213〈おそうじマジック、逆回転大作戦!〉
日曜日。
寝酒が効いたのか、俺は昼過ぎまで、がっつりと寝た。
なんとなく寝起きでシャワーを浴びる。
普通だ。
朝昼兼用のブランチを用意して、最近、気になっているニュースに目を通す。
昨日の暴行犯はまだ捕まっていないらしい。
それどころか、朝になってもう二件、暴行犯が事件を起こしていることが分かった。
いずれも被害者は犯罪者で、手配中の詐欺師と違法車両所持者、いわゆる暴走族の一人らしい。
連絡が来ていた。
───壬生狼会OB・OGの皆様へ。
昨晩、現局長の駒場亮二〈二十歳〉氏が違法車両保持と窃盗の疑いで逮捕されました。
現在、OB会では氏の保釈金立替えのためにカンパをお願い致しております。
仲間のために、何卒宜しくお願い致します。
つきましては……───
おおう……過去が……過去が追いかけて来やがった……。
壬生狼会は初代局長、金堂勇真と俺たちで立ち上げた暴走族だ。
昔の黒歴史。
もう二十年以上前のことで、俺は立ち上げに関わったが、すぐに辞めてしまった。
そのすぐに辞めてしまったのが元で、伝説の壬生狼などと祭り上げられ、未だに過去が追いかけて来る。
マジで勘弁して欲しい。
車両を弄り回したり、ツーリングをして満足していた頃は楽しかったが、群れると馬鹿はイキがってしまうもので、すぐに他の暴走族と喧嘩に明け暮れるようになってしまった。
何度かは参加したが、目的がツーリングから喧嘩にすり変わってしまった時点で俺は辞めた。
ふぅ……と息を吐く。
返信しないとしつこいんだよな。
───俺は壬生狼会とは関係ない。勇真くんに前にも言った。連絡しないでくれ───
───初代からどうしてもとのお達しです。
カンパ等は結構ですので、決起集会の参加だけはお願いします───
野郎……俺のことを伝説に仕立て上げたことで、壬生狼会の結束を固めた過去があるからと、とことん利用する気なのが見え見えだ。
数年に一度はこれをやられる。
その度にこれで最後だと言っているのに、まだ呼ぶか……。
もう大人になった身としては、ぶん殴って分からせる訳にもいかず。
かと言って、放置すれば特攻服を着たやつらが俺のご機嫌窺いに来て迷惑だ。
勇真くんはこれを俺が嫌がると知っていてやってくる。
特攻服を着たやつらは、そんなこととは知らずに、純粋に伝説のOBの接待のつもりで来るから、本当に困る。
───決起集会は初代も来るのか?───
───はい、もちろんです───
───分かった。参加すると伝えろ───
いい加減、しっかり言っておかないと、本気で迷惑だからな。
時間は夜十一時、郊外のほぼ使われていないパーキングエリアだ。
衆目のある中で本気の口喧嘩でもしれやれば、いい加減分かるはずだ。
むしゃくしゃする気分を晴らすべく、俺は『リアじゅー』へとログインするのだった。
今日は『作戦行動』がある。
昨日、予約したからちゃんと参加できる。
今回は魔石を六個用意したが、五個しか使えない。
核︰翼を持っていくからな。
魔石が一個残っている状態ならアイテムドロップを免れる。
ちなみに、変身した段階で魔石の設定が外れるので、変身したら勝たない限り核は落とすと思った方がいい。
今日の作戦は、と大画面へと視線を移す。
・作戦行動概要
・作戦名『おそうじマジック、逆回転大作戦!』
怪人『サテュロスカスタネット』のスキル【悪意的悪戯】は様々な物を逆回転させることができます。
これによって『シティエリア』の『住宅街』に大混乱を起こそうという試みです。
掃除機はごみを吐き出し、水道は逆流し、車は故障します。
今作戦では戦闘員に悪戯系スキル持ちのみが配置されています。
『サテュロスカスタネット』と共に街を練り歩き、パレードに紛れて恐怖を振りまいてください。
なるほど、移動しながら悪戯を仕掛けていき、感情エネルギーを集めようという試みらしい。
そういうことなら、俺の『ダークピクシー』や『ミミック』なんかが活躍しそうだな。
どうせ魔石を五個までにするならアイテムドロップはないんだ。
しっかりとアイテムを持って行こう。
俺は準備を始める。
MPポーションを買い足した方が良さそうなので、ミドリカの店に向かう。
『街』を歩いていると、風船を持った子供のNPCドールが歩いている。
緑のダイヤマーク。グリンダだ。
「ゐー!〈よう、グリンダ!〉」
───あ、グレンだ!───
グリンダは『街』ができてから初めて友達になったNPCドールだ。
グリンダは走ってきて、俺に飛びつくので、しっかりと抱えてやる。
すると、グリンダが持っていた風船が変化を起こした。
風船が延々と俺の頭に体当たりを仕掛けてくるのだ。
ばいん、ばいん、ばいん、ばいん……。
痛くはない。痛くはないが、微妙にうざい。
「ゐー?〈なんだこの風船?〉」
───あ、ごめんね。これ、私たちのおもちゃで『ガーディアンバルーン』っていうの───
聞けばこの『ガーディアンバルーン』は普段は普通の風船だが、中に特殊なガスが入っていて、守護霊のように主人を守る性質があるらしい。
魔法文明では一般的なおもちゃなんだそうだ。
ちなみにガスは、特殊な魔法で空気に呪いを掛けたもので、風船などでガスの濃さを保ってやらないと、呪いが解けて雲散霧消してしまうらしい。
悪戯で使えそうだな。
ミドリカの店で売っているそうなので、買ってみようか。
風船がばいん、ばいん、俺を叩くのを見てグリンダはずっとクスクス笑っている。
仕方がない。グリンダを抱えて、ばいん、ばいん、されながらミドリカの店に向かった。
───グレンはこれからお仕事?───
「ゐー!〈ああ、そうだな〉」
───そっか、頑張ってね!───
「ゐー!〈すまんな、また今度、遊びに行くよ〉」
───うん!───
朝からどんより気分だったが、グリンダに癒してもらってしまった。
うーむ。子供ってかわいいな。
今、紐解かれる黒歴史。
グレンくんの壬生狼会活動期間は僅か三ヶ月。
初期は友達同士のツーリングチームだったのに、変わってしまうものなのです。
とても後悔しているそうな。




