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「ゐー!〈説明は!〉」


「ない!」


「いや、あのSIZUさん?」


 レオナが代表して聞く。


「んー……ダンジョンボスに口撃で勝った?」


「なんですか、それは!」


 青海がつっこむ。


「想定内の想定外が起きたと言うか……む〜、説明が難しいな……とにかく、戦わずしてダンジョンボスを初回撃破しました!」


「ゐー……〈お前、さすがにそれじゃ納得いかねえよ……〉」


「これはもう、グレちゃんに怒られても、事実は事実としか言えないっす……」


「ゐー……〈みんな、すまん……こいつ、こうなったら、梃子でも喋らない。時間があるなら、リポップ待ちして、もう一回、挑戦しようと思うんだが……〉」


「うんうん。次は変なことしません。問答無用で殴り始めたら、普通のボス戦になると思うし……」


「なるほどー。今の状況についての説明はしないということですねー」


 ニコニコとサクヤが聞いた。


「うん、喋れない。リアル設定だから、憂さ晴らしに殺してもいいよ。喋れないけど。あと、グレちゃんにも喋る気はない。今の状況の意味が分かるようになったら連絡して」


「実は運営の回し者とか?」


 レオナも微笑んでいる。


「運営は関係ない。あくまでもプレイヤーなので!」


「まあ、憂さ晴らしをする意味はないピロ。

 僕らの理解が足りてないだけだと思うピロ」


「あんまり面白い話じゃないから、これはこういうもんだ、くらいで収めてもらえると嬉しいでっす!」


「まさか、チート?」


 青海はチートを疑った。


「まさか!? そんなつまらないチート撲滅案件でしょ!

 俺TUEEEEにもならないし……」


「チートは肯定派ピロ?」


「とんでもない!

 チート使いを正当なルールに乗っ取ってぶっ飛ばすのは大好きですけど、チートは無いに越したことはないでしょ!」


「……なんだか、SIZUさんだけ別のゲームやってるみたいですね」


「うっ……ある意味、近くて遠い。

 レオナさんは勘が良さそうだから、言いますけど、できれば関わらない方が幸せです。

 これ、結構、マジな忠告なんで」


「ふーん……他人に私の幸せの定義を決められるとなると、グレンさんの従妹でも、ちょっとイラつくかも……?

