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209 side︰グレン〈はじめてのオフ会〉


 土曜日。

 朝から配信ニュースでは猟奇殺人事件の特集が組まれていて、げんなりする。

 最近のオカルトブームに乗っかっているのか、全身の血液を抜き取られた遺体が見つかり、現代に蘇った吸血鬼か、などと騒がれている。

 本当に人死が出ている状況で、それを面白がるのは何か違う気がして、早々にニュースチェックは諦めた。


 合成人工食料の粉がそろそろ切れる。

 買いに行くかと思い立つ。

 今までは味に拘りがなかったので、ネット配送に頼りきりだったが、最近は同じ合成人工食料でも、少しでも美味いものをと思い、会社の近くにある少し良い合成人工食料の粉を扱っている店で用途に合わせて揃えるようになった。

 肉なら、米なら、小麦なら、と微妙に違いがあるから仕方ない。

 懇意にさせていただいている農家の方から特別に月一で売り物にならない野菜を送ってもらえるようになったので、そちらはそちらで楽しみだが、高給取りではないので、主食は合成人工食料だ。


 車を呼ぶ。


 会社の近くの食料屋で足りないものを揃える。


 ほほう……豚肉専用の粉とかあるのか。

 新製品だな。


 少しの楽しみと共に食料屋を出ると、事務方の同僚と出会す。


「あれ、神馬さん?」


「おお、戸波さん。まさか、休日出勤ですか?」


「いやいや、ちょっと新しい趣味の関係でね」


 そう言って戸波さんはバットを振る仕草をする。


「野球ですか?」


「いやあ、この腹でスポーツ系はもう無理だよ」


 戸波さんはふくよかな腹をポンポンと叩く。

 長年、事務方で座りっぱなしだしな。

 だが、だからこそスポーツ系に目覚めたのかと思ったんだが、違うようだ。

 はて? スポーツ系じゃなくバットを振るような仕草となると……。


「今、話題のVRゲームだよ。

 社内でもやってるやつが増えて来て、話題になってるだろ。

 『REEARTH_JUDGEMENT_VRMMORPG』ってやつのオフ会なんだ」


「戸波さんもやるんですか!」


「戸波さんもって、神馬さんも?

 もしかして、オフ会?」


「いえ、自分はこれを買いに」


 合成人工食料を見せる。


「へえ、神馬くんはグルメだね」


「いや、前は食い物なんて食えればいいくらいに思ってたんですけどね。

 『リアじゅー』で食べた味が忘れられなくて、食に目覚めたというか……」


「へえ、そりゃ面白い。あ、ちなみに神馬さんはどっち側?」


「怪人側ですね。りばりばでやってます」


「おお、そりゃ好都合!

 いや、僕はシメシメ団ってとこに入ってるんだけど、今日は色んな怪人側の人が集まるオフ会なんだよ。

 良かったら、これから一緒にどう?

 主催は知り合いだし、知らない人も結構来るオフ会というか、飲み会みたいなもんだから、怪人側なら歓迎だよ。

 共通の話題があれば盛り上がれるしね」


「いや、自分はそういうのはあんまり……」


「大丈夫だって、仮面舞踏会形式だから気兼ねすることもないしさ。

 僕の予備のやつ貸してあげるから」


 戸波さんがパーティーグッズの仮面を取り出す。

 顔を隠せるのは悪くない。俺の人間アバターは俺そのままだから、オフ会は身バレが怖いからな。


「一回、参加してさ、合わなかったら帰ればいいだけだから。

 意外と他のレギオンの話なんて、聞いてるだけでも楽しいもんだよ。ね、行こうよ。

 きっと気に入るからさ!」


 戸波さんの押しに負けて参加することになった。

 まあ、これも経験か。


 会社からさほど遠くない場所に貸し会場があり、そこに百人規模の人が集まるらしい。


「参加者カードのご記入をお願いします」


 仮面黒服に促され、名札を書かされる。

 レギオン名とレベル、年齢、それだけだ。

 荷物はここで預かってくれるらしいので、預けておく。


「名前は名乗るなら偽名でね。

 リアじゅーネームなんて使うと特定されちゃうから」


 戸波さんが注意事項の書かれた紙をくれる。

 顔を出すなとか、リアルネームやリアじゅーネームは隠しましょうとか、基本的なことだけだ。


 参加費用を払って入場する。


「僕のことはジムニーって呼んでくれ」


 事務兄(じむにい)……覚えやすい。


「じゃあ、自分はエギヨウで!」


「OK、エギヨウ! こここらは悪いがリアじゅーキャラでいかせてもらう。

 僕ちんのエスコートが欲しかったら、言ってくれ!

