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静乃の下半身が酷いことになった。
スキル効果で下半身が壊死して黒ずみ、歩くと激痛が襲うらしい。
そう、静乃もリアル設定だった。
それで言うと青海もリアル設定らしい。
今は、俺が静乃をおんぶしている。
「ダンジョンボス倒すまでは、死ねないんで、よろしく!」
「SIZUさんっていつもこんな感じですか?」
レオナに聞かれるが、一緒にまともにゲームをしたことがないので、答えられない。
昔は、親戚の集まりの時にパーティーゲームくらいはしたが、誰よりも真剣に楽しんでたなぁくらいの記憶しかない。
「なんですかねー? グレンさんの家系はドMの血でも流れてるんでしょーか?」
「いえ、私は親戚とかじゃないですよ」
「つまり、青海ちゃんは単独のドMであると?」
「いえ、そういうんじゃなくて……なんていうか……ご飯が美味しいんですよね……」
「分かるピロ」
「なんだか女性版グレンさんを見ている気分です……」
レオナが頭を抱えた。何故だ?
「ゐー!〈分かる! 慣れると感覚を鈍らせたくなくなるんだよな!〉」
「ああ、そうです、そうです!
戦闘時の肌感覚とかかなり違って来ますし……」
話してみると、使うスキルの性質や考え方にシンパシーを感じる。
まあ、それでも真剣勝負の約束は反故にしたりしない。
変身時は、俺と青海の状態異常に大きな差があったが、変身無しだとその差は小さくなる。
タイミング勝負になりそうだな。
少し楽しみにしている自分がいた。
「ところでグレちゃん、『氷の女王』はどう?」
俺は初撃破報酬として『氷の女王☆☆☆☆』を手に入れていた。
【氷の女王】
距離︰視界 範囲︰半径50m 代価︰MP-50
半径50m以内の対象に『氷結』『寒冷麻痺』『凍傷』『氷化』を与える。また、フィールドを一定時間『積雪』『吹雪』にする。
・止まれ! 時間も命も全て。永遠に王子と離れることのないように! 永遠に勇者が近づけなくなるように!
「ゐー!〈範囲が広すぎて使いどころが限られるが、強力だぞ!〉」
今は『サバクツノトカゲ』と入れ替えている。
一度、使ってみないとな。
レイド戦なら『ミミック』と交換がいいかもしれない。
「これはナナミさんが羨ましがりそうですねー」
「スキル的にもグレンさんっぽいピロ」
「私たち、ほぼ何にもしてないですけどこのプレイヤー数で倒せると、報酬がもの凄いことになりますね……」
レオナはインベントリを確認しながら言う。
確かに、経験値はえげつない量だし、報酬のドロップも復活石やら魔石、その他、換金アイテムに素材アイテムが三日、四日通った分くらい貯まっている。
特にラグナロクイベント中は経験値が一切もらえなかったので、久しぶりにレベルアップした感じがする。
まあ、静乃の経験値はえげつないじゃ済まない量みたいだが。
静乃と言えば、誰かの死を見ることでカウントを貯めて、それを自らの『死の軍団』として放出するスキル【死の軍団】だが、一度使えばカウントはゼロになってしまうらしいので、使い所が難しいな。
だが、今回のようにやり方次第で、一人でもフィールドボスすら倒せると証明したからな。
静乃の野良傭兵レギオン計画が進んだら、ゲーム内のパワーバランスは大変なことになりそうだ。
「ん〜……鏡は見当たらないです……」
「凍りついた姿見はありましたけど、悪魔の鏡には見えないですよね……」
ばよえ〜んと青海が頭を悩ませている。
今は女王の部屋と思しき場所で鏡を探している。
サクヤは部屋をうろついて、しきりに窓から外を覗いている。
そういえば、サクヤの推測では、空に浮かぶ巨大な月のような球体、普段は雲に隠れて全景が見えないが、塔の最上階から見たアレこそが悪魔の鏡だという話だったよな。
だとすると、女王の部屋に悪魔の鏡が無いのは当たり前じゃないか?
いや、この話は静乃にもレポートで報告してある。
その上で、静乃が女王の部屋を指定したということは、それなりに理由があるはずだ。
そのことをみんなに説明しようと思った時、サクヤが、ポンと手を打った。
「なるほどー! こういうギミックですか!」
「さっすがサクヤさん!
もう解けちゃった?」
静乃が嬉しそうに応える。
「まあ、あの空に浮かぶ光る球体こそ悪魔の鏡だろうとは思ってましたからねー。
あと、童話内では、カイの眼の中にガラスが入った記述がありましたよねー。
まあ、勘みたいなものですが、解けるとなぁーんだってなりますねー」
「どういうことピロ?」
「え、言っちゃダメです!」
答えを知りたがるムックと、自分で謎を解きたいばよえ〜んだった。
サクヤはしきりに窓の外を確認していたよな……。
そして、サクヤが理解したと言った場所は凍りついた姿見の近くだ。
半ばズルだが、俺は姿見のところに行って、窓を見る。
なるほど、窓のひとつが球体で埋め尽くされている……が、よく分からん。
しばらく眺めてみるが、変化はない。
参ったな。
何か違うらしいが、何が違うんだ?
「あ! 凄いです!」
ばよえ〜んが叫んだ。
ばよえ〜んは姿見を見ていた。
答えは、分かってしまえば簡単だ。
ようは、鏡に映った窓いっぱいの悪魔の鏡を見れば良かったのだ。
鏡の中に、雲の中に入っていく空中階段が見える。
それを見てからなら、女王の部屋のテラスから続く、空中階段が見えるようになるというものだった。
「ゐー!〈ファンタジーな演出だな〉」
だが、手すりが欲しい。見た目は綺麗だが、足を滑らせたりしたら大変だ。
俺はおっかなびっくり、空中階段を昇っていく。
ばよえ〜んなんか、階段から身を乗り出さんばかりに下を覗いている。
他のみんなも平気そうだ。
これが、若さか……。
「グレちゃん、おじいちゃん?」
「ゐー!〈動くなバカ! 落ちたらどうすんだ!〉」
静乃をおんぶしている身だからな、慎重になって当たり前だ。
失う怖さを知っていると、人は臆病になっていくものだ。
俺はどうにか空中階段を昇りきったのだった。
静乃、ケラケラ笑うな。




