20〈はじめてのホワイトセレネー〉
本日、三話目なんだ。
───『レイド戦』ルールにより、NPCは隔離されます───
───プレイヤーは参戦するか決めて下さい───
目の前にはそんな文字が並んでいた。
周りにいる人々は次々に透明になって消えていく。
「グレンさん、すみませんが見学していっていいでしょうか? 」
「イーッ? 〈ああ、構わないが、参戦するのか? 〉」
レオナに聞く。
「いいえ、参戦しないを選べば、我々も透明化することになります。
何もすることは出来ませんが、他レギオンの情報を掴むチャンスです」
「透明化しても同じレギオン同士は見えますから心配しなくていいですよ! お互いに幽霊状態になって触ることもできませんけどね」
レオナの説明にムックが補足を入れる。
それならばと、了承することにした。
「では、それぞれ好きなように見て回って、レイド戦終了後、このホームに集合にします! 」
「「「イーッ! 」」」
レオナの号令に、俺たちは戦闘員らしく答えるのだった。
「うーん……『ムーンチャイルド』のホワイトセレネー対バグライガーは『シメシメ団』だね…… 」
何故、所属レギオンが分かるのか、ムックに聞いてみると、答えは簡単で、『ムーンチャイルド』は額に月のマーク、『シメシメ団』は胸に『〆』というマークが付くそうだ。
ちなみに『りばりば』はベルトのバックルに『RE』のマークが付く。
ホワイトセレネーは硬化プラスチックのような白いマスクに三日月の兜飾りみたいな物が付いていた。
身体は白に黒のラインなんかが入った全身タイツだが、部分的にマスクと同素材らしきポイントアーマーを着けている。
あと、胸や腰回りが女性だと主張している。
ボディラインががが……。
しばし堪能したので、満足だ。
「シメシメ団員よ、いでよギョシャ! 」
バグライガーが復活石をバラ撒く。
復活石から戦闘員たちが現れる。
「シメシメー! 」「シー! 」「メーッ! 」「シメー! 」
俺は息を呑む。
まさか、こいつら……考えたくないが、そうなのか?
「シーッ! 」「シメッ! 」「メシー! 」
なんてことだ……。二文字も喋れるのか!
しかも、反転使いまでできるだと……。
なんだか、とても負けた気分になる。
シメシメ団の戦闘員は青い法被にねじり鉢巻、黄色い全身タイツ姿だった。
基本装備は太鼓のバチみたいなこん棒が二本。
そいつらがホワイトセレネーに群がろうとするが、距離がある。
ホワイトセレネーは電車の進行方向にある踏切の辺りから、弓のような武器を使っているのだ。
弓、といっても勿論ヒーロー仕様の弓で弦もなければ、弓幹というか、全体が刃物のようになっているし、射出されるのは矢ではなくビーム光線だ。
もういっそ素直にアサルトライフルにナイフを括りつけて銃剣にした方が使い勝手がいいんじゃないかと思う。
「シメーッ! 」
お、素早さ特化らしき戦闘員がフェイント交じりにホームから飛び出した。
と、思った瞬間、上空から光の矢がこれでもかという程、降ってくる。
「シ……メ…… 」
飛び出した戦闘員はもちろん、電車の屋根、ホームの屋根、辺り一帯に矢の雨が降る。
「えぐいシザ……高所を押さえての分裂散弾式ビームの雨シザ…… 」
ホームから降りていた煮込みが恐怖に震えていた。
俺もホームの端に寄って、上を見上げる。
あれは駅に併設されている駅ビルの屋上か。
恐らく『ムーンチャイルド』の戦闘員が並んでいる。
何やらデカいロケットランチャーみたいなものを肩に担いで、そこから射出されたロケットが無数の光の矢に分裂、降り注いでいるらしい。
バグライガーは電車の屋根にいるのはやめたようで、ホームの屋根の下に避難している。