 がっつり楽しもう!」


「……あ、ああ」


 マジか……ジムニー、そんな感じでやってるのか……。


 多少、砕けるどころじゃないんだな……。

 少し羨ましくもある。


 会場は立食パーティー形式で正面奥に、ステージ。

 ステージ横にDJブースがあって、今は軽快な音楽が流れている。

 結構な数の人がいる。

 若い子が多い。まあ、俺やジムニーからしたら、大抵は若い子か。

 それにきっちりコスプレしている人なんかもいる。

 全身タイツだけどな。


 まずは酒だな。

 ジムニーと酒を取りに行く。


 ちらちらとそれぞれのネームプレートを確認。

 怪人側の有名どころから、無名のところまで、多種多様なレギオン名がある。

 せっかくなら他レギオンのやつと話してみたいところだ。


 ちびちびと強めの酒を舐めながら、耳をそばだてる。


「ウチはほら、あくまでもヒーローを潰すのが目的でやってるからさ。今回のりばりば勝利で筋道が立ったというか、勝ち筋が見えたじゃん。もちろん、ヒーロー側の対応も変わってくるだろうけど、意図的に戦争イベント起こすのはアリだよね!」


 『ガイア帝国』のやつか。


「大手のレギオンが戦争に入ったら、シティエリアで遊び難くなりそうだなぁ。

 りばりばの時も繁華街潰されたりして、一日ダメになったりしたし……」


 『悪魔の手』、聞かないレギオンだな。小規模なところか?


「ほら、野良で結成したレギオンあるじゃん。あれを有効活用すれば、小規模レギオンでもやれること増えそうだよね」


 『赤龍騎士団』、これもあまり聞かないところだ。


「ウチじゃ、アレは潰そうかって話になってるな。敵対の可能性もあるんだろ?

 早めに潰しといた方が安心だからな」


 『マンジクロイツェル』はそういう方向性か。


「あ、おじさん、りばりばじゃん。

 ねえ、りばりばの人たちはどう考えてるの?」


 『世界征服委員会』の女性に話しかけられた。


「あ〜グレイキャンパスだよな? まだ対応は検討中らしいぞ……」


「りばりばさんとこは人数が多い分、そういうの決めるのは大変そうだな 」


 『ガイア帝国』のやつか。ちょっと上から目線で話しかけてくるのが、それっぽい。

 幹部の霧雨もそんな感じだしな。高校生の背伸びみたいで微笑ましかった印象だが、パッと見、三十代くらいのやつにやられると、少しイラつくな。


「まあ、ガイアと違って、自由が売りだからな」


「それで言ったら、僕ちんのとこはお祭りになったらいいわけで、場がカオスになったらオールオッケー!

 グレイキャンパスには期待しちゃうね!」


 戸波……ジムニーに腰をポンポンと叩かれる。

 落ち着けということか。

 確かに売り言葉に買い言葉じゃ、この場は楽しくない。

 

「シメシメ団らしいっすね」


 『悪魔の手』が笑う。


「まあね。面白けりゃアリだよね!」


 そんな会話をしていると、ステージ上に細身で緑色の髪をした男性がマイク片手に出てくる。

 豪華な仮面に耳にはでっかいピアスが揺れていて、バンドボーカルみたいだ。


「お、始まるぞ!」


 ジムニーが楽しそうにそちらへと目を向ける。


「こほん……みんな、楽しんでる〜?

 主催のリージュよーん!」


「リージュー!」「ピュー! ビュー!」「かっこいい!」「かわいいよ〜!」「ママ〜!」


「ん〜、ありがと、ありがと!

 ママって呼ばないの!」


 投げキッス。オカマじゃねーか!

 ジムニーは主催と知り合いね……『シメシメ団』幹部、オカマのリージュなら確かに知り合いか。


 リージュは続ける。


「今日はね〜、すっぺしゃるなゲストを紹介しちゃうわね!

 出てらっしゃーい!」


 呼ばれて出てくるのは、プラチナブロンドの長髪イケメン、仮面を被っててもイケメンオーラが溢れているから仕方がない。

 薄紫のスーツを着た男だ。


「グレイキャンパスの代表、白せんべいさんよ〜!

 キャー、イケメ〜ン!」


「どうも。白せんべいです。

 実際はただの野良で燻ってる男です。

 みなさんの疑問に答えるべく、来ました。

 答えられる限り、答えたいと思います」


「さあ、みんな質問あるわよね!

 混乱を避けるために、この場での質疑応答だから、それは許してねん」


 白せんべいは余裕の笑みで辺りを見回した。


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― 新着の感想 ―
[一言] りばりばプレイヤー「おぉ…堕天使様の気配を感じる」
[一言] 猟奇殺人……本物だとするとポップなのか今まで潜んでいたのか例の超能力者組の同類なのか気になる処w
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