211〈騎士家の人々〉
いつもの『大部屋』。
来てしまった。
今日はやめておこうと思ったんだけどな……。
『プライベート空間』で料理を始める。
───グレン様、私たちがやります───
屋敷の管理を任せているメイドのNPCドールたちだ。
名前はホワマーナとモマーナ。
白とピンクの紋章持ちだ。
屋敷の管理が終わると、俺の『プライベート空間』、通称グレン農園の手伝いに来てくれる。
───グレン様、締めたてのコケッケイです───
牧夫のオレンジ色、サマーナが鶏を持ってきてくれる。
牧夫はあと二人、空色のスカマーナと黒色のブラマーナがいる。
───今、使う分はここでいいんかね?───
農夫は赤、青、黄色でそれぞれアカマーナ、アオマーナ、キマーナと名付けている。
残り二人、狩人はまだ帰っていないが、緑色のミドマーナ、茶色のチャマーナがいる。
名前は簡単にしておかないと忘れるからな。
せっかくNPCドールが手伝ってくれるのなら、料理は任せてしまおう。
「ゐー!〈そういえば金は足りているか?〉」
───御屋敷、畑、牧場は問題ないです。ミドマーナとチャマーナは大物狩りで他の男手を雇いたいとか申しておりました───
「ゐー!〈それなら屋敷に十万マジカほど入れておく、当面はそれでなんとかしてくれ。
足りなくなったら、また、言ってくれ〉」
───はい、きっちり管理しますのでお任せ下さい───
モマーナが頭を下げる。執事とか雇った方がいいんだろうか?
今、この前の大人数での第四フィールド黄金探索で、もののついでに狩りまくったおかげで、牧場もかなり充実してきている。
牛、豚、鶏にレア種の羊、何故か他のフィールドで捕れた食用ドロップをする幻想種モンスターも他のプレイヤーたちが気を利かせて持ってきてくれるおかげで、牧夫たちは大忙しだ。
そうか、増やすなら牧夫かもしれない。
そんなことを考えながらアイテム整理をする。
今日は強いて言うなら静乃と話してみたいくらいか。
白せんべいがどんなやつか確かめないとな。
スキルを使うような行動は控えようと思うので、ポーションを数本。あとは天然野菜を幾つか。戦うことはないので武器などは置いていく。
他のプレイヤーの牧場用生け捕りモンスターの買取りをしていたら、プレイヤーたちが皆一様に金じゃなくて、メイドたちの作る料理を食わせてくれと言ってくる。
焼き鳥と豚肉と玉ねぎの串カツだ。
焼き鳥は肉が美味いので塩。
串カツは各種野菜を使った串カツ専用ソースをたっぷりつけていただく。
もちろん、二度漬け禁止だ。
追加で鶏と豚を絞めてもらって、急遽、料金払いか食事ひと皿か選んでもらうことにする。
これはヤバい錬金術を発見してしまったかもしれない。
執事も牧夫もいいが、料理人が一番必要な気がしてきた。
新しく雇うことを検討しよう。
さて、やはり幻想種は旨味が違うというのをたっぷり確認したので、静乃にチャットを送ってみる。
グレン︰暇ならシティエリア辺りで話せないか?
暫く待つ。
SIZU︰土曜日はかきいれ時だから、ログアウトしてからでもいい?
そうか、レイド戦巡りするなら土日はそうなるか。
グレン︰分かった。じゃあ、また後で。
暇になってしまった。
そうだな、NPCドールを雇うことを本格的に考えるか。
街中のNPCドールをスカウトして雇うのもありだが、ここはせっかくなので、新しいNPCドールを呼び出してみよう。
『りばりば』で雇えるNPCドールは十万人くらいいるが、『街』の発展具合などによって何人雇えるかは常に変動している。
検索をかけられるので、料理で検索してみる。
ずらずらととんでもない量のNPCドールがヒットする。
どうやらNPCドールのプロフィールがかなり細かく設定してあるらしく、一斉にアピールしてくる。「主婦歴三十年、料理が得意」とか「料理屋見習いやってました」とか「猪料理専門」なんてのはいい方で、「料理も頑張りたい!」「卵焼きは料理に入りますよね?」なんて、逆アピールにしかならなそうなプロフィールのNPCドールもいる。
もっと細かく絞り込まないとダメなようだ。
料理・調理スキル持ち、多様な食材に対応、と絞ってみた。
ゼロ件になった。
どうやら、料理・調理スキルというのは存在しないらしい。
参ったな。
仕方がないので、また料理と打ち込んでから、プロフィールだか自己アピールだか分からない文章を流し読みしていく。
「ゐー?〈そういえば、家の屋敷ってあとどれくらい部屋があるのか分かるか?〉」
それによって雇える人数が変わる。
答えたのはホワマーナだ。
───使用人の部屋でしたら、八部屋ほどです。改装すれば、使っていない物置などもあるので十二部屋は確保できます───
そんなにあるのか……。
それなら、執事と牧夫と料理人を雇っても問題ないじゃないか。
NPCドールは月に1マジカ。
四人くらい雇ってもいいな。
ただ自分で把握できなくなりそうなのが怖い。
流し読みしていくと、面白いNPCドールを見つけた。
解体屋のNPCドールで、料理人もやっていたという経歴の持ち主だ。
食に興味があって、グリフォンやドラゴンすら食ったという。
これは、雇うしかない。
NPCドールと画面越しに面接する。
───あんたが俺を雇いたいってプレイヤーか?───
何故か傷だらけのNPCドールだ。
「ゐー?〈ジビエ料理が得意なのか?〉」
───生きてるもんなら、食えるだろ。毒のあるやつも大抵食ったが、毒抜きなんかは知識がないとな……───
ほ、ほほう……。
ちょっと興味がある。
「ゐー?〈その傷は?〉」
───この傷は魂に刻まれたモンだ。
昔は随分と無茶をしたからな。
まあ、今じゃこんな無茶はできなくなっちまったが……───
なんだか面白いやつだな。
「ゐー!〈よし、あんたを雇いたい!〉」
───いいだろう。あんたなら面白いものを食わせてくれそうだしな───
契約成立。新規にNPCドールを雇う時はお互いの同意が必要らしい。
光の筒が目の前に立ち上がり、中から傷だらけのNPCドールが出てくる。
それから主婦歴三十年のおばさんっぽいNPCドールも雇った。
傷だらけのイタマーナと薄い黄色のレモマーナと名付ける。
ちょっとこれから新しい食材探しに行きたくなるな。
そんなことをしていたら、結構な時間が経っていた。
明日は久しぶりに『作戦行動』がある。
予約して、俺はログアウトするのだった。