それはシメシメ団員たちも同じで、屋根の下から出ることができない。
しかし、屋根の下なら安全かと言えば、そうではない。
横からはホワイトセレネーの弓が飛んでくるのだ。
立体的な十字砲火でシメシメ団はホワイトセレネーに近付くことすらできない。
「ぐぅぅ……耐えるギョシャ! あんなデカい攻撃がいつまでも続けられるわけないギョシャ! 」
確かに、と俺は思う。
だが、ホワイトセレネーの攻撃は武器命中が高いのか、一撃必中、シメシメ団員は次々と倒れる。
バラ撒かれた復活石が屋根の下にあるシメシメ団員はまだマシだ。
電車の屋根に残っている復活石に紐付けされている戦闘員は復活と同時に復活石を移動させようとして、その時点で雨に撃たれて死んでいる。
俺の体をすり抜けて、ホワイトセレネーの光の矢が戦闘員を倒した。
「イーッ…… 〈おお、当たらないと分かっていてもドキドキするな…… 〉」
だが、これで度胸がついた。
俺は思い切って、ホワイトセレネーの近くまで行ってみる。
「電車を止めて、乗客が集まるのを待つなんて、時間を掛けすぎましたね……っと!
おかげでっ! こちらの戦闘員は充分に集められましたよっ! 」
独り言を呟きながら、その弓型ビーム兵器を放つ手は止まらず動いていた。
「あら、そろそろビーム連弩も弾切れですか……では、ここからはビーム弩に切り替えでお願いします…… 」
思念チャットじゃなくて、普通に通信しているらしい。
ビームの矢の雨が止む。
「今、ギョシャ! 」
「「「シメーッ! 」」」
駅のホームから生き残った戦闘員を盾にバグライガーが近付いてくる。
駅ビルの屋上からは散発的に矢が飛ぶ。
希にスキルによる炎弾や雷撃なんかも飛ぶが、バグライガーは怪人だけあって、状態異常にはまず掛からないようだ。
それでも1点ダメージは出るから経験値にはなっているのだろう。
『ムーンチャイルド』側は完全に地の利があるようで、射程が伸びているな。
「さて、大技行こうかな……まずは雑魚を落とすっ! 」
ホワイトセレネーが宣言する。
「【月の女神】! 」
ホワイトセレネーの弓型ビーム兵器が、光に包まれ、巨大化する。
短弓ほどの大きさから長弓ほどになる。
ホワイトセレネーが弓の中心にある棒を限界まで引く。
放たれるのは、ごんぶとビームだった。
辺り一面、眩い光に包まれたと思うと、シメシメ団員たちは消えていた。
「ぐふぅギョシャ…… 」
バグライガーの身体から150点近いダメージが、多段ヒットしているのが分かる。
戦闘員が消えてしまったことから、もしかして魔石をヒット分消費させる効果とかあるのかもしれない。
がくり、と膝をつくバグライガーだが、すぐにポーションらしきものを手に立ち上がる。
しかし、その時には『ムーンチャイルド』側戦闘員の一斉射撃が始まっている。
「かか、感電ギョギョシャシャシャ…… 」
それでもどうにかポーションを振り掛けようとバグライガーが上げた腕を、ホワイトセレネーは無情にも射抜く。
ポーションは、地面に吸われて消えていく。
「今回は楽勝でしたね! では、ご馳走様です! 」
そこからは語るまでもなく、バグライガーは矢衾になって、無念と爆発した。
───間もなく『レイド戦』が終了します───
地面や電車に空いた穴などが修復していく。
「ありゃ、周辺被害が大きすぎて赤字ですか……経験値は美味しかったですけど、やりすぎましたね…… 」
ホワイトセレネーが何やら画面を弄る動作をしているので、リザルトの確認でもしているのかもしれない。
なるほど、こういう感じでレイド戦が行われるのかと、俺は辺りを見回しながら、ホームへと戻るのだった。




