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四話目なの。


 俺たちは復旧した電車に乗って『郊外』エリアへと向かっていた。


 電車の中の話題は、やはり先程の『シメシメ団』対『ムーンチャイルド』のレイド戦だ。

 ムックが気になったのは『作戦行動』を行った場所のことだったようだ。


「シメシメ団の作戦行動は場所が悪かったかもね。完全に地の利はムーンチャイルド側にあったし、そもそも平日昼間の『経済区』なら複数のレギオンがパトロールを出しているのは、自明の理というやつだよね」


「そうですね。これが『住宅街』ならもう少し時間が稼げたと思いますし、あそこまで極端な地の利をムーンチャイルドに与えることもなかったと思います」


「イーッ? 〈なんで時間が稼げるんだ? 〉」


 レオナは幹部だからだろうか。

 まあ、このゲームに長く関わっているというのもあるのだろう。

 ゲーム内の様々なことに精通しているイメージがある。


「色々と理由は挙げられますが、一番はヒーローレギオンのパトロールが小・中・高の『学校』『幼稚園』『児童公園』『病院』『市役所』などを中心に回るため、『駅』は手薄になりやすいということでしょうか。

 逆に『経済区』はエリア自体が重点警戒されていますからパトロールはどこでも出没すると思った方がいいと思いますよ」


 つまり、『住宅街』はポイント警戒、『経済区』は全体警戒されている差という訳か。

 これは状況によっても変わるようで、昼間は『経済区』、夜間は『住宅街』が全体警戒されやすいなどあるようだ。


「イーッ? 〈そういえば、ホワイトセレネーが戦闘後に赤字がとか言っていたが、あれはどういう意味なんだ? 〉」


「ああ、それはヒーロー側の勝利条件シザ! 」


「イーッ? 〈勝利条件? 〉」


「我々が『感情エネルギー』を集めるのと同じように、ヒーローレギオンは『ゴールド』を集めてるシザ! 」


「ヒーロー側の拠点は宇宙にあると言われています。

 彼らの『遺跡発掘調査』は月や火星らしいのですが、そのワールドを拡げるのに必要になるのがゴールドなのです。

 シティエリアではヒーローレギオン直営店舗などがあって、フィギュアや映像、関連商品を売ってゴールドを稼ぐんですよ。

 なので、イメージダウンは稼ぐゴールドに影響するということで、『レイド戦』後のシティエリアの修復はヒーローレギオンの負担となるのです。

 今回のムーンチャイルドはある程度の修復費は諦めて、圧倒的に勝つというイメージを取ったようですね」


 ちなみにヒーローレギオン直営店舗では今回のレイド戦の様子も映像化されるだろうという話だった。

 ただし、それは『ムーンチャイルド』に非常に都合のいい映像となる。

 それはヒーローレギオンも撮影しているが、運営からも動画が送られてくるらしい。

 それらを編集するのはヒーローレギオンなので、彼らの都合のいい映像が出来上がるということだった。


「イーッ…… 〈『作戦行動』も状況や時節をしっかり考える必要があるってことか…… 〉」


「ええ、そのために『参謀部』というのもあるんですよ」


 ふむ、そんな部所もあるのか。


「まあ、個人の持ち込み作戦を提案するのは自由シザ! そのあたりも『りばりば』は結構緩くやってるのが良いところシザ! 」


 煮込みが親指を立ててサムズアップ。

 なんのアピールだよ……とは思うが、ひとつ思い付いたことがあるので、こういうことはできるのか? と確認をとってみる。


 真っ先に食いついたのはムックだった。


「面白いと思いますよ! それができるなら新しい『作戦行動』の選択肢になります! 」


 ただ、レオナは難色を示す。


「確かに、今回の『ムーンチャイルド』のような損して得とれじゃないですけど、一定の効果はあると思います。

 でも、それに適したスキルと戦闘員をどう補うかですね…… 」


「リスクのある賭けシザ……でも、嫌いじゃないシザ…… 」


 煮込みは不敵に笑う。

 俺の提案を面白いと感じてはくれているようだ。


「でも、せっかくですから、帰ったら『参謀部』に提案してみましょうか」


 レオナはそう言って、締めくくった。

 まあ、単なる思い付きだから、ゲームを知っている人間からしたら、難しいということなのかもな。


 そうして、電車は『郊外』エリアの駅へと入るのだった。


 駅から出て、辺りの第一印象は、田舎だ……というものだった。


 田畑が並び、平屋建ての家屋がぽつぽつとある。

 現代ではほぼ見られなくなった景色だ。

 遠くには森と山、道は多少整備されているものの、自動運転車は走れないかもしれない。

 丸太が道の途中に立っている。

 電信柱というやつか。

 今では画像などでしか見られないような原風景が広がっていた。


「えーと……こっちですね…… 」


 レオナが不動産屋からもらった地図を頼りに歩く。


「『郊外』エリアなんて、イベントくらいでしか来ないから新鮮シザ…… 」


「へぇ……人はかなり少ないみたいだね……あと、なんだか変な匂いがするよ…… 」


 煮込みとムックが口々に感想を言う。

 確かに変な匂いがする。

 青臭い匂いと、土自体に匂いがあるのだろうか、異臭がしている。


「ここ、みたいですね…… 」


 レオナが地図を確認する。

 俺の脳内にポーンと電子音が鳴って、俺専用の画面がポップアップする。


「イーッ! 〈ああ、ここで間違いないみたいだな…… 〉」


 何となく、自分の畑を見ていると、どうすればいいのか分かる気がする。

 近くには木造の建物がある。あれが納屋か。

 だが、専用画面から一発で植え付けや収穫ができるようなので、とりあえずそれを使ってみる。

 個人インベントリにある薬草類を画面操作で植えていく。

 薬草〈HP〉は散々食べてしまったので、少な目。

 それ以外は結構あったんだが、さすがに五百個はない。

 全部植えても五区画、五十個に少し足りなかった。

 まあ、おいおい増やせればいいか。

 収穫は肥料を使うと明日にはできるらしい。

 画面から肥料を買って、撒くことも済ませてしまう。


 お、納屋からドローンが出てきた。

 なるほど、こんな感じで肥料を撒くのか。


 ひと通り操作を終えて、俺はみんなに礼を言う。


「収穫できたら『装備部』に持ち込んで貰えれば、ポーションにできますよ。手数料は発生しますけど」


 レオナが教えてくれる。


「【農民】スキル持ちは少ないから、試行錯誤しないといけないかもだけど、それも含めて楽しめるといいですね! 」


 ムックは楽しそうに笑った。


「今度、食べ物とか作って欲しいシザ! 天然ものの野菜とか、すごく興味があるシザ! 」


 まあ、そうだろう。現実で手に入れようと思ったら、高価だしな。

 俺は種が手に入ったらな、と応じておく。


 そうして、俺たちは『りばりば』秘密基地へと戻った。

 時間的に少し早かったが、今日のところは、と俺はログアウトするのだった。


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[一言] 天然野菜は希少な世界であったか
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