 でも、まあいいわ。

 今は喋れない。この状況を理解できれば自ずと関わることになる。

 そんなところでしょ?」


「ぐっは! それは追及します宣言ですね……ううん……困ります。困りますけど、ちょっとだけ期待しておきます……」


「ふむふむ……仲間は欲しいってことですねー」


「あばばばば……前門の才女様、後門の魔女様……結構、ぴんちですよ……」


「レオナさん、サクヤさん、イジメはカッコ悪いです!」


 俺たちの前に飛び出した、ばよえ〜んが両手を広げる。


「大丈夫ですよ、ハッシー。

 先生はイジメられてません。どちらかというと、ちょっとだけ楽しんでます!」


「ええっ!? 良く分かりません……」


 うん、ばよえ〜んはマトモで嬉しいよ、俺は。

 ウチの従妹はどうして、こうなってしまったのか……。


「じゃあ、もう一回、挑むピロ?」


「いえ、もうお腹いっぱいです」


「私もですねー」


 なんとなく流れで終わりになりそうだ。


「ああ、SIZUさん。これからも仲良くしましょうね!」


「ははは……。はい。グレちゃん共々、よろしくお願いします」


 静乃とレオナが握手を交わす。


「もちろん、私もお願いしますねー」


「ええ、もちろんです!」


 サクヤとも握手。


「先生、私も!」


 俺は静乃をおぶったまま、足を屈めて、ばよえ〜んとの距離を近づけてやる。


「はい、ばよえ〜んさんもよろしく!」


「僕もよろしくピロ」


 ムックとも握手。


「私は……SIZUさんがちょっと分からなくなって来ました……だから、もう少しご一緒させていただいて、見極めたいと思います」


「青海ちゃんはマジメさんだなあ……」


 静乃は、てへへ、と笑った。


 嫌われたと思って心配していたか。

 そういうところは年相応で安心する。


「ゐー!〈そういえば、ばよえ〜んのガチャ魂は、どんなのだったんだ?〉」


「これです!」


 『ノルニル☆☆☆☆☆』

 【予言ノルン

 代価︰パッシブ

 あなたは常に周囲の状況の一手先が見えるようになる。


 ・ああ、いやだ、いやだ。変えられない未来を常に見続けるなんて、ろくなもんじゃない。


「ゐー!〈俺の【野生の勘(ウルフセンス)】の拡大版みたいなもんか。便利だな〉」


「まさかのユニーク、ふたつ目です!」


「ユニークですかー。戦わずしてユニークがもらえるなんて、お得でしたねー」


「はい! 先生のおかげなのです!」


 ばよえ〜んが嬉しそうだ。


「なんでしたっけ、ばよえ〜んさんが先生と知り合った場所」


「グレイトにゃー先生のリアじゅーな日々、です!」


「ああ、このゲームのマスコット。グレイトワンをもじってるんですね!」


「まあ、そうですね。でも、レオナさん、もう初心者じゃないでしょう?」


「いえいえ、知らないことばかりですから……」


「は、ははは……お手柔らかに……」


 静乃が乾いた笑いを零す。

 レオナとは意外と気が合うのかもな。

 ケンカ友達になりそうだ。


 俺たちは引き返すことにした。


「んじゃ、グレちゃん。私のこと殺してくれる!」


「ゐーっ!?〈はぁっ!? なんで?〉」


「この足ってリスポンしないと治らないのですよ。帰り道もおぶってもらってもいいけど、足を引っ張るだけでしょ。

 それなら、ダンジョンボスを倒した今、お荷物は軽い方がいいかなって」


 氷の女王戦の後、静乃の足は部位破損回復薬も受け付けない状態で、静乃曰く、足が死んでるからしょーがないとの事だった。

 なるほど、リスポンするしかない。


「ゐー!〈なんつー後味の悪いことを頼むんだ、コイツは……。

 仕方ない。感覚設定切っとけよ!〉」


「え、切らないよ。なんで?」


「ゐー……〈俺が嫌だからだよ……〉」


「私、お手伝いしますよ!」


「あ、ホント……」


 静乃が言い切る前にレオナの銃弾が額に穴を開けた。


 思わず全員の視線がレオナに集まる。


「あ、大丈夫ですよ、あの娘は怒らないでしょうから」


 あ、うん。それはそうだし、これで怒るようなら静乃に俺から説教もんだからいいんだが、レオナの思い切りの良さに、正直、驚いた。


 フレンドチャットがすぐに来る。


SIZU︰レオナさんにありがとー痛くなかったって伝えておいてー!


