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今日もまた、ベリーホットなできたてホヤホヤですよ。
どうぞ!
俺は重大な情報を持ち帰ったのに、それを告げられないまま乱戦に巻き込まれる。
だが、【氷の女王】でやつらのポータル周りは寒冷地獄だ。
甲板上の『積雪』もシャレにならないだろう。
仲間の頑張りによって、敵の戦闘員が減ってきた。
そうなれば『サテュロスカスタネット』を援護する余裕が生まれる。
『キャプテンロングソード』は片腕になったことで、攻撃力を減じている。
「くそ、キャプテンを助けろ!」
海賊船から数人がロープ伝いに補充された。
見れば、【氷の女王】の効果時間が終わり、フィールドに『積雪』が残り、『寒冷麻痺』と『凍傷』ダメージが少しだけ入るようだ。
肝心の行動不能系が消えている。
このままだと、敵が復活してきてしまう可能性が高い。
もう一度、行く。
「グレンはあの船を落とそうとしてるてぶ?」
「攻撃を仕掛けているのは分かるピロ」
ムサシとムックは上空の状況が分からず、こんな会話を交わしていたらしい。
俺は海賊船と地上を何度も行き来する。
「イーヨシ!」「リズム取れ!」「はい、はい!」
今まで乱戦で全員が喋りまくったせいか、今回はほとんど戦闘員語を使うことなく、声掛けをしている。
喋ったやつから集中砲火みたいなことがなかったからな。
ある意味、やりやすい。
「ぐっ……ま、さ、か……なっ……」
哀れ『キャプテンロングソード』は仲間の援護をなくし、リズム打ちの餌食になって、動きを止める。
俺は空いた時間でMPポーションを被っては、上空の海賊船に氷雪を送り込む簡単な仕事に従事した。
「さあ、みんなー! 一気に殲滅するよー!」
「シロー!」「クロー!」
誰もが勝ちを確信した瞬間、ビームライフルの銃弾とフレイムボウから放たれた『炎上』付きボルトが俺たちを襲う。
「なっ!?」「どういうことカス?」「がひゅ……」
「ゐーんぐっ!?〈SIZU!?〉」
「グレイキャンパス参上! キャプテンロングソード、良かったわね! あなたのレギオンはあなたを見捨てなかったわよ!」
現れたのは野良レギオン『グレイキャンパス』のSIZU率いる混成野良軍団だ。
SIZUが復活石をばらまく。
「まさか、ポセイドンギャラクシーに加担するピロ!?」
「ありゃ、グレちゃんだ……。
全員、肩パッドは私がやる! みんなは他の戦闘員を落として!」
混成野良軍団は全員がバッドボーイズ系の服装をしている。
静乃もダボダボな服で頭にキャップを反対向きに被っている。
そんなSIZUは俺に向けてフレイムボウを放つ。
【サーベルバンパー】がへし折れる。
ほほう……本気らしい。
すぐに二発目の射線が【野生の勘】によって、見えるので【緊急回避】で避けると同時に【飛行】で接近する。
「ゐーんぐっ!〈知識で負けるにしても、こちとらお前が生まれる前からゲームしてんだ。
簡単にやられてやるつもりはない!〉」
やるからには全力だ。
『グレイキャンパス』は傭兵が生業だ。敵対するなら気持ち良く潰してやるのが礼儀だろう。
俺の【回し蹴り】をSIZUがフレイムボウを盾代わりに受け止める。
「ふふっ、まさかこんなに早くグレちゃんと対戦できるとは……本気だからね! 【弓槍術・三日月斬り】」
「ゐーんぐっ!〈ぐぺっ……〉」
───死亡───
一瞬の内に三連撃。弓槍なんて珍しいもの使いやがって……。
気付いたら死んでたとか、怖えよ。
痛みなく殺されたのは、器用が高いのか。
時間、ギリギリまで使って静乃の視線がこっちに来てない瞬間に復活する。
復活石の位置がバレるとリスキルされそうだ。
姿勢を低くして、仲間に紛れる。
残り魔石、四個。
SIZUは俺のリスキルを見逃すまいと動きを止めている。
仲間は『グレイキャンパス』の遠距離攻撃で、ぱたぱたと倒れていく。
『サテュロスカスタネット』は、片腕になったとはいえ意気を取り戻した『キャプテンロングソード』につきっきりでどうにか抑えているが、長くは保たなそうだ。
かなり厳しいな。
だが、遠距離なら遠距離なりの戦い方もある。
「ゐーんぐ!〈こいつでどうだ。【エレキトリック・ラビット】!〉」
俺の頭からうさ耳が生えて、帯電。
それを解き放つ。
空へと上がった電撃がSIZUを中心に辺りに弾ける。
「きゃっ! あうっ……」
SIZUを含め、三人ほど巻き込んだ。
「隙間ができたぞ!」「突撃! 突撃!」「ねじ込め、撹乱して乱戦に持ち込め!」
『りばりば』戦闘員たちが突っ込む。
俺はSIZUの動きが止まった瞬間、【飛行】した。牙、爪をセット。
さらに【雷瞬】で道を確保してから【熊突進】で突っ込む。
痛みなく殺す技術はないから、そこは許せ。
そう思っていると、SIZUが動いた。
『ショック状態』になっていないのに、戦場で動きを止めて誘った?
「引っかかった! 【弓槍術・三連星】」
弓槍での突きを三回、連続してくりだす技だ。
一撃目で牙が折れ、二撃、三撃と心臓、鳩尾に槍が突き込まれる。
だが【熊突進】は止まらない技だ。
SIZUを巻き込んで、口の端にお互い笑みを浮かべながら、同時に死んだ。
───死亡───
くそ、痛みより悔しさが濃い。
上手いこと騙された。
静乃は俺の戦い方を知り、俺は静乃の戦い方を知らない。
アドバンテージは向こうが上だ。
復活。同時に俺の膝に矢が突き立った。
なんだと!? 復活位置はバレてないはずなのに。
SIZUが自分の頭を指さしていた。
計算しましたとでも言いたいようだ。
なるほど、さっき見ていなかった方向に俺が復活すると、当たりをつけたのか。
しかも、復活石の移動を阻止するための膝狙い。
これでは、復活石を蹴り転がせない。
「「「うおおおおっ!」」」
海賊船からロープを伝って、戦闘員たちが降りて来る。
『グレイキャンパス』が来て、【氷の女王】が途切れたせいで、バッドボーイズが復活した。
これで勝敗は決してしまった。
俺はバッドボーイズの恨みの一撃で死に、次の復活で、リスキルされ、魔石が残り一個になった時点で復活を諦めた。
大画面では『サテュロスカスタネット』が「大首領様、バンザイカスー!」と叫んで爆散した。
悔しかった。『グレイキャンパス』が来なければ勝てていたレイド戦だ。
だが、今までだって、レイド戦中に不測の事態に陥ることは普通にあった。
なぜ、今回はそれがないと高を括ってしまったのか。
ラグナロクイベント明け、一発目の『作戦行動』で、油断していたのかもな。
反省はあるが、今までそういった部分は静乃がフォローしてくれていたのだと思い当たる。
まだまだこのゲームは奥が深い。
ただ、ハラハラドキドキは第三勢力の登場で高まった気がする。
静乃にチャットで、次は勝つ、と宣言して、ついでに今晩は予定があるので、レポートは送れない旨を説明した。
静乃からは「次も勝つ!」と返信が来た。
俺は早めにログアウトするのだった。




