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ログアウト後。静乃にレポートを書いて送る。
静乃はまだゲーム中っぽいので、ニュースチェックをしながら時間を潰す。
近所で暴行事件があったらしい。
ボコボコにされて、縛られ転がされている強盗犯が捕まったらしい。
暴行犯は逃走中とのことで、気をつけるようにという警告付きのニュースだった。
強盗犯の仲間割れとかだろうか?
そう思っていたら、また近所で薬物使用者がボコボコにされて、縛られ転がされて捕まるという事件があった。
まあ、俺が住んでいる場所はベッドタウンの中でも治安は悪い方なので、アホが捕まったくらいでどう思うこともないが、逃げた暴行犯がまだ捕まっていないらしいので、戸締りはしっかりしておこう。
ニュースでも言っているが、もしかしてこの暴行犯はヒーロー気取りなのか?
そういうのはゲームでやってくれ、と思う。
現実でやれば暴行犯。そして、いつかは殺人犯なんて洒落にもならん。
静乃から連絡が来た。
───おばんちゃー! さっきは誘ってくれたのにごめんね!───
───いや、遊びに誘ったわけじゃない。聞きたいことがあったんでな───
───えっと……なにか私やらかした?───
───いや、今日、昼間に合成人工食料を買いに行った時に、知り合いから『リアじゅー』のオフ会に誘われてな───
───オフ会!? そんなリア充イベントにグレちゃんが……───
───たまたま会社の同僚に会って、無理に誘われたんだよ───
───ほうほう……───
───それはどうでもいい。そこで白せんべいってやつに会ったんだ───
───ああ、墓さん───
───墓さん?───
───ああ、別のとこでの名前。白せんべいがリアじゅーネームだよ───
───あいつ、なんなんだ? 超能力とか使えるのか?───
───え、な、なんのこと?───
───投げられたグラスがアイツの目の前で見えない壁みたいなものにぶつかって割れるのを見た───
───へ、へぇ……───
───しかも、その直前にアイツがスキル名みたいなのを呟いてるのを聞いた───
───え、どういうことかな? 周りには……えっと、その……墓さん、じゃなくて、白せんべいは隠れ厨二だから、言いふらさないであげてね……───
静乃が動揺を見せる。
静乃は大抵、思考入力だから、こういう時にボロが出る。
俺は白せんべいが厨二病患者だったらいいなと思っていたが、どうやら静乃の反応を見る限り、そういうことではなさそうだ。
別に俺に対して嘘をつくなとは思っていないが、心配にはなる。
───白せんべいってやつはリアルでも面識があるのか?───
───リアルではないよ。チャット仲間だから、チャットが一番多いかな。
『リアじゅー』はじめてからは、多少リアルの話も聞いたよ───
───俺が見たのは長髪イケメンの金持ちで、やけにハキハキした感じの教祖みたいな胡散臭さを感じたんだが……大丈夫なのか?───
───あっはっはっ! リージュさんにスタイリストお願いしたんだけど、そんなことになってたの!?
リージュさん、写真とか撮ってるかなぁ?───
───普段は違うのか?───
───『リアじゅー』だと短髪でガチムチ兄貴って感じに作ってるよ───
ふむ、本当にリアルの面識はないようだ。
まあ、白せんべいが怪しいことに変わりはないが、ネットフレンドは多少怪しいヤツは普通にいるしな。
問題は、白せんべいの超能力疑惑か。
トリックであって欲しいが、もしを考えてみる。
ゲームのスキルを現実で使える?
いや、思考実験としてもバカバカしいな。
そんなスキルが現実で使えるとしたら……ふと、この間の会社で起きた事故の時、【野生の勘】が使えたような……それに、今日のうさ耳が錯覚じゃなく、あの瞬間に本当に生えていたとしたら……『エレキトリック・ラビット』のうさ耳?
そんな、バカな。
頭から必死にバカな考えを振り払う。
ダメだ。寝よう!
静乃との話を打ち切り、寝ることにする。
自分のバカさを自覚している俺は買い置きの酒を、ぐびりと飲んで、寝床に着くのだった。
それは俺にとって、最後の抵抗だったのかもしれない。
街中にバットシグナルは出てません。
でも、ネットの中には出てたかもね。
全国民、総監視者みたいなもんだし。
グレンくん逃避中w




