」


 部長も刺身に手を出す。


「それで、どうなんだ?

 また、アイツらなのか?」


 部長とは長い付き合いだ。俺と壬生狼会の繋がりも知っている。

 四、五年前にもアイツらが来て、俺が関係を断とうとしている時に色々と他の社員を驚かせたりしていたからな。


「……ええ、まあ。でも、今度こそ関係は断ちました。もう来ないはずなので……」


「そうか。お前はウチの大事な戦力だからな。

 問題があるなら早めに相談して欲しかったが、まあ、解決したならいい……うん。美味いな」


 ははは……部長に心配してもらえるとは、明日は雹に格上げだ。


 とにかく、部長としては俺が問題を抱えているんじゃないかと心配してくれていたらしい。

 それから、肴に舌鼓を打ちながら、ぽつりぽつりと話す。


「最近、俺の息子の素行がやけに良くなった気がしててな。

 この前、息子と歩いている時に、横断歩道が赤だから渡るなと注意されたよ。

 どうもな、こういう仕事をしていると、気が急いてしまって、車がいないなら渡ってもいいじゃないかと思うんだが、息子が頑として譲らないんだ。

 誰かが見ていたらどうするんだってな。

 子供が見ていて真似するようになったら、親父は責任とれるのかって怒られてな。

 子供ってのは勝手に育つもんなんだな……」


「はあ……」


 ダメだ。部長が深酒モードに入りつつある。


「最近は世の中がおかしいと思わんか?」


「え? ええ、まあ……」


「オカルト野郎どもがニュース配信で芸を披露したかと思えば、遺伝子操作された子供がそろそろお披露目ですなどと嬉しそうに語るキャスターがいる。

 まあ、オカルト野郎どもはすぐ消えたから、それはいい。番組では追跡調査を、なんて言っていたが、しれっとなかったことになっているのも慣れた。

 だがな、遺伝子操作は、アレはダメだ!

 犬やら猫やらの遺伝子を組み替えて、人間を作るなんてのは、頭がおかしいと思わんか?

 イルカの脳をA.I.に組み込んだロボットなら、人間のパートナーになれる?

 変だろ? いつから世の中はこんなねじ曲がった?

 意味が分からん。このままじゃ、A.I.の反乱やら、種族間戦争が起こる未来が来るぞ。

 俺が見ていた未来はどこにいっちまったんだ?」


「うんうん。分かります。分かります。

 あ、たこわさ頼んでいいですかね?」


「ああ、頼め。これからの未来を作るのはお前だ。お前が好きなものを頼め!」


 部長はべろべろなので、適当に相槌を打ちつつ、天然の魚介を堪能する。


 あ、海老の天ぷらか。それならビールでキュッと流すのはアリかもな。


「すいませーん。エビ天とビール」




 部長をどうにかロボットタクシーに乗せる。

 ふう……部長はストレスが溜まっていたようだ。

 未来。未来ね。

 変化が起きればそれなりに順応できてしまうのが人間の強みだ。


 『リアじゅー』的に言うと、魔法文明が当たり前に通用する『シティエリア』ができあがれば、次はヒーローたちが怪人として世界を脅かすようになるのだろう。

 そういう意味では、野良レギオンで新しい文明を創ると宣った白せんべいは、確かに面白い試みなのかもしれない。

 たぶん、魔法と科学、ふたつの文明の調和を取ったカタチの文明になるだろう。

 共存共栄。ゲームが成り立たなくなりそうだが、そうなったらバージョンアップして新しい目標とか出そうだな。

 まあ、今は科学文明が強すぎて、どうにもならないけれど、そんなバージョンアップ後の世界でも遊んでみたいかも、なんて、ぼんやりと考えながら家に帰った。



こっちの世界で言うデザイナーズチャイルドは進化した人間を目指したのではなく、人間の奴隷として家畜の用途を拡げようという取組だったりします。

お手、お座り、バイトしてきて、みたいな通称ワードックとか、手先が器用な猿が工場で働くゴブリンなどが計画されています。


これがさらに発展していくと……なんで共通のガチャ魂が多いのかの答えになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ああ、頼め。これからの未来を作るのはお前だ。お前が好きなものを頼め!」 口からポロっと出た言葉でしょうが核心突いてますねwwwww >共通のガチャ魂 う~ん、ヒーロー側の共通ガチャ魂の…
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