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ビームカトラス対『ショックバトン』。
ちゃんと敵もレイド戦武器のようだ。
レイド戦武器は対ヒーロー・対怪人武器のため、高めの代価を払うことでダメージを飛躍的に伸ばしている。
戦闘員同士の戦闘だと、一撃か二撃掠ったら死ぬ。
まさか、敵の戦闘員が真っ向から切り結びに来るとは思っていなかったので、なかなかに厄介だ。
だが、俺たちにはラグナロクイベントでお互いにレイド戦武器を持った戦いを経験している。
あの時に感じた緊張感などは身体が覚えている。
さらに俺たちはこの場で復活石を用いて、復活できるという有利がある。
そもそも精神的に有利な状況なのだ。
ただ、気になるのは海賊船型超大型ドローンの存在だ。
一度に運べる人数で考えると百人くらいいてもおかしくない。
『ポセイドンギャラクシー』が接近戦を選んだことで、場は混戦になっていて、無差別範囲攻撃は難しい。
ならば、俺はあの船に【飛行】を使って向かうべきか。
襲いかかるバッドボーイの一人を躱して、翼を広げた。
「翼?」「あれは、まさか……」「肩パッド!」
バッドボーイズが俺を見て叫ぶ。
「様をつけろ貴様ら!」「ありがたや、ありがたや……」「我らが闇の堕天使様を殺させるなピロ!」「「「イーッ!」」」
味方側の一部が異様な盛り上がりを見せて、士気が高まった。
ムックはどう考えても、その状況を利用している。
数にして五、六人に過ぎないが、その五、六人が気勢を上げることで、全体に勢いがつく。
どうにも、俺は戸惑うばかりだが、こういう人たちは普段は特に関わって来たりはしないし、たまに遠くから拝んでいる姿を見掛けるくらいで、害はないので放置するしかないのが現状だったりする。
まあ、そういう人たちが見ているのは『グレン』ではなく『肩パッド』という象徴なので、割り切っておく。
それよりも、空だ。
俺は空に錨を下ろす海賊船へと向かう。
下は乱戦ではあるが、現状、有利に進んでいる。
百人規模の海賊船だが、戦闘要員は二十五人くらいで打ち止めか?
海賊船の上空に出て、甲板を見回すが、一人が俺の様子を確認しているくらいで他は誰もいない。
「ゐーんぐっ!〈遠距離武器なし、突撃だ!〉」
俺は牙やら爪を生やして、一気に急降下していく。
「おい、来たぞ!」
バッドボーイズ戦闘員が叫ぶ。
同時に甲板上に自動射撃タレットが幾つも出現する。
備えがあったか。
俺は射線から逃げるべく海賊船の下へ。
バッドボーイズたちが下に降りるために使うロープに捕まって難を逃れる。
小休止。
『翼』のウエイトタイム待ちだ。
ガチャ魂の『ミミック』を『氷の女王』に切り換える。
「くそ、どこ行きやがった!」
一人、残っていた戦闘員が俺を探している声が聞こえる。
下から反対側に回ったからな。ウエイトタイムくらいは稼げる。
「いたー!」
見つかった瞬間に【飛行】をして、上へ。
「ゐーんぐっ!〈【氷の女王】!〉」
海賊船の甲板上に『積雪』『吹雪』フィールドがあらわれる。
「くそっ、タレットが……ぐっ……」
戦闘員には『氷結』『寒冷麻痺』『凍傷』『氷化』が入って動きが止まる。
自動射撃タレットは雪に埋まって、動かなくなり、戦闘員は氷の彫像と化していく。
「ゐーんぐ!〈さらば!〉」
『凍傷』ダメージで弱りゆく戦闘員を『ショックバトン』で楽にしてやる。
寒っ!
慌てて空へと逃げ出す。ほぼ同時に、わらわらと七、八人のバッドボーイズ戦闘員が甲板に姿を現す。
「なんだこりゃ!?」「おい、状態異常が……」「ちょ……キャプテンに連絡を……」
分かったことがふたつ。
ひとつは、今の戦闘員が下で戦っていた戦闘員だということ。
もうひとつは、この海賊船。俺たちが『シティエリア』で使っている『りぞりぞツーリスト関連施設』みたいなもので、本部からのポータルが設置してある。
戦闘員が甲板に出てくる時、ポータルが見えた。
あれはポータルで間違いないはずだ。
つまり、あの海賊船をやつらは復活石の代わりにしようということらしい。
魔石いらずだが、諸刃の剣だな。
無茶苦茶だ。
【飛行】は十秒しか保たない。
俺は貴重な情報と引き換えに重力に引かれて落ちる。
加速、加速、加速……落下していくあまりの恐怖に、意識が飛んだ。
痛みは一瞬。
───死亡───
落ちる時に下を見てはいけない。
迫る地面、そのくせ痛みを想像する間はあってもどうにもならない状態は恐怖をも加速させる。
誰かを巻き込んだような気がする。
だとしたら、申し訳ない。
「うおお、キャプテーン!」
「くっ、狼狽えるな! 片腕を持っていかれたが、逆にダメージは少ない!」
『キャプテンロングソード』だったか、巻き込んだのは。なら、いいか。
復活を選択する。
「フォーリングエンジェルアタック……そう、今のが肩パッド様の新たなる力!
尊きその身を犠牲にする、ヒーロー殺しの新たなる必殺技!
フォーリングエンジェルアタックだ!」
「くそ、たかが戦闘員のくせに……」
「ふん、今ので片腕か……次は片腕で済むと思うか?」
「ゐーんぐっ!〈二度とやらねえよっ!〉」
何故か俺を崇めるやつらが、勝手に俺の新必殺技を名乗っていた。
なんだその自爆技。めちゃくちゃ怖いわ。
「大人気ピロ」
「ゐーんぐ……〈もう二度はできねえよ……〉」
戦闘は加熱していく。
信者って怖いわあ。
事故すらも新必殺技呼ばわり。こうしてグレンの伝説に新たな一ページが刻まれましたw




