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「おい、止まれ、怪しいパレードめ!」


 いかにもなヤン車バン〈ヤンキー仕様車のバン〉がパレードの前を塞ぐように止まる。

 ぞろぞろと五人ほどバッドボーイズが出てきた。


 くそ、多人数だとマジックショーができない。

 こういう時のために一人、説明役のニワトリさん着ぐるみの糸がいる。


「こけ、こけ……」


 糸が近づき、バンの裏手に回る。

 バンに隠れた糸がなるべく穏便にことを済ませようと立ち回る予定だ。


「すいません、すぐそこのパチンコ屋までなんで、なんとか続けさせてもらえませんか?」


 などと言っているはずだ。


「はあ、届け出してねえだろ!」「こういうのやるには届けが必要なんだよ!」「いいから、全員捕まえようぜ。こんだけ人数いれば多少はポイントになるだろ」


 パトロールポイントってやつか。

 最悪、こんな『住宅街』の道端で戦闘開始の可能性があるので、俺たちは息を呑む。


「そこをなんとかお願いしますよ。お客さん連れて行かないと、自分らも怒られちゃうんで……あ、こうしませんか?

 これでね、今度皆さんで打ちに来てくださいよ。

 なんなら、いい設定の台、教えますから。

 それで、今日のところは見逃してもらうってことで……」


「おいおい、五百ゴールド? しけてんな……」「換算したら五プラネだろ。ポイントの方が良くねえか?」「でも、設定教えてくれんだろ」


 やいのやいのと話し声が聞こえる。

 これで収まってくれれば、全員で逃げて、別のルートで同じことをやる予定だ。


「ゐーんぐ……〈時間が掛かりすぎだ。ついてきた人たちが飽きて散ってしまうぞ……〉」


「なんとか、引き止めてみるピロ。

 ムサシ、マジックショーの音楽出して欲しいピロ」


「わかったてぶ……」


 熊さんの音楽がマジックショー用に変わる。

 ウサギさん着ぐるみが、ぴょんぴょん跳ねて、後ろの聴衆へと向かう。

 身体能力を生かした、軽業で気を引こうということだろう。

 他の何人かの着ぐるみもバク転、前宙などで気を引く。


「おお、いいぞ!」「今度は何を見せてくれるんだ!」「おお、忍者みたいだな!」


 ついてきた人たちが沸く。


「うるせえっ!」「今、取り調べ中だ!」「騒ぐな!」


「まあ、まあ……それじゃあですね……」


 ニワトリさん着ぐるみが、なんとか話を続けようとする。


 ガラリと車のドアが開く。

 中から海賊帽に海賊コートを羽織った男が出てくる。


「おい、お前、歩き方おかしくないか?

 それ取ってみろ!」


 指さされたのは『サテュロスカスタネット』。

 サテュロスというのは半神半獣で語られる幻想生物だ。

 足が山羊で、頭に山羊角がある。

 変身後の方がMPが増える関係上、着ぐるみの中で『サテュロスカスタネット』は変身している。


「俺カス……?」


「おう、舐めた口叩くな……ますます怪しいぞ……」


 山羊さん着ぐるみが後ろ手に合図を出す。

 その合図の意味するところとは……。


「やっちまうカス!」「うおおっ!」「行くぞー!」


 俺たちは一斉に着ぐるみをアバターから外して、戦闘員姿になった。


「ええっ、ちょっと!」


 ニワトリさん着ぐるみの糸が慌てて逃げて来る。


 『サテュロスカスタネット』は復活石をばらまいた。


「う、うわあ!」「ひぃ、怪人レギオンだ!」「た、た、助けてー!」


 NPCたちが慌てて逃げ出す。


「はっはぁーっ! やっぱり怪人か! 船を呼べ!

 それ以外は、突撃だぁ!」


 海賊コートが手をを振り上げる。


「イエェー!」「やるぜ!」「ビームカトラス、オン!」


 バッドボーイズたちがそれぞれに近接武器を取り出す。

 カトラスと呼ばれる幅広の湾曲した薄刃剣のビーム兵器のようだ。

 というか、ヒーロー戦闘員が自分たちから接近戦を挑むなんてはじめてじゃないか?


「ほぃやあーカス! 私はサテュロスカスタネット、カス! 覚悟するカス!」


「俺の名は知っているな!」


 海賊コートが指を一本、天に掲げる。


「知らんてぶ」


 わざわざ答えてやる辺りにムサシの人の良さが出ている。


「ならば、その身に刻んでやろう……変身!」


 海賊コートは懐から剣の柄部分だけを取り出し、そこから白いエネルギー波を天に向けて放つ。

 天に吸い込まれるようにエネルギーが消えたかと思うと、天から赤いエネルギー波が返ってくる。

 光に包まれ、海賊コートは中身が変わる。

 メタルレッドの輝きを放つパワードスーツの戦士だ。

 剣の柄から赤いエネルギーは溢れて、ロングソードを形作る。


「俺はキャプテン! キャプテンロングソードだ!」


「ゐーんぐ!〈キャプテントライデントじゃないのかよ!〉」


「つまり、人気がない方ピロ?」


「来い! 我がレッドデッド号の野郎ども!」


 上空に影が差す。

 赤い空飛ぶ海賊船だ。

 海賊船からロープが垂らされ、滑車のようなものを手に、バッドボーイズが降りてくる。

 全員が赤いバンダナを巻いている。


───これより、レイド戦に移行します───


───レイド戦ルールにより、NPCは隔離されます───


 『りばりば』対『ポセイドンギャラクシー』のレイド戦が始まるのだった。


 まさかの接近戦か。

 まあ、敵戦闘員を探して潰しに行く手間が省けたなら、望むところだ。


 俺たちは雄叫びを上げて、突撃を敢行するのだった。



クリスマスイブですね。

なので、カラーは赤にしてみました。

『ポセイドンギャラクシー』はちょっと特殊なレギオンです。

 ヒーローがキャプテンとして超大型ドローン海賊船の指揮を取り、乗組員は基本的に近接型戦闘員として戦います。

 彼らの拠点は軌道エレベーターの中間ドックにあり、ちょっと特殊なことをやっています。

 まあ、空こそ飛びませんが『りばりば』もやっているので、そこまで特殊でもないですかね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 空の海賊船からレーザーキャノンとか撃てたら強そう! ただ、NPCと街も巻き込みそうで、できてもやらないか… あくまでロマン!!
[一言] キャプテンロングソード…海賊でそれは微妙枠 多分「曲刀・斧・槍」がエリート枠だろう(斧は船乗りの必需品)
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