「ゐー!〈SIZUからチャットで、レオナにありがとう、痛くなかった、と伝えてくれと来たぞ〉」


 全員がホッとしたような表情を浮かべた。

 レオナは最初から冷静なままだ。


「ふむふむ……グレンさんからそれを伝えさせる辺り、やっぱりSIZUさんは心得てますねー」


「私に直接、チャットして来ないですからね」


 レオナとサクヤはお互いに頷き合う。

 幹部クラス同士で理解が通じているようだ。

 これも答えてくれなさそうな案件なので、放置だな。


 俺たちがボス部屋を出て暫く歩くと、ナナミたちが正面から歩いて来た。


「あ、グレンたちミザ!」


「どうも!」


「ブイなのです!」


「えっと、ばよえ〜んさん、それはどういう意味でしょうか?」


「残念ながら、ボス戦はリポップ待ちですよー」


「ええっ!」


「ありゃ、先を越されちゃったミザ……」


「やられましたか……」


 coinは肩を竦める。


「それで、ガチャ魂は?」


 ナナミは第七フィールドのストーリー重視だからな。

 ボス戦に気合いを入れていたのも嘘じゃないだろうが、それよりもガチャ魂のストーリーが気になるのだろう。


「ゐー!〈こっちが氷の女王だ〉」


「こっちが悪魔の鏡から出たやつです!」


「は? 氷の女王って、倒したんですか?」


 ナナミたちがザワつく。


「ええ、SIZUさんがほぼお一人で、ですけどね」


 レオナがため息混じりに言う。


「いや、フィールドボスですよね?」


 coinの疑問は尤もだ。


「んー、一応、他人様の情報なので詳細は省きますが、ほぼお一人でやれちゃいましたねー」


「んで、その娘がSIZUさんミザ?」


「あ、いえ、私じゃないです!」


「青海さんはSIZUさんが連れて来た、元『マギスター』の『マギサファイア』やってた人ピロ」


「「「はあっ!?」」」


「えっと……はい、そうです。どうも……」


「なんでマギサファイアがこっち側に……」


 coinはパニックという顔をしている。


「ヒーロー側の雰囲気が辛くて……勧誘してくださるのは嬉しいんですが、しばらくNPCドールを見たくなかったので、それで怪人側の野良になりました」


「野良……野良でやってるミザ?」


「ええ、まあ、今のところは……」


 そこから、青海への質問大会になってしまったが、青海は答えられるものには全て真摯に答えていた。

 静乃も言っていたが、根が真面目なようだ。


 そこから、どうにか抜け出して、俺たちは帰る。

 最後に青海と全員で握手をした。

 俺との握手の時には、「では、後ほど日時を指定させていただきます」と、タイマン勝負の話を出されたので、俺も楽しみにしていると返して別れた。


 いちおう、みんなには俺から改めて静乃の態度について謝ったが、みんなは気にしないと言ってくれた。


 それから、今日の反省会という名のバーベキューをしていると、レオナに幹部会から一報が入った。


 それはレギオン『グレイキャンパス』からで、つい先程、全レギオン向けに出された傭兵(ワイルドギース)宣言だ。

 構成員は体制側、反体制側の野良戦闘員の一部で、どちらにも与するし、どちらにも敵するという内容だ。

 レギオン幹部は連名でSIZUの名前もある。


 灰色のキャンパスは白でも黒でもあり、乗せる色次第で、あなたたちの敵にも味方にもなります。というのがキャッチフレーズらしい。


「ウチはグレンさんがいるから、先にご挨拶という意味もあったのかもしれないですね……」


 レオナが呟く。

 ありそうな話だ。

 それにしても、昨日、話を聞いて今日、結成になるとは、俺も驚いている。

 もう少し準備時間を取ると思っていたんだけどな……。


「個人的にはSIZUさんのやることに興味もありますし、容認してもいいとは思っていますが、レギオンとしての意見は統一しなくてはいけないので、これからすぐ幹部会を招集します。

 すみませんが、今日はこれで失礼します」


「ゐーっ!〈昨日、聞いた話じゃ、何度か潰されるのは折り込み済みらしいから、潰すとなると苦労するぞ。アイツはしぶといからな。

 だが、どっちに転んでもレギオン員として協力する。

 りばりばとして、良い方を選んでくれ!〉」


「はい。お気遣いありがとうございます。

 では、皆さん、失礼しますね」


 そう言ってレオナは去っていった。

 俺もいい時間になってきたので、挨拶してログアウトしたのだった。



レオナとサクヤが頷き合っているのは、情報は第三者から聞かされた方が信憑性が増すというのを理解しているからです。

レオナの口から「今、SIZUさんからチャットで痛くなかった、ありがとうと来ましたね」と聞かされるよりも、グレンが同じことを言った方が素直に情報が入りやすいということです。

幹部を経験すると、そういうところに敏感になるみたいですw

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― 新着の感想 ―
[一言] どうしよう…全然意味が分からなくて静ちゃん苦手になりそう。周りを振り回す電波ちゃんにしか見えない…私が馬鹿なだけなのかな?しょんぼりだよ…。